71話 ~特別編~

 これはもうやるしかないよね!?


 一択しかないよね!?


 うぉぉぉ!! テンション上がってきたァァァ!


「はいはい! みんな並んで!」

「マルス様?」

「何ですの?」

「私までやるのか?」

「ボス、これは何です?」


 俺は有無を言わさず、みんなを一列に並べる。

 そして俺の作った台の上で正座をさせる。


「はい! 俺の言葉に続いて! せーの——新年明けましておめでとうございます!」

「明けてませんわよ?」

「何言ってるんですか?」

「びっくりした、他国ではそうなのかと……」

「獣人族でも聞いたことないっす」

「シャラップ! 良いから! お願い! 今だけ!」


 みんなが顔を見合わせて、渋々……。


『明けましておめでとうございます』

「みなさん! 本年もよろしくお願いいたします! どうか、このマルスに清き一票を!」

「「「「はい?」」」」

「よし! 新年の挨拶終わり!」

「「「「相変わらず変な方……」」」」


 この世界では新年が明けるのは暖かくなる三月だ。

 無事に寒い冬を越せたという意味でお祝いをする。

 そして、今はまだ十二月に入ったばかりだけど……。


(でも……俺はこれを食べる前に、どうしてもこれが言いたかった!)







 ◇


 きっかけは、休憩時間の時だった……。


「あれ? 見覚えのない袋があるね」


 荷台に、買った覚えも貰った覚えのないものがある。


「あれ? こんなのあったっけ?」

「ああ、すまない。最後に、私が追加したんだ。直前になって、是非ともマルス殿に食べて頂きたいと言ってきた者達がいてな。マルス殿がいたく米を気に入ったと聞いたらしい。そして、お気に召さなかったら、廃棄しても良いからと」

「そうなんですね……こ、これは!?」


 その袋を開けて……驚愕する!


(もち米だとォォォ!?)


「どうやら、もちもちした食感がする米らしいが……食べる者も、栽培してる人も少ないと言ってたな」

「な、なんてことを……今すぐに広げるべきです!」

「へっ?」


(確か、もち米はうるち米の近くでは作ってはいけない……もち米はうるち米の近くで育てると……イネの花粉がついて、うるち米になるんだっけ? 結果的に、もち米の質も良くなくなるって聞いたことある。だから、きちんと作るには大きい場所を確保しつつ、うるち米が近くに無いようにしないと……)


「とにかく! あとで俺が国王様に手紙を書きます! さらに、その方に御礼の手紙も書きます! いや、書かせてください!」

「あ、ああ……何か知っているのか?」

「古文書で見たことがあります! これはとても美味しいものなんです!」

「出ましたね、マルス様の伝家の宝刀が」

「私、そんなの読んだことありませんわよ?」


(くっ! いい加減誤魔化すのも苦しくなってきた! でも——元日本人として、ここは退けない!)


「あるの! 俺は見たの!」

「わ、わかった。それで、どうするのだ?」

「えっと……まずは、洗わないとですね」


 少し落ち着きを取り戻した俺は、手早く作業をしていく。


(しっかりと洗い、水に浸して……一晩くらい寝かせるんだっけ?)


 記憶を頼りに作業をして……。





 ◇




「そして、今に至るわけです!」


(今まさに、蒸し終わったところだねっ!)


「はいはい、わかりましたよ。それで、私は何をすれば?」

「えっと……うん、これならいけるね——それ!」


 魔法で土の樽を作り、更にハンマーも作る。


「ここに入れて……そしたら、リンが叩いてくれる?」

「よくわかりませんが……こうですか?」


 リンがハンマーでペタンともち米を叩く。


「そしたら、俺がひっくり返して……これを繰り返す」

「了解です——はっ!」

「わわっ!? 速すぎるよ!? 俺の手が潰れちゃうよ!?」


(俺が手を入れる隙がない! かといって、これはゆっくりじゃいけないし……)


「へっ……ボス、オレに任せてくれ!」

「そうか! 君がいたか! レオ! 君に決めた!」

「へいっ!」


(いけ! レオ! 俺のために餅を!)


「ふっ……レオ、私のスピードについて来られるか?」

「へっ……俺だって遊んでいたわけじゃない。ここらで、姐さんに一泡吹かせてやるぜ」


(おおっ! 熱い展開だっ!)


「はい、ルリ。マルス様達は遊んでますから、私とのんびりしましょうね」

「キュイ!」

「うむ、ではご一緒しよう」


 そう言い、二人は俺の作った椅子に座って優雅に紅茶を飲む。

 その間にも……。


「セィ!」

「オラァ!」

「セィ!」

「オラァ!」


 二人が凄い勢いで餅をついては、ひっくり返していく!


(凄い! テレビで見るやつみたい!)


「レオ! やりますね!」

「姐さんこそ!」

「スピードを上げますよ?」

「望むところでい!」





 二人が、目で追えないスピードで餅つきをして……。


 あっという間に餅の完成である。


「二人ともありがとう! こんなに早く出来るなんて……よし!」


 俺は餅に砂糖醤油を塗り……用意しておいた網の上に乗せる。


「へぇ……良い匂いですね」

「そうっすね……食欲が刺激されるぜ」

「あら、良い香りですわ」

「なるほど、こんな使い道が……」

「キュイ!」


 全員が香りにつられてやってくる。


「ふふ、君たちは運がいい。何故なら……これがあるからだ!」


 俺が手にしたのは……海苔である!

 港町だけあって、これがたくさんあった!


「焼きあがったら、これを巻いて……完成です!」

「海苔を米に乗せることはあるが……そうか、合わないわけがないのか」

「なんて名前ですの?」

「磯辺焼きだよ! さあ、食べよう! ただし、喉に詰まるからよく噛んでね!」


 俺は我慢しきれずに、口の中に放り込む。


「っ〜!」


(このもちもちした食感だよ! 懐かしい! 口の中で米の甘みと砂糖の甘さが弾けて、それを更に醤油が引き立てる!)


「もちゃ……ごくん…っ、これ……私は好きですね」

「オレもです! 喉越しが良いっす!」

「いや! 多分二人の食べ方は違うから!」


(今……飲んだよね!? 獣人だから平気なの!?)


「これ、噛めば噛むほど味が出てきますわ……意外と美味しいかも」

「うむ、食べ応えもあっていいな」

「これ、おやつにも食事にもなるんですよ!」

「キュイ!」

「はいはい、お前にはマーマンの魔石だね」

「キュイキュイ!」


(これで、色々とおやつが作れるぞぉ〜! 揚げ餅も良いし、お雑煮も食べたい!)


 いや〜! 餅って美味しいよねっ!






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