83話 調査~その四~


 その後、山を登っていき……。


 下を見下ろせるくらいの場所に到達する。


「随分と来ましたね」

「はぁ、はぁ……ここら辺にしとこうか」


 辺りも暗くなってきたし……。

 俺以外は元気だけど、俺の体力が限界だった。

 高い崖なんかはおんぶしてもらったけど、なるべく歩くようにしたし。


「では、あの洞窟で一休みしましょう」


「うん? 山の斜面に洞窟が見えるね」


「ええ。ベア、レオ、中を調べてください」


「おう」「へい!」


 二人に任せて、俺は休憩を取る。


「ん? あれってバーバラかな?」


「ええ、多分そうですね」


 見晴らしの良い場所から、一箇所だけ明るい場所が見える。

 それだけ、山を登ってきたってことだろう。

 といっても、まだまだ森は広く……全容は見えてこないけど。


「わぁ……綺麗ですね!」

「光ってるよぉ〜!」


 兎犬コンビは、今日も可愛いなぁ。


「主人!」

「ボスッ! 警戒をしてくれ!」


 ふりかえると、レオとベアが慌てて走ってくる。


「どうしたの!?」

「卵があった!」

「多分、魔獣の巣になってます!」


 次の瞬間——甲高い声が鳴り響く!


「グキャャャャ——!!」

「くっ!?」

「ラビ! シロ! 上です!」

「ふぇっ!?」

「わぁ〜!?」


 リンの視線の先には……翼竜が飛んでいた。


「ワイバーンですか!」

「シロ! ラビ! 早くこっちに!」

「あわわ……」

「こ、腰が……」

「ガァー!」


 翼竜が、明らかにシロとラビを狙って……瞬時に判断する。


「家族に手を出すなよ——ウインドカッター」

「ガァァ!?」


 素早い! 咄嗟に上昇して躱した!

 でもそれ以上に、暗くて見え辛い!


「でも、隙は作った」

「充分です!」


 リンが駆け出して、二人を担き……すぐに戻ってくる。


「ご、ごめんなさい……」

「び、びっくりしましたぁ……」

「仕方ありませんね。ワイバーンはC級ですから」

「なるほど……強いってことか」

「平気か!?」

「ボスッ!」


 ひとまず、全員が揃う。


「どうします?」

「攻撃できるのは俺だね。じゃあ、少し溜めるから護衛よろしく」

「お任せを」


 目を閉じて集中……。

 簡単な魔法は避けられるし、ダメージも大したことなさそうだ。

 強力かつ明るい魔法……それでいて、避けられても問題ない魔法を……。


「燃やし貫けヒートレーザー灼熱の熱線


 両手で三角を作り、そこから魔法を発動させる!


「ガァ!!」

「上に避けましたよ!」

「問題ないよ——今なら見える!」


 そのまま、魔法を避けた方向にやれば……。


「ゲギャャ!?」


 片方の翼を炎の熱線が切断する!


 そして……地面に落ちてくる。


「リン!」


 俺が言う前に、すでにリンは駆け出していて……。


「シッ!」

「ガ……」


 居合斬りによって、ワイバーンの首を落とした。


「見事な連携だ」

「まだ、オレ達にはできないっすね」

「す、すごいです!」

「御主人様が言う前に走り出してました!」


 すると、得意げな表情をしたリンが戻ってくる。


「ふふ、まだまだ譲れませんからね。戦いにおいての、マルス様の一番は」

「うん、頼りにしてるよ」

「はい、これからも頼ってください」



 その後、死体の前に集まり……。


「さて、どうしようか?」

「多分、こいつの巣だったのでは?」

「やっぱり、そうだよね」

「あの洞窟の奥には、卵以外はなかった」


 ふむ……じゃあ、洞窟内のが安全かも。

 今みたいに空から来る奴もいるし……。


「じゃあ、洞窟内で一夜を過ごそうか」


 全員が頷き、洞窟内に移動する。


「じゃあ、蓋をしておくかな——アースウォール」


 上の方に隙間を空けて、土の壁を洞窟の入り口に作る。


「これから大型魔獣も入ってこれないし、空気も平気でしょ」

「ボスッ、助かりやす」

「ああ、見張りが楽になる」

「たまには、二人にもゆっくりさせてあげたいしさ」

「ボス……」「主人……」

「ほ、ほら! 奥に行こう!」


 なんか、温かい視線を感じたので……照れくさいです。





 二人の言う通り、奥には巣があった。


「卵が二つあるけど……小さいね」

「ルリより小さいですね」

「あれが、あんなに大きくなるんだ」


 つまり……ルビが成長したらどうなるんだろう?

 ワイバーンで二メートルくらいあったから……恐ろしいね。


「ひとまず、卵は持ち帰るとして……どうしよう?」


 ワイバーンは大きいけど、その大半は翼が占めている。

 この人数の夕飯としては少ないかも。


「まずは、寝ませんか? そして、早朝から活動するのは?」

「なるほど……うん、それが良いかも。俺は暗いと戦力半減だし」


 幸い、巣があるところは柔らかな草で覆われるので……。


「じゃあ、俺たちはここで寝ようか」

「はいっ! お泊まりですね!」

「僕は初めてです!」

「そういや、シロは前回いなかったね」


 すると……。


「ごめんなさい……足を引っ張っちゃって。今回は役に立つつもりだったのに」

「何を言うのさ。きちんと役に立ってるよ。大丈夫、初めから上手くいく人なんていないから。少しずつ、成長していけば良いんだよ。俺だって、まだまだ未熟だけど……これから、一緒に頑張ろう」


 前の世界でも思ったことだけど……見切りをつけるが早すぎる人が多いよね。

 即戦力が求められるのはわかるけど……人それぞれ成長スピードは違うわけだし。


「師匠……はいっ! えへへ……くっついても良いですか?」

「わたしも!」

「はいはい、好きにしなさい」


 俺を挟んで二人が寝転がると……。


「ふふ……」

「クク……」

「良いっすね……」


 年長組から暖かい視線を向けられてしまう。


 なんだが恥ずかしくなり、俺は目をつぶって眠りに入る。


 両隣にいるラビとシロの体温を感じつつ……まどろみの中に……。

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