76話 それぞれの関係性

 シロを見送った後、屋敷の中を歩いていると……。


(通路の向こうから聞こえる、この声は……)


 ヨルさんとマックスさんが……ベアと何か話しているのが聞こえる。


「珍しい組み合わせだよね?」

「そうですわね」

「何か、問題があったのかもしれません」

「キュイ?」

「ルリ、静かにね……少し、様子を見てみよう」


(なんだろ? 少し聞き耳を立ててみようっと……)


 俺たちは曲がる直前で止まり……話を聞く。


「なるほど、獣人の体術というのは凄いですな」

「そうです! 武器に頼る我々では難しい動きでした!」

「うむ、我々は武器を使うことが苦手だ。自分の身体が一番の武器だからだ。故に、闘気を纏った徒手空拳の戦いを基本とする。ちなみに、リン殿は特殊な例だ。お主達人族は、細かい作業が向いている。故に、武器の扱いが上手いのだろう」


(ふむふむ、言い合いをしてるわけじゃないと。それぞれの特徴を確認してるってことか)


「その体術を教えてもらうことはできますか?」

「おおっ! ヨル殿! 名案です!」

「……獣人である俺に教えを請うと?」

「関係ありませんよ。マルス様のいう通りでした……話してみれば、何も我々と変わらないということを。ここのところ、貴方と接する機会が多かったので……それで気づきました」


(……そっか。ベアは館の護衛のために、バーバラに残していくことが多かった。その間に、交流してたってことか……)


「俺は多分……知らないから怖かったんだと思います。もちろん、俺たちのしてきたことが許されるわけではないことは」

「もういい」

「そ、そうですか」

「……主人にも言ったが、俺は人族を許さない。だが、人族全部を憎むのは辞めた。獣人にも悪い奴もいれば良い奴もいる……人族も同じだと気づいたからだ」


(ベア……そうなんだよね。そんな当たり前のことをわかってない人が多すぎるんだよね)


「で、では……?」

「俺で良ければ体術の稽古をつけよう」

「あ、ありがとうございます!」

「これで、マルス様の力になれる!」

「ああ、任せてくれ。ただ……俺に人の優しさを教えてくれた主人のためというなら——手加減はしないぞ?」

「「望むところです!!」」


(……二人とも、昨日の会話を気にしてるのか。自分達には荷が重いって……)


「「マルス様……」」

「うん、来た道を戻ろう。この話は聞かなかったことにしよう」

「キュイ」


 全員が頷き、その場を離れる。







 遠回りするため、、厨房の前を通ると……。


「あっ! ご主人様!」

「師匠!」

「二人して何してるの?」

「明日のお弁当を作ってます!」

「わたしもお手伝いです!」


(この組み合わせを見てると……癒されるよね)


「あら、偉いですわね」

「ええ、明日が楽しみです」

「えへへ、頑張ります!」

「わたし、おにぎりってやつを作ります!」

「おおっ! 楽しみだね!」


(俺がメモに書いた甲斐があった! 魚はまだないけど、漬け物や肉はあるし……楽しみだ)


 その後、二人は仲良くお喋りして、厨房に戻っていく。


「やっぱり、年が近いから仲良いね」

「少し、シロのがお姉さんですけど」

「ふふ、癒されますわ」

「キュイ!」


(うんうん、犬耳とうさ耳の少女の戯れ……ほんわかするよね)






 再び歩き出すと……食堂から、大きな声がする。


(この声は、ライル兄さんとレオだね)


「クソォォ! 姉貴のやつ!」

「まあまあ、落ち着いて」

「なんで楽しくお茶してんの!? 俺もしたい!」

「別に、混ざればよくないっすか?」

「姉貴とお茶……無理無理! そんなん……ブルブルしてお茶こぼすわ!」

「ハハッ! それもそうっすね!」

「笑うなっての!」


(なるほど、レオと兄さんは相性いいかもね。二人とも豪快というか、細かいことは気にしないし)


「おっ! マルス!」

「あらら、気づかれちゃった」

「マルス様、私達は先に戻りますね」

「ん? ……ああ、そういうこと」


 シルクの腕の中で……。


「ピスー……プス〜」

「可愛いですわ……私もいつか……はぅ……」

「はい?」

「な、何でもありませんわ! リン! いきますわよ!」

「はいはい、わかりましたよ」


 二人は仲良くお喋りしながら、去っていく。


(あの二人も、相変わらず仲良いよね……あれ!? もしかして……俺はボッチなのでは?)


 リンとシルク、ライラ姉さんとセシリアさん。

 ライル兄さんとレオ、シロとラビ。

 そしてベアは、マックスさんとヨルさんと。

 ルリは、みんなから可愛がられてる。


(あれれー? ……マルス君だけボッチです!)


 それに気づいた俺は、ライル兄さんに突撃する!


「にいさーん!」

「うおっ!? どうした!?」

「俺だけボッチですよ! 酷くないですか!?」

「あん? 何訳の分からんことを……」

「ボスッ、どういうことです?」


 俺は思ったことを伝えてみる。


「ククク……」

「プププ……」

「二人とも?」

「「くははっ!!」

「なんで二人して笑うの!?」


(もしや、みんなして俺をハブにしてるの!?)


「何を言ってるんだか……」

「ほんとですよ……ボスらしいっすけど」

「それもそうだな……まあ、気にすんな」

「そうっすよ。ボスは、そのままでいてください」

「う、うん? ……よくわからないけど……」


 食堂から出た俺は……釈然としないまま、一人で廊下を歩いていく。


(結局、どういう意味だったんだろう?)

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