84話 調査~その五~
翌朝……目を覚ますと。
「むにゃ……僕、お腹いっぱいですぅ」
「はにゃ……えへへ〜」
何やら幸せそうな表情の二人が目に入る。
「随分と幸せそうですね?」
「リン、おはよう。まあ、動くに動けないけどね」
「………起こします」
「えっ? い、いや、寝かせとこうよ。昨日の疲れがあるんだし」
「むぅ……」
えっ? なんで不機嫌なの?
「ねね、姐さんも正直——ぐはっ!?」
ものすごい勢いでレオが吹っ飛ばされた!
「全く、そんなところまでライル様に感化されて」
「クク、素直にやってもらえば良いではないか?」
「ベア……あなたまで」
うーんと……なるほど!
「リンもここで寝たかったんだね。ごめんね、独占しちゃって」
「くははっ!」
「ははっ! 姐さん! ボスは鈍感ですぜ! いてて、笑ったら腹が……」
「う、うるさいです! もういいです!」
あれ? 違ったの? じゃあ、何だっただろう?
「あれ……朝ですか」
「はにゃー」
「ほら、みんなが騒ぐから」
「す、すみません」
「すまん」
「すいやせん」
全員が起きてしまったので、外に出てみると……。
「うわぁ……綺麗です!」
「僕、こんな景色見たことないです!」
「うん、綺麗だね」
二人の言う通り……。
山の上から見る、朝焼けに染まる景色は最高だった。
「じゃあ、ご飯にしようか」
「ああ、どうする? 一応、俺たちで解体はしておいたが……」
「ありがとね……といっても、ここでは焼くしかないか」
いつも通り石の柱を作り、中央に鍋を置く。
その工程をもう一度やる。
幸い寝ていたところの草があるので、それで火をつける。
「やっぱり、量はないね」
「ほとんど翼ですから。その翼も、肉がほとんどありませんし」
「手羽先みたいにしたいけど、持って帰るのは邪魔かぁ」
仕方ないので足の部分をスープの出汁にして、腹回りを焼いて食べることにする。
「僕が焼きますね!」
「じゃあ、そっちは任せるよ」
俺は拾ってある山菜を入れ、塩と胡椒で味付けをし……仕上げに醤油を垂らす。
「これで良し。あとは煮込むだけだ。リン、ちょっと付き合って」
「はい? 良いですけど……」
リンを伴って、崖の上から森を見下ろす。
「うーん……やっぱり、俺には見えないか。リン、こっからバイスンの群れとかブルズがいる場所はある?」
「はい?」
俺の本来の目的はこれである。
決して、わさびが欲しかったわけではない……断じてないよ?
「目が良いリンなら、見えるかもしれないと思ってさ」
「なるほど、そういうことですか……少し待ってください」
横を見ると、リンは目を閉じている。
「ライラ様の言うことが正しければ、目に闘気を集中するイメージ——見えました」
「ほんと!?」
「ただ……かなりブレますね……これはきついです……えっと……あそこの方向に、バイスンらしき群れが……」
「待ってね! ふんふん、バーバラがあそこだから、大体あの辺りか……」
あとは、みんなで集めた情報を元に詳しい地図を作っていけば良い。
そうすれば、生息地も割り出せるはずだ。
「ふぅ……疲れました」
「なんだろ? 魔力を大量に使う感じかな?」
「多分、そういうことなんだと思います」
「でも、ライラ姉さんの仮説は正しかったってことだね」
「ええ。まさか、こんな使い道があるなんて。そもそも、戦いにしか使えないものと思い込んでいました……マルス様の魔法と一緒で、使い方次第ってことですか」
すると……。
「師匠〜!!」
「わかった! すぐに行く!」
みんなの元に戻ったら、食事の時間となる。
「頂きます……固いなぁ」
パサパサしてるし、あんまり美味しくないや。
鳥の胸肉をさらに絞った感じ?
「そうっすか? オレは美味いっす」
「私もですね」
「俺もだ」
「わたしも!」
「僕も!」
「あれー? 俺以外、みんな美味しいのか」
前から思ってたけど、獣人と人族では味覚も違うし、好みもあるのか。
ワイバーンは獣人族専用とか?
もしそうなら……食料の取り合いにはならないかも。
結局、スープで無理矢理押し込んで……。
「た、食べた……顎痛い」
「人族には厳しい食べ物みたいですね」
「そうらしいね。とりあえず、腹は膨れたし……帰ろうか」
無事に山を下り、川に沿って歩いていると……。
次の瞬間、川から何かが飛び出してくる!
「舌!? ——風よ!」
昨日みたいに油断はしてないので、咄嗟に風の刃を放つ!
その長い舌は千切れ、地面でビクビクしている。
「ゲゴォ!?」
「カエル?」
川から出てきたのは、まさしくカエルそのものだった。
ただし……大きさは三メートルを超える。
多分、俺くらいなら丸呑みできそうだ。
「ゲッコウか!」
「ベア、知ってるの?」
「ああ、母から聞いたことがある。川の上流に住む魔物だ。水中に潜み、獲物が近づいたら舌を出してくる。そして、そのまま捕まえて……飲み込む」
「うげぇ……やだな」
「どうします?」
すると……。
「ボス、たまにはオレにやらせてください」
「レオ……良し、君に任せるよ」
「うっしゃ! 行ってきやす!」
レオが前に出て、ゲッコウと対峙する。
「大丈夫かな?」
「平気です。レオとて強者と言われる獅子族です。単純なパワーだけなら、私よりも上なはずです」
「そっか……なら、信じるしようか」
前の世界では、仮にも百獣の王と言われてた力を。
……もしくはヒモの王とも言うけど。
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