幕間~マルス、念願のモノをいただく~
その翌日……俺は早速準備に取り掛かる。
本当は報告とか聞かないといけないんだけど……。
姉上が一日はのんびりして良いって……。
「ひゃっほー! 休みだ休み!」
「師匠、何を作るんですかぁ?」
はい、というわけで……お寝坊さんの俺は、お昼過ぎまで寝て……。
軽く食べた後、厨房にて調理をするところです!
(といっても、これは夕飯用だけどね)
「ふふふ……白米を炊くのさ!」
「僕、言ってくれたらやりましたよ?」
「シロ、ありがとう。でもね……白米は、炊く間も含めて楽しむんだよ!」
「はい??」
(まあ、百聞は一見にしかずというし……)
「まずは、やってみよー!」
俺は土鍋にすすいだ白米を入れて……吸水する。
(こうするとふっくら甘くなるからね!)
「その間に、汁物を用意しよう」
「これ、なんですか?」
「セレナーデで手に入れたアサリってやつだよ」
「ふぇ〜初めて見ました!」
「俺も、この……うん、文献以外では初めてだね」
(アブナイアブナイ……この国では見たことない人のが多いし)
「これも、師匠の氷魔法のおかげです!」
「そうだね。こういうものって、日持ちしないから」
「ほんとですよね!」
さらには……アレも、昨日から常温解凍しておいたし。
「これを本来は、塩水で砂抜きをして……」
「ふんふん……」
「まあ、あっちの人がやってくれるから平気だけど一応覚えといて」
「はいっ!」
シロは一生懸命にメモを取っている。
「大事なのは米の吸水の方だから」
「なるほど……それで、こんなに早めに準備するんですね」
「そうそう……いいかね、シロ——下準備も含めて料理なのだよ」
そう言い、自慢げにドヤ顔を決めたけど……。
「ふぁ〜勉強になります!」
とても眩しい笑顔を返される。
「……いい子だね、シロは」
思わず頭を撫でてしまう。
「ふえっ?」
(ふっ……ツッコミを欲しがるとは、俺の心も汚れちまったもんさ)
すると……後ろから相方が現れる。
「何してるんですか?」
「やあ、ツッコミのリン」
「誰がツッコミのリンですか。マルス様が変なことばかりするからです」
「まあまあ、良いじゃないの」
「それは貴方が言うセリフではないです」
「おおっ、冷静なツッコミ……!」
「べ、勉強になります!」
「しなくて良いですから。それより、出かける準備が整いました」
「おっ、じゃあ出掛けるとしますか」
その間に、都市の中を散策する。
リンとルリ……そして、ラビである。
つまりは、ルリ散歩である。
「キュイ!」
!「ま、待ってぇぇ〜!?」
「キュイー!」
「お、追いかけっこじゃないよぉぉ〜!」
飛んでいるルリを、必死にラビが追いかけている。
ルリはお出掛けしたからか、成長したからなのか……。
シルクの腕から飛び出して、あちこちに行きたがるようになった。
「だから、昨日の夜話し合いをして……ラビが自ら志願して、世話係をするって言ったんだけど……」
(何とも微笑ましい光景だね……ほっこりするわ)
「ふふ、平和ですね」
「うん、そうだね。だって……この光景を見て、人々が笑ってるもん」
人族も、獣人族も含め……みんなが微笑んでいる。
人は心に余裕がないと笑えない。
だから……少しずつだけど、良くなってるんだよね?
その後、農地を見て成長を確認したり……。
魔法使い達の成長を確認したり……。
帰ってきたことを、みんなに知らせていく。
更に……本日の宴のお知らせをする。
散歩が終わったら、部屋に帰って……。
ルリとラビを寝かしつける。
「マルス様、お疲れ様ですわ」
「ううん、散歩だしね。というか、シルクも休めば良いのに」
(シルクは、今日から書類を確認している……少し罪悪感)
「いえ、十分休ませてもらいましたわ。私はリンやマルス様のように戦う力はありませんから……」
「そんなことないよ。シルクみたいに、裏方で仕事してくれる人のが立派だよ」
「そうですよ」
「お二人共……えへへ、ありがとうございますわ」
すると、ライラ姉さんが……。
「ふふ、良かったわね? ついでにお願いでもしてみたら?」
「ふえっ!?」
「うん、俺に出来ることなら言ってよ」
「え、えっと……その……お、お出掛けをしたいですわ」
「うん? さっき出掛けた時誘った——イタッ!?」
リンに足を踏まれた!?
「な、なにすんのさ?」
「シルク様の顔をよく見てください……そして、考えてください」
(一体なんだって言うのさ……)
シルクを確認してみる……。
(両手の指と指をツンツンしてる……少し俯いてる……耳まで赤いね)
「……今度、二人で出掛けるかい?」
「っ——はいっ!」
顔を上げて……飛びっきりの笑顔を見せてくれる。
「で、では! 私は仕事がありますので!」
そう言い、部屋から飛び出していく。
(うわぁ……可愛い……どうやら、正解だったみたい)
「マルス、良くやったわ」
「マルス様、成長しましたね」
「フフフ、褒められて伸びるタイプです」
(そっかぁ……そういや、デートとかってしたことないや)
そして、仕上げである。
「まずは、昆布を水から煮出します」
「どうしてですか?」
「そうすることで、旨味と風味が増すからです。この時、決して沸かしてはいけません」
「ふんふん……」
その次は……。
「では、米を炊いていきます」
「こっちも平気です!」
大量の土鍋を用意して、火を入れていく。
次に、野菜類を切ったら……氷を入れたボウルを用意する。
「昆布の出汁を取って……一度冷やします」
「えっ?」
「こうすると旨味が凝縮されるんだよ」
「へぇ〜!」
次は……。
「解凍したアサリの出汁汁を入れて……」
「ふんふん……」
「これに昆布出汁を足していく」
「うわぁ……良い香りです! こう、鼻を抜ける感じです!」
(多分、海の香りってことだよね……そのうち、みんなも連れていきたいね)
その後、蒸し状態になった土鍋を移動させる。
そしたら、仕上げに……。
「ここに味噌を入れて……ネギを入れたらアサリの味噌汁の完成です!」
「お肉とは全然違う香りがします!」
「ふふ、そうでしょ? さあ、これも持って行こう」
(あっちで手に入れた味噌は、使いやすくて良いよね。今までのは麦味噌や豆味噌だったけど、米味噌に近いし……)
みんなで同じのを作っているので、それを広場に持っていき……。
「みなさん! 長い間留守にして申し訳ありません! お詫びといってはなんですが、お土産を用意しました!どうぞ、食べて行ってください!」
『おおぉぉ——!!』
その場は従業員に任せて、シルクとリンと食事をとる。
蓋を開けると……湯気と共に、ふんわりと甘い香りがする。
「いただきます——うみゃい!」
「な、泣いてますの?」
「確かに美味しいですけど……」
(日本人にとって、炊きたては別なんだよぉ〜!)
「これで味噌汁を飲む……出汁が効いてて優しい味だ……生きてて良かったぁ」
(出汁汁を飲むと、日本人で良かったって思うよね!)
「これは美味しいですわ」
「私は肉のが好きですね」
「まあ、そこは好みがあるよね」
(さて……メインディッシュはこれからさ)
「この白米に……イクラの醤油漬けを乗せ——かきこむ!」
(ァァァ! 冷えたイクラと温かい米のマッチング! これが良いんだよ!)
「これ……ぷちぷちして美味しいですわ!」
「むっ……これは癖になる感じですね」
「白米が無限に食えるからね!」
すると……。
「ま、マルス殿!」
「やあ、セシリアさん——きましたね?」
(フフフ、くると思っていたさ。何故なら、見たところ——イクラはないだろうからね)
「こ、これは素晴らしい……! 温かい米の上に冷たいコレを置くことで……口の中で絶妙にとろけていく……是非、我が国にも!」
「ええ、これから生息地を調査する予定です。その代わり……」
「ああ! 白米や海産物は任せておけ!」
よし……作戦は成功だ!
これで、ウィンウィンの関係になっていけば良いんだよね!
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