79話 調査~その一~

 その後、俺達は森の中へと進み……。


「領主様! ここら辺は安全です!」

「あっちには他の連中も行ってます!」


 道中で、冒険者や兵士達と出会う。

 もちろん、獣人と人族の混合パーティーだ。

 一応決まりとして、五人組で編成するように命じている。

 魔法使い一人、獣人二人、人族二人って振り分けだ。


「ありがとう! じゃあ、あっちに行ってみる!」

「「お気をつけて!!」」


 うんうん、うまくやってるようで良かった。

 森の中も、以前は全く先が見えないし、景色が変わらなかった。

 でも今は、先も見えるし、所々人の手が入ってるから変化している。


「この辺りなら、建物も作れそうだね」

「そうですね」

「ボス、こんな手前に作ってどうするんで?」

「いや、今のままだと……もし魔物が攻めてきたら、一番に被害を受けるのは獣人達が暮らすエリアだからさ」


 獣人達の暮らすエリアの真後ろには、魔の森が広がっている。

 高い外壁を超えることはないだろうけど、壊すことは可能だと思う。

 それに……万が一ってこともあるし。


「主人……感謝する」

「師匠! ありがとうございます!」

「御主人様〜! 凄いです!」

「いやいや、領主として当然のことさ……あれ? 今、それっぽいこと言わなかった?」

「それさえなければですね」

「ボスは一言多いからなぁ」

「むむっ……君達、尊敬が足りないんじゃない?」


 最近、ベアやレオまで扱いが雑になってきた気がするなぁ。

 すると……。


「えへへ、僕たちは尊敬してますよ!」

「はいっ! わたしもです!」

「ウンウン、君たちはいい子だ。あんな大人になってはいけないよ?」

「マルス様にだけは言われたくないですね」

「ウンウン、姐さんの言う通りっす」

「ククク……愉快な人だ」


 アレ? 確かに……盛大なブーメランが返ってきた気がする。





 その後、魔物に出会う事もなく……川に到着する。

 冒険者や兵士達が、きちんと仕事をしている証拠だね。


「さすがラビだね」

「えへへ〜」


 川の流れの音を感じられるほどの聴力を持つのは、兎獣人くらいらしい。

 やはり、草食獣ということなんだろうか?


「他の兎獣人も、こんなに耳が良いの?」

「う〜ん……多分、わたしは耳が良い方みたいです」

「へぇ? そうなんだ」

「実は……マルス様がセレナーデ王国に行ってる時、ライラ様に言われたんです」

「うん?」

「わたし、戦う時に闘気は使えないんですけど……その闘気ってやつを聴力強化に使ってるんじゃないかって……」


 ……ハァ〜色々思いつく人だなぁ。


「僕も色々聞かれました!」

「俺もだな。体術や闘気を使うときのイメージなど……考えたこともなかったが、効率が良くなった気がする」

「そういえば……私の場合は、目に闘気を使っていると言われました」

「へっ? そうなの?」

「ええ、この間言われました。何でも、私の見切りは異常らしいとのことで」

「確かに……どんな攻撃も避けるし、カウンターを決めるもんね」


 流石は、研究者としても一流の人だなぁ。

 ここなら獣人達も、快く教えくれるから研究も捗るのかもしれないね。


「ベアの頑丈さ、リンの俊敏さ、レオの怪力、ラビの耳、シロの鼻……獣人でも、それぞれに特性があるってことだね。俺たちが使う四種類の魔法のように」

「そういう考え方もできますね」






 さて……川に到着したので。


「主人、どうする? またサーモスを探すか?」

「そうだね……もちろん、それも欲しい。でも、帰りで良いかな。まずは先に進もう。リン、この先は山になってるのかな?」

「おそらく、そうですね」

「じゃあ、調査のついでに探し物をしよう。えっと……」


 俺はみんなに探し物の特徴を教え、川を上っていく。






 川の道幅が広くなってきた頃……。


「主人、魔物がいる」

「えっと、ゴブリンとオークか」

「良い機会ですね。シロ、貴女が仕留めなさい」

「は、はい!」

「じゃあ、オレがフォローするぜ」

「お、お願いします!」


 俺達は立ち止まり、そこで様子を見る。


「グキャー!」

「ブルァ!」

「こ、怖くないもん!」


 一直線にシロが駆け出し、その勢いのまま——


「ヤァァァ!」

「グケェ!?」


 ゴブリンの腹を貫く!


「ブゴォ!」

「遅いよっ!」

「ブルァ!?」


 華麗なステップで、オークの槍を躱し——同じように腹を貫く!


「おおっ! すごい!」

「ふふ、やりますね。どうやら、自分の技を身につけたようです」


 シロがやったのは、貫手ってやつだ。

 指先をピンと伸ばして、貫通力を高める技だ。

 おそらく、指先に闘気をまとっているのだろう。




 そして……五体いたが、結局シロ一人で倒すことができた。


「ぼ、僕が?」

「おいおい、助ける必要がなかったぜ」

「シロ、良くやりましたね」

「シロちゃん! すごいです!」

「ほう? 見違えたな」


 俺はシロの方に歩いていき……頭を撫でる。

 昔、リンにしたように。


「シロ、頑張ったね」

「あ、ありがとうございます!」

「よし、じゃあ……先に進もうか」


 魔石を回収して、再び川を上っていく。





 それからしばらく経つと……前を歩いているベアとシロが立ち止まる。


「むっ……主人よ」

「師匠!」

「どうしたの?」

「血の匂いがする……」

「はぃ……それも濃い匂いです」


 まず確認することは……。


「ラビ、争ってる音は?」

「……聞こえないです」

「死体があるか、誰かが戦った後ってことか……もしくは、冒険者達かも」

「確認する必要がありますね」

「うん、そうだね。全員、隊列を整えよう」


 頑丈なベアを先頭に、リン、俺、ラビ、シロ、レオの並びで慎重に進んでいく。


 ジャングルのような森の中……静けさが支配する。


「……なんだ?」

「嫌な感じですね」

「リン? ベア?」

「マルス様、私の側に——シッ!」

「うわっ!?」


 リンが振り返ったと思ったら、いきなり抜刀した!


「主人!」

「ラビ! シロ! オレから離れるな!」


 そして、ベアが俺を引っ張る。


「なに!? どうした……うげぇ……」


 俺の視線の先では……リンが、どでかいカマキリと鍔迫り合いをしていた。

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