77話 マルス、頑張る

 その後、自室に戻って……。


 リンやシルクにも、同じことを言ったら……笑われてしまった。


(うーん、マルス君は疎外感を感じます)




 まあ、気を取り直して……。


「じゃあ、メンバーを決めようか」

「まずは私ですね」

「今回は、私はお留守番ですわ。セシリアさんやライラ様と話し合いをするので」

「うん、お願いするね。じゃあ、シロとラビ、ベアとレオで行くか」

「ええ、それが良いかと。シロも、以前よりは足手まといにはならないでしょう」

「キュイ!」


 ルリが、俺の周りをパタパタ飛んでアピールするけど……。


(ドラゴンとはいえ、まだ産まれたばかりだし……)


「ルリは連れていけないよ。今回は、割と奥まで行くつもりだし。君は、まだ弱いからね」

「キュイー……」

「ルリちゃん、今回は私とお留守番してましょう?」

「キュイ……」


 それでも、ルリは不満げな表情に見える。


(成長したから、色々とやりたい年頃ってやつかな? ……たしか、何か課題を与えると良いって、前の世界で聞いたことあるな……)


「ルリ、君にはシルクの護衛を命じる」

「キュイ?」


 そのつぶらな瞳で、俺をじっと見つめてくる。


(これは、嘘は通じないな……じゃあ、嘘を言わなきゃいい)


「俺の大事な女の子だから、守って欲しいんだ……出来るかな?」

「ひゃい!?」

「キュイ?」


(なんか、シルクがモジモジしてるけど……まあ、いまはいいや)


 その目を見つめ返して……。


「シルクはね……家族以外で、俺にとって初めて出来た理解者なんだ。こんな俺を、ずっと見捨てないでいてくれた」

「マ、マルス様……」

「キュイー」


(そうだ……言葉にして思い出した)


 俺がダラダラしてても、みんなに馬鹿にされても……彼女だけが、おれを庇ってくれた。

 俺はそれに甘えてばかりで……彼女に、何も返せていない。


「ルリ、シルクを守って欲しいんだ。俺がいない時に、その代わりにね……できるかな?」

「キュイ!」


 どうやら、わかってくれたらしい。


「よし! 良い子だっ!」

「キュイキュイ!」


 両手で持ち上げ、部屋の中を走り回る。


「マルス様……えへへ、嬉しいです……」

「ふふ、良かったですね」


 儚げに微笑んでいるシルク横目で見て……。


(うん? 何か重大なことを忘れているのような……)


「あっ!」

「どうしたんですの?」

「リン! ちょっときて!」


 リンだけを呼んで……。


「どうしたんですか?」

「キュイ?」

「シルクとお出掛けしてない……どうしよう?」


(俺、一緒に出かけない?って誘ったのに、未だにしてないや)


「そういえば、何日か前に言ってましたね……」

「い、今から誘っても遅いかな? 明日には、泊まりで出掛けるかもだし……」

「なるほど……では、今すぐに誘ってください。帰ってきたら、出かけようと」

「わ、わかった……ガンバル」


(お、女の子をデートに誘うって……どうすりゃ良いの? えっと……前世の俺は関係なく、マルスとして普通に誘えば……)


 俺は戸惑うシルクに近づいていき……。


「どうしたのですか?」

「あ、あの! お、俺と……」


(だ、だめだ! 言葉が出てこない!)


「マルス様?」


 俺を下から覗き込んでくるシルクは……あざとい!

 両手は後ろで組んでるし、上目遣いだし!


(というか……俺、こんなに可愛い子にデート申し込んで良いの?)


「シルクってば、綺麗な銀髪してるし、顔も可愛いし、スタイルも良いし……」

「ふぇ!? な、なっ——!?」

「あれ? ……声に出してた?」

「はい、思いっきり」

「キュイー!」

「あぅぅ……」


(はぁ……我ながらなんと余裕のないことだ。前世の記憶がない方が、シルクに対しては良かったのかもしれないなぁ……昔は、どうやって誘ってたっけ? ……いや、誘ったことがなかったんだ)





 ◇



 そうだ、いつも俺がダラダラしてると……。


「マルス様!」

「やあ、シルク。今日も元気だね」

「マルス様は、相変わらず怠けてますの?」

「うん、見ての通りさ。ソファーという悪魔の発明をした人が悪いね」

「また、そういうこと言って……お出かけしますわよ!」

「えぇ〜めんどく」

「行きますわよ?」

「は、はい!」


 そうだ……そうやって、俺を無理矢理外に連れ出してくれた。




 街を散策して……。


「マルス様は、何がしたいですの?」

「何もしたくないよ?」

「そうですか……」

「いや、そんな暗い顔しないで。シルクには笑った顔が似合うよ」

「もう! そんな顔にさせてるのは誰ですか!」


 そうだ……いつも、叱られていた。


「はい、俺ですねー」

「マルス様は優しいし、頭も悪くないのに……」

「別に、婚約破棄したくな」

「しませんわ」

「シルク……」

「私は、マルス様を信じてますわ」

「……そう」


 我ながら最低だ……彼女が、励ましてくれてたのに。



 ◇



 そうだ……今度は、俺から言わないと。


「し、シルク!」

「は、はい?」

「調査から帰ってきたら——俺とデートしてください!」

「ふぇ!? あぅ、えっと……はぃ……」


(よし! いえた! 俺、頑張った!)


 ……あれ? なんか、死亡フラグっぽくない?


 いやいや、ここは異世界だし!


 どうしよう?


……今更取り消せないよね?

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