82話 調査~その三~

 そこから、さらに森の中を進んでいき……。


「そろそろ、休憩にしましょう。ちょうど、この辺りはひらけていますし」

「うん、そうだね」

「お弁当の出番ですね!」

「わたしたち、作りましたよ!」


 二人の明るさを感じると、心が温まるなぁ。





 いつものように土のドームを作り……。


「では、俺とレオで見張りをしよう」

「ボスは休んでください」

「うん、ありがとう」


 その言葉に甘えて、お手製の椅子に座る。


「師匠! 僕はブルズのおにぎりを作りましたよ!」

「御主人様! わたしは、シーサーペントのおにぎりです!」

「おおっ! まさしく俺が待ち望んでいたものだ!」


 今までもおにぎりはあったが……なんと、海苔がなかったのだ!

 それでは、真のおにぎりとは言えない!

 我慢できずに、俺はブルズのおにぎりを取り……。


「では、頂きます——ァァァ!」

「へ、平気ですか?」

「うめぇよ〜おっかさん……」


 白米に染み付いた甘辛のタレ……。

 パリッとした海苔の食感……。

 絶妙な塩加減と、柔らかいブルズのバラ肉……最高です。


「はい? 母上様が作ってたので?」

「あっ、ごめんなさい。そういうアレじゃないんだ」


 何となく、おにぎりって母親のイメージだったし。

 俺は前世も今世も含めて、母親の記憶はなかったんだった。


「「お母さん……」」


 あれ? シロとラビがしょんぼりしている……。


「どうしたの?」

「二人には、両親の記憶がないそうです。もちろん、私もですが……ベアとレオはありますが、それが良いとは限らないですし」


 確かに、元からいないのも寂しいけど……別れるのも、寂しいよね。


「ごめんね、二人とも」

「い、いえ!」

「だ、大丈夫です!」

「よし! 今日から俺がお母さんだ!」

「「ええっ!?」」


 すると、頭を軽くはたかれる。


「何を言ってるんですか」

「ありゃ……すみません」

「えへへ……でも、嬉しいです!」

「わたしも! だって、あの屋敷に住んでから寂しくないもん!」


 そして、二人が顔を見合わせ……。


「「でも……師匠(御主人様)はお兄さんって感じです!」」

「おおっ! 妹よ! 今日からお兄さんって呼んでも良いよ!」

「ややこしいからやめてください」

「おやおや? 嫉妬かな?」


 俺が二人に視線を向けると……。


「お、お姉さん!」

「お、お姉ちゃん!」

「な、何を言うのですか!」

「「ふえっ!?」」


 二人が悲しそうな顔をする。


「ち、違……」

「大丈夫だよ、ただ照れてるだけだから」

「ほんとですか?」

「そうなんですか?」

「……好きにしてください」


 そっか……みんな、親がいないんだよね。


「まあ、兄さんとか姉さんとかは置いといて……俺たちは、一緒に暮らす家族みたいなものだね。まだ会ったばかりだけど、過ごした密度は高いし」

「家族……僕が?」

「わたしも?」

「そうですね、それは合ってるかと」

「えへへ〜」

「嬉しいです!」


 その笑顔を見た俺は、外に向かって……。


「二人もだからねー!?」

「くははっ!」

「ボス、聞こえてますよ!」


 二人からも喜びが伝わってくる。

 美味しいご飯と、気心知れた仲間……幸せな気分になるよね。




 その後、ベアとレオにも食べさせて……。


「じゃあ、再開といこうか」


 再び川に戻り、上っていく。





「結構奥の方まで来てるけど、まだまだ先がありそうだね」

「そうですね。今回は道も整備されてますし、真っ直ぐに進んでいるだけですから……おそらく、未知の領域まで来てるかと」

「そっか……じゃあ、ますます気をつけないとだね。リンにばかり負担はかけられないし」

「ふふ、良いんですよ。私の好きなことですから」

「リンは俺に甘いなぁ」



 そのまま歩いていると……。


「あれは? ……まさか!」

「マルス様! 一人では危険です!」

「おっと、そうだった……アブナイアブナイ」


 駆け出そうとしたら、リンに止められてしまった。


「全く……どれですか? 一緒に行きますから」

「うん、お願い。じゃあ、みんなも付いてきて」


 はやる心を抑えて、慎重に近づく。

 草の形状、条件共に一致してる。

 綺麗な川、豊富な水源、山の中の涼しい場所……。


「……リン、あれを抜いてみて」

「あの草ですか? ……まあ、わかりました」


 リンが、その草を引っ張ると……。


「出た! 間違いない——わさびだ!」

「はい? これなんです?」

「わさびだよ!」

「いや、だから……もう良いです、いつものことですね」

「うぉぉぉ!! これで本物の寿司が食えるぞォォ——!!」


 蕎麦なんか作っちゃったりして! 天ぷらとか良いね!

 いや……バイスンをわさび醤油で食べるのも良い!


「ボス、あっちにいっぱい生えてますぜ」

「おおっ! ほんとだ! レオ! あるだけ担げる!?」

「へいっ! オレに任せてください!」


 みんなで協力して、レオが背負っている籠の中に入れていく。


「ふぅ……こんだけあれば良いかな。この道順を覚えておかないと」

「大丈夫です! わたし、やってますから!」


 ラビはシルクから色々と教わっているようだ。

 ドジっ子だけど、意外と頭は良いらしい。


「さて、どうします? 今なら、ギリギリ日が暮れる前に帰れますけど」

「うーん……いや、もう少し山を登っていこう。そこから下を見下ろして、何がどうなってるのか確認しておこう」


 俺の目的は果たしたけど、まだ調査したとは言えないし。


 できれば、領主としての目的のモノが見つかると良いんだけど……。

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