75話 シロの成長、リンの成長

 それから数日後……。


いよいよ、明日から泊まりで調査に行くので、出かける準備をします。


 庭にシロを呼び出して……。


 ルリを抱いたシルクと共に、リンとシロを見守る。


「さて、シロ。貴方を引き取ってから一ヶ月が過ぎましたね」

「は、はいっ!」


(この一ヶ月きちんとした生活を送っているからか、シロの身体は急成長してきたよね)


 薄汚れていた毛皮は白く綺麗に、ガリガリだった身体も少し肉がついてきた。

 まだ十二歳だから、これからでも間に合うはずだ。


「なので、今日は試験を行います。料理以外にも、貴方には役に立って欲しいとマルス様が望んでいますから」

「師匠?」

「うん、君には新しい食材を探して欲しいんだ。ある意味、そのために俺の知識を覚えさせたからね。食べれる物や、料理に使えそうな物がよりわかるようにね」

「わぁ……そうだったんですね! 僕、頑張ります!」


 俺は自分が知る食材の特徴を書いて、それをシロに渡している。

 シロの鼻と料理の知識があれば、色々と発見できるかもしれないから。


(そうすれば、もしかしたら……欲しいモノが手に入るかも)


「では、早速始めましょう。まずは闘気を纏えますか?」

「えっと……えいっ!」


 ちなみに、人族には見えないが獣人族には闘気が見えるらしい。

 獣人族には魔法は見えても、魔力が見えないのと一緒だ。


「ふむ……全体的に纏えてますね。では、かかってきなさい」

「——いきます!」


 思ったより素早い動きで、シロがリンに迫る。


「ほう?」

「ヤァ! エイッ!!」


 シロの両手から繰り出されるパンチを、リンが片手で捌いていく。


「おーっと! シロ選手の怒涛の攻撃! しかぁし! リン選手は華麗な手捌きで受け流していく! これが力量の差かァァァ!」

「な、何ですの!?」

「キュイ?」


(二人が驚いているが……俺は構わない!)


「シロ、腰が入っていませんよ?」

「こ、こうかな——ヤァ!」

「良いですね、その調子です」


 シロは腰のひねりを入れつつ、拳を繰り出す。


「おおっと! シロ選手の拳のスピードが上がったぁぁ! だが、それでもリン選手には届かないィィ!」

「キュイキュイ!」

「ルリちゃんは真似しちゃダメですわよ?」


(なんか、シルクの視線が冷たいけど……止められない!)


「次は、こっちからいきますよ——シッ」

「わわっ!?」

「今度はリン選手の拳の連打だァァァ! シロ選手、辛うじて受け止めている! しかぁし——イタイ!?」

「うるさいです」


 どうやら、リンに頭を叩かれたらしい。


(えっ? 全然姿を捉えられなかったんだけど? 五メートルくらい離れてたのに……一瞬で間合いを詰めたってこと?)


「全く……シロ、今の動きが見えましたか?」

「は、はい! 追うだけなら……」

「ならば、ひとまず合格です」

「えっ!? で、でも、一発も当たらないのに……」

「今はですね。大丈夫ですよ、シロなら強くなれますから」

「リンさん……はいっ! リンさんも弱くて泣き虫だったって聞きました! 僕も、頑張って強くなります!」

「へぇ?」


 その瞬間——リンの顔色が変わった。


「やあ! みなさん! 僕は用事を思い出したので——さらば!」


(フハハッ! 戦略的撤退である!)


「マルス様——どちらに?」

「ひぃ!?」


(はやっ! 一瞬で回り込まれたよ!?)


「何を話したので?」

「い、いやぁ〜む、昔話を少々……」

「ちょっと、裏に来てもらいましょうか?」

「お、俺は何も持ってないよ! ほら! チャリンチャリンしないでしょ!?」

「何を言ってるので? ほら、いきますよ」

「ま、待って! やめてぇぇ——!」


 さながら……校舎裏でカツアゲされる者のように、俺は連行されるのでした。








 でも、色々と尋問されたけど……最後には、モジモジしながら……。


「は、恥ずかしいので……あまり言わないでくださいね?」


 という、上目遣いのデレが出たので満足です!








 その後、カツアゲ……じゃなくて、尋問から戻ってくる。


「確認するけど……リン、合格ってことで良いのかな?」

「はい、ゴブリン程度には引けを取らないでしょう。闘気さえ使えれば、オークとも戦えるはずです。シロ、よく頑張りましたね」

「あ、ありがとうございます!」


(なるほど……闘気を使えることが、獣人にとっての一定条件なのか)


「そっか……シロ!」

「は、はいっ!」

「今回はついてきてもらうよ!」

「っ!! が——頑張ります!」

「良い返事だね! じゃあ、明日よろしくね」

「はいっ! 僕、お弁当作ってきますね!


 満面の笑顔を見せて、走り去っていく。


「懐かしいですわね……」

「そうだよね」

「キュイ?」


 ルリが興味深そうに首を傾げる。


(やだっ! うちの子可愛い!)


「リンもね、あんな感じでしたのよ?」

「し、シルク様!?」

「そうそう、俺が褒めるとはしゃいで……ナンデモナイデス」


 冷たい視線が飛んできたので、俺は黙り込む。


(アブナイアブナイ、また裏に連れて行かれるところだった……)


「わ、私は……はい、そうでしたね」

「へっ?」

「貴方に褒められると、その日は一日中嬉しくて……また、明日から頑張ろうって思ってました」

「ふふ、そうですわ。よく、報告を受けてましたから」

「そ、そっか……じゃあ、シロにとってはリンがそうなんだね」


 その時、俺は凄く嬉しくなった。


 だって……自分がされて嬉しかったことを、人にしてるってことだから。


 あんなに泣き虫で弱かったリンがねぇ……。


 シロもそうだけど、リンも成長してるんだね。


 ……仕方ない、俺も頑張るとしますか。

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