幕間その二~ロイスの憂鬱~

 ……フゥ、疲れたな。


「さて、ルーカス……次の仕事はなんだ?」

「民の食糧難についての報告ですな」

「なるほど……相変わらず、高位貴族共は出し渋っているのか?」


(奴らは、俺を青二才だと舐めているからな。確かに、俺が生まれる前から働いている奴らだ……そう思うのも、無理はないか……まあ、俺とてこのままではすまさんが)


 ようやく、アトラス侯爵家のローラとの結婚も決まった。

 これで、後ろ盾と共に改革を進めていければ……。


「ええ、自分達の生活が優先だと思っております。民達は、余った食材でもあげれば良いと……その民がいないと困るのは、自分達ということに気づいておりませんな」

「馬鹿な奴らだ……持って生まれた物を自分の偉さと勘違いをし、好き勝手に生きている。自分の身を削って民に奉仕しろとは言わないが……無駄な贅沢は勘弁して欲しいものだ」


(オーレン殿のような貴族は珍しい部類だしな……さて、どうするか)


「そうで……むっ? 誰か来ますな」


 宰相の言う通り、足音が聞こえてくる。

 そして……すぐにノックの音がする。


「国王陛下、バランでございます。ライラ様よりお手紙が届いております」

「なに? ルーカス」


 ルーカスが頷き、手紙を受け取る。


「こちらです」

「うむ」


 俺はその手紙を、受け取り……中身を確認する。


「なになに……あいつ、帰る気ないな?」


(随分と楽しいらしい……手紙の端々にマルスに髪を乾かしてもらったとか、マルスが美味しい食事を作ってくれたとか……まあ、あいつには苦労をかけたからな。しばらくの間は、好きにさせてやるか)


「むっ……なに? ……勝手なことをしおって」

「如何なさいましたか?」

「マルスが、南にある国セレナーデに向かったと書いてある」

「なんですと? その目的は?」

「なんでも……見たほうが早いな」


 ルーカスに手紙を渡し……思案する。


(全く……白い米が欲しいから他国に行く? 相変わらず、変なやつだ。そもそも、領主が居なくなってどうする? やはり、一度叱りつけるべきか?)


「いや……前もそれで失敗したではないか」


 俺の欠点はわかっている。

 少し頭が硬く、物事を決めつけてしまいがちだ。


(ふむ……もしかしたら、マルスなりの考えがあるのかもしれん)


「なるほど……かの国とは長い間交流が途絶えております。もしかしたら、それを憂いたのでは?」

「お前も、そう思うか……どちらにせよ、胃が痛いことには変わりはないが」





 ◇




 それから、二週間くらい経ち……。


 再び、ライラから手紙が届く。


「なになに……なにぃ!?」

「ど、どうなさりました!?」

「ま、マルスが……セレナーデ王国でやらかした……が、良い方向に転がったかもしれん」


 ルーカスにも、手紙の内容を見てもらう。


「はっ? あ、あのセレナーデ王国と交流を? あそこは、我が国とは断交をしていたのに……ヒート? 氷の魔石? 魔獣を退治……英雄になった?」

「……そうらしい。そこに書かれていることが嘘じゃなければな。そして、第一王女をバーバラに招待したと……はぁ、お兄ちゃんは胃が痛いよ」


(まあ……なにを勝手なことを思いはするが、結果的には良いはずだ。これで、食糧難が解決に向かうかもしれん。俺の方でも、手紙を書くとしよう。生前、両親が世話になった方でもある)


「かの王様は曲者ですからな。何か裏があるのかもしれませんぞ?」

「ああ、その可能性もある。手紙には書かれてないが……その王女が、マルスを狙っているとか?」

「なるほど……未だに信じ難いですが、類い稀なる魔法の才能を欲しがったと?」

「ああ、そういうことかもしれん。俺の方でも、油断しないように手紙を書くとしよう」

「むっ? もう一枚ありますぞ?」


 どうやら、衝撃を受けて見逃していたらしい。

 再び、手紙を受け取り……。


「なに? どれどれ……はぁ!?」

「こ、今度は何事ですか?」

「あのバカめ……ライルの奴」


 その手紙には、ライルが第一王女に惚れてしまったとある。


「これは……どうですかな?」

「まだわからん。もしや、マルスとライルの仲を引き裂く策略か?」

「なんと……かの国王がやりそうなことではありますな」

「よし、すぐにオーレンに連絡せよ。あいつが一番知っている筈だ」

「御意。確か、今は王都に来ていたはず」





 それから一時間ほどして……。


「国王陛下、何か御用と伺いましたが?」

「うむ、この手紙を見てくれるか?」

「はい……ふむふむ……なるほど……」


 全てを読み終えた後、オーレンは考え込む。

 俺と宰相が、それを大人しく待っていると……。


「ひとまず、呼ばれた理由がわかりました。かの国王とあった事があるのは、今では少数ですからね。さて……状況を確認する必要が御座います。私の知る限り、かの国王は曲者でしたから。人当たりも良く、偉そうにしない御仁でしたが……あえて、そう見せているかと」

「うむ……やはり、そう思うか。国王とは、そうでなければやってられん」 

「国王陛下、如何なさいますか? またオーレン殿というわけにも……」

「俺自らが……わかったから、二人とも怖い顔をするな」


(俺だって、可愛いマルスに会いたいのに……あいつらばっかりずるくないか?)


「では……息子を送るとしましょう。シルクの様子も気になりますし、彼奴ならライル様と親しいですから」

「おおっ! 確かに名案だ!」

「ですが、少し時間がかかりますが……」

「それは仕方あるまい。むしろ、すまなく思う」

「いえ、今は己の地盤を固める時です」

「……感謝する」



 こうして話はまとまったが……疲れたな。


 これも、長男の宿命か……。


 ハァ……弟たちよ。


 あまり、兄の寿命を縮めないでくれよ?
















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