72話 帰還したけど……

 そして数日後……。


 俺達は、辺境都市バーバラに帰還する。


 なのだが……早速、死にそうです。


 ある意味……いつも通りにねっ!


「マルスゥゥ〜!」

「く、くるしぃ……!」

「姉貴! いい加減やめろって!」

「うるさいわねっ! 私は——マルスに会うたびに抱きしめたいのよっ!」


(えっ? 俺……出かけるたびに死にそうにならなきゃいけないの!?)


「あれが噂の灰塵のライラ殿か……なるほど、相当な魔力量の持ち主だな」

「あら? ……見慣れない女性ね……いや、その風貌と雰囲気……へぇ」

「あ、姉上……紹介をしないと……!」

「あら、ごめんなさいね。ふふ、マルスが中々帰ってこないのが悪いのよ?」

「すまぬ、私のせいかもしれない」


 セシリアさんのおかげで、俺は解放されるが……。


(ふぅ……助かったけど、姉上の目が怖い)


「何ですって……?」

「あ、姉上! これは!」

「マルス、黙ってなさい。これは、私とこの方の話し合いです」

「は、はい……」


 姉上の冷たい視線に、俺達は……その場で凍りつく。


「ふむ……まずは私が名乗るのが礼儀だろう。お初目にかかる、フリージア王国が王妹、灰塵のライラ殿。私の名は、セシリア-セレナーデだ」

「そう……貴女が有名な青薔薇姫なのね。何でも、水魔法と巧みな剣技を操るって噂の……知っての通り、ライラ-フリージアよ。それで、マルスの嫁になりにきたの? もしくは……マルスを婿に? もしそうなら……フフフ——カクゴシナサイ」


 姉上の背中から黒いオーラが見える……!


「残念ながら振られてしまったよ。この地には交流しにきた」

「交流……?」


 そこで、ようやく姉さんの気配が和らぐ。

 なので、軽く説明すると……。


「なるほど……その国王様とは少し話がしたいわね」

「か、勘弁してくれると助かる。父上も反省しているのだ」

「まあ……いいわ。こちらとしても有益な話ですし」

「ああ。こちらとしても、是非協力していきたいと思っている」


 そして二人が握手を交わし……そのまま、都市の中へと歩いていく。


(ほっ……どうなるかと思ったけど、ひとまず安心だね)


「マルス様、良かったですわね?」

「本当ですよ。もし手を出していたら……」

「……うん、そうだね」


(姉さんとオーレン殿から酷い目に合うところだったね……)


「ボス……」

「どうしたの?」

「ライルさんが……ずっと棒立ちをしてるぜ?」


 俺がライル兄さんを見ると……確かに放心しているようだ。

 俺は近づいていき……。


「兄さん?」

「……なんと……美しい」

「あの〜ライル兄さん?」

「マルス!!」

「ひゃい!?」


 急に肩を掴まれ、揺さぶられる!


「あの綺麗な女性は誰だ!?」

「だ、誰って聞いてなかったんですか?」

「誰かと聞いてる!」

「いたたっ!」


 肩外れちゃうよぉ!?


「失礼——セァ!」

「マルスに何してんのよ!」

「ぐはっ!?」


 遠くから火の玉が飛んできて、ライル兄上に直撃する!

 さらに、リンの正拳突きが炸裂する!


「あっ——随分と吹っ飛んだね」


 防御をしなかったのか、五メートルほどぶっ飛んで……地面に転がっている。


「な、何事だ!?」


 びっくりしたのか、セシリアさんが引き返してくる。


「「「「あっ、お気になさらずに」」」」


 ライラ姉さんを除く声が重なる。


「なに!? しかし……燃えているぞ!?」

「気にしなくて良いわ、いつものことだから」


 そして、兄上が立ち上がり……セシリアさんに近づく——尻が燃えたまま。


「なんとお優しい人だ。安心してください。こんな炎——俺の燃える炎に比べればなんてことはありません」


(……なに言ってんの? この尻が燃えたままキリッとしてる人? アホなの?)


「そういうわけにもいかん! 清涼なる水よ!」


 すると、水の球が出てきて……ライル兄さんの火を消す。


「ふっ、こんな水では——俺の燃え盛る炎は消えないぜ」

「な、なにを言っている!?」


(あれ? 頭の打ち所がやばかったかな? いよいよおかしくなった?)


「この……愚弟が!!エアバレッド

「グヘッ!?」


 空気の弾丸がライル兄さんに直撃して……ボールのように飛んでいく!


「な、なんだ? なんなんだ?」

「「「「ごめんなさい」」」」


 再び、ライラ姉さんを除く声が重なる。


「全く! 本当に気にしなくて良いわ。あいつは馬鹿だから。ほら、行きましょう」

「あ、ああ……確か、第一王位継承者じゃなかったか?」

「「「「本当にごめんなさい」」」」


 そんな会話をしつつ、今度こそ二人がバーバラへ入っていく。


「な、なんだったんですの?」

「よくわかりませんが……まあ、いつも通りといえばいつも通りですね」

「ボス、アレはどうしやす?」

「ついにはアレ呼ばわり……いや、もうアレで良いよね。はぁ……仕方ない、俺が連れて行くよ。みんなは先行ってて」


 みんなを先に行かせ……ゆっくりと近づく。


「兄上〜生きてます?」


 すると……ガバッと起き上がる。


「マルス!」

「はい! 落ち着いて! どうどう!」 

「お、おう……お前の嫁さんじゃないんだな?」

「はい? え、ええ、違いますね」

「うし! あんな衝撃は初めてだったぜ! 思わず死ぬかと思ったほどだ!」


(うん、普通の人なら死んでるけどね)


「そ、そうですか」

「良い女だ……おっしゃー! 俺はやるぜ〜!」


 そう言って……走り去っていく。


 どうやら……ライル兄上に少し早い春が来たようです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る