70話 他国の内情を知る
それから数日後……。
ようやく、帰る日がやってきた。
俺達は王都の入り口にて、帰り支度を済ませる。
「これで良しと!」
馬車に荷物を詰め込んだ俺は、とても満足である。
(米、ワイン、冷凍した魚介類、お酢……ひとまずオッケーかな)
「じゃあ、レオ。荷物のある馬車は任せるよ」
「へいっ!」
「では、私がもう片方の御者をやりますね」
「うん、お願い」
レオとリンが、それぞれ準備を済ませたら……。
「では、俺達はこれで」
「お世話になりましたわ」
俺とシルクで、別れの挨拶をする。
「うむ、色々と世話になった。マルス殿、感謝する」
「いえいえ、私の方こそ。少し騒動はありましたけど、楽しかったです」
「すまんな。何も問題ないように見えるが……この国にも、色々あってな」
(……まあ、それはそうだろうね。客人である俺達には綺麗な所しか見せてないだろうし)
「何処の国も同じということですか……何かお困りのようなら、いつでも仰ってください。俺に出来ることなら、手伝いますので」
「おおっ! そう言ってくれるか!」
国王様が俺に近づいてくるが……その時、シルクの手が遮る。
「マルス様、そういうことは軽々しく言ってはいけませんわ」
「うむむ……やはり、オーレン殿の娘さんだ。交渉の時といい侮れんな」
(そうだった、こういう人だった……うーん、やっぱり俺には向いてないなぁ……)
「ごめんね、シルク」
「いえ、私は……そういうマルス様だから……コホン! 足りない部分は私が補いますわ」
「うん、シルクがいてくれて助かるよ」
「えへへ……」
「なるほど……これは色々な意味で手強い」
すると、セシリアさんが前に出てくる。
「だから、父上……その間に入るのは無理ですから」
「しかしなぁ……まあ、とりあえず頑張れ。というか、のんびりしてくるといい」
「ええ、そうさせてもらいます。マルス殿、シルク嬢、よろしく頼む」
「「はい??」」
「急なことで私も驚いているが……私が交流会の先遣隊ということらしい」
(……ナニィ!? 王女自ら視察ってこと!? いや、確かに……その方が物事はスムーズにいくかも)
「シルク、どう思う? 俺としては受け入れたいと思うけど……」
「そうですわね……私の個人的な感情は抜きにして、これ以上ないくらいの人選ですわ」
「うむ……余は此奴に全権を委ねておる。もちろん確認の手紙は出して貰うが……セシリアと決めたことが、この国と決めたことだと思ってくれて良い」
シルクに目線で確認すると……シルクが頷く。
「では、お受けします」
「うむ、よろしく頼む。最悪愛人でも良い——ぐはっ!?」
国王様が腹パンを食らった!?
「父上、おふざけが過ぎます……全く!」
「し、しかしだな……お前が誰かと添い遂げないと……色々と問題が……」
腹を押さえつつも、何やら必死で訴えている。
(うーん……何か、他にも事情がありそうだね)
「わかってます。とりあえず、この国から出ていけば色々収まるでしょう。幸い、マルス殿が協力してくれましたから」
「う、うむ……マルス殿、セシリアをよろしく頼む」
「は、はい……といっても、俺では無理ですけどね」
「安心してくれ。私は静かに暮らせれば良い」
そうして、セシリアさんも馬車に乗り……。
王都を後にする。
そして、その道中にて……。
「さて、軽く説明をしておこう」
「はい?」
「この国の内情についてだ」
「私も良いのですか?」
「ああ、国防を担うオーレン殿の娘さんなら問題あるまい」
俺とシルクは頷き、聞く姿勢をとる。
「まずは……この国をどう思った?」
「どう……いや、良い国だなと思いましたが……」
「そう見えていたなら、我々の誤魔化しも成功ということか」
「えっと……」
「実はな……思ったより、我が国の状況は良くないのだ」
「えっ?」
そしてセシリアさんが話してくれた。
ここ数年凶悪な魔物や魔獣により、歴戦の強者達が居なくなってしまったこと。
それによって、収穫量が激減していたこと……。
そして食材が不足して、段々と人々も飢えていると……。
このままではまずいと思い、対策を考えていたところだと。
「そうだったんだ……」
「なるほど、それを見せないようにしていたのですね」
「ああ、みんなで準備をしてな。あるものを全て出してな」
「何故ですか?」
「国としての弱みを見せないためと……何かが変わるかもしれないという淡い期待をしていたな。何せ、交流自体が数十年ぶりだ」
(そっか、うちの国も両親が死んだことでバタバタしてたし……)
「あっ——じゃあ、こんなに貰ってはまずいのでは!?」
「いや、それは受け取って欲しい。住民達も、マルス殿にならあげていいと言っている。
何せマルス殿は、予想以上の結果を出してくれた」
「そうですか?」
「おいおい、自分のしたことを考えてくれ。シーサーペントとキングオクトパスを倒し、魔石を提供してくれた。これで、今の者達でも安全に狩りが出来る。いずれ、あげた分以上を獲れるだろう」
(そっか、奴らさえいなくなれば……そんなつもりはなかったんだけど)
「なるほど……」
「それに、これからの交流会次第では、更に発展することが出来るかもしれない。だから、父上も……私をマルス殿に当てがおうとしたのだ。許せとは言わないが、父上も必死だったということは理解して欲しい」
「わかりました。では、双方良い形になるように頑張っていきましょう」
「ああ、よろしく頼む」
こうして……一部だけど、俺は国の内情を知った。
やっぱり、どの国も大変なんだ……。
仕方ないね……ここはお米や魚介類のためにも……。
交流を深めていかなきゃね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます