73話 一件落着?

 ……大変だった。


 あのバカ兄……ライル兄さんが、セシリアさんに突撃するから……。


 あの後、みんなで部屋に集まったのは良いけど……。



 ◇


「それでご趣味は?」

「い、いや、剣術ばかりをしてきたのでな……」

「それは素敵です。では、是非お手合わせを——ぐはっ!?」


 再び、空気の弾丸をくらい、ゴムボールのように跳ねていった。


「全く! 話が進まないわ! 誰か! このアホを連れてって!」

「ベア! レオ! ライル兄さんを別室へ! 力ずくで押さえつけといて!」

「へ、へいっ!」

「お、おう!」

「ヨルさんとマックスさんは、その部屋を見張って!」

「「は、はいっ!」


 大男二人が兄上を押さえ込み……引きずっていく。


「お、おい!? やめろ! 舐めるなよ……なに!? いつの間にこんな力を!?」


 兄上は振り払おうとするが……どうやら、難しいらしい。


「へへ、オレ達だって鍛錬してるぜ。これが、本来の獅子族の力さ」

「ふっ、熊族もな。というか、お主がおかしいからな? 獣人族随一の力を持つ、獅子族と熊族二人掛かりじゃないと無理とか……人間とは思えん」


(なるほど……あれから1ヶ月以上経ってるから、本来の力が戻ってきてるんだね)


「く、クソォォ——! 恩を仇で返すとは! こんなことなら鍛えるんじゃなかったぜ!」

「へへ、オレの主人はボスなんでな」

「そういうことだ、悪く思わないでくれ」

「お、オノレェェ——!!」


 三流悪役みたいなセリフを吐いて、ライル兄上は消えていった……。



 ◇



 的なことがあったからね……。


「コホン! 愚弟がごめんなさいね」

「い、いや……ふふ、マルス殿といい、随分と楽しい兄弟なのだな」

「アレと一緒にされるのは嫌ですけど」

「あんなのと可愛いマルスを一緒にしないで」

「ははっ! 仲が良いという噂は本当だったのだな」


 そう笑った後……少し暗い顔をする。


(何だろ? もしかして、姉妹とは仲が良くないのかな?)


 前の世界でも、三姉妹は上手くいかないって聞いたことあるけど……。

 まあ、今はそこまで踏み込む関係じゃないし……ひとまず保留かな。


「さて……交流って話だったわね? あと、今更だけど敬語を使わなくて良いかしら?」

「ああ、問題ない。というか、私の方が苦手だ。何より、年齢も大して変わらない」

「そうよね。とりあえず、詳しい話をお願い。マルスが色々とやらかしたみたいだけど……」

「ああ、実は……」


 セシリアさんが、細かい説明をすると……。


「はぁ……マルス」

「は、はいっ!」


 姉上の顔は……無だった。


(ど、どっちだ? 怒られる? 褒められる? それとも……)


「色々と言いたいことはあるわ」

「は、はぃ……」

「他国で勝手に大技の魔法を放ったり、報酬も決めずに魔獣退治をしたり、交流することを勝手に決めたり……」

「ご、ごめんなさい」


(そ、そうだよね……俺自身は間違った行動をしたつもりはないけど、国としては問題になるよね……)


「というのは……王族であるライラ-フリージアとしての言葉よ」

「へっ?」

「ただの姉としては……マルス、貴方の行動は嬉しく思うわ。良くやったわ、偉いわね。きっと、お兄様もそう言ってくれるわ」


 そう言って、優しく頭を撫でてくれる。


(そうだ……たまに暴走するけど、厳しいけど優しいお姉ちゃんだったね)


「ライラ姉さん……」

「でも、あまり無茶しちゃダメよ? お姉ちゃんは心配ですからね?」

「は、はい!」

「なら良し……リンとシルクもご苦労様ね。マルスの世話をしてくれて感謝するわ」

「いえ、それが私の使命ですから」「そこを補うのが、私の仕事だと思ってますわ」


 二人が、ほぼ同時に言う。


「ありがとう、二人とも」

「ふふ、良い子達ね」

「なるほど……私が入り込めないわけだ」

「キュイ?」


 すると、シルクに抱かれたルリが目を覚ます。


「あら、やっと起きましたわ」

「キュイー!」

「本当によく寝ますよね」

「でも、少し大きくなったよね?」


 もう、俺の肩には乗れないサイズになってる。

 大体、30センチってところかな。


(ドラゴンの成長速度とか分からないけど……元が大きいから、すぐに大きくなりそう……もしかして、俺を乗せて空とか飛べるんじゃ?)


「ルリ! 早く大きくなって、俺を乗せてくれ!」

「キュイキュイ!」

「でも、小さい方が可愛いですわ」

「ですが、大きくなればお空でデートとかできますよ?」

「はっ……素敵ですわ」


 すると……。


「コホン! さて、タイミングも良いわね。ひとまず、詳しい話し合いは明日以降にしましょう。私が部屋に案内するわ」

「ライラ殿自らが……かたじけない」

「仕方ないわよ。ここは男が多いし、その二人はマルス専属だから。それに……」

「ん? 何だろうか?」

「貴女と話すのは新鮮だわ……あまり、気軽に話してくれる女性はいないから」

「ふふ、そうか。では、お茶でもどうだ?」

「あら、良いわね」


 そんな会話をしつつ、二人が部屋から出て行く。


(そういえば……姉上って、あまり友達はいないんだよね)


 割と自分にも他人にも厳しいから、貴族のお嬢様とは合わないし。


 仲が良いとはいえ、シルクとリンはあくまでも臣下の立場だし。


 どうやら、姉さんに友達が出来そうです。


 (うんうん、色々あったけど……ひとまず、一件落着かな?)


 え? 兄さんはだって?


 ……しーらないっと。

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