67話 他国で宴だっ!
……ん? 誰かに揺すられてる?
「ふぁ……リン?」
目の前には、ルリを抱えるリンの姿が……。
どうやら、いつも間にか寝ていたらしい。
「マルス様、おはようございます。お疲れでしょうけど、セシリア様が来ましたよ」
「おっ、そうか……よいしょっと」
残念だが、膝枕は終わりのようです。
「マルス殿! お待たせした!」
「いえいえ、全然ですよー」
「それでは、ご案内しよう」
「ええ、お願いします」
(まあ、ちょうどお腹も減ってきたしね)
そのまま、付いていくと……。
噴水がある広場にて、屋台が並んでいる。
「おおっ! 良い匂いですね!」
そこら中から、香ばしい香りがしてくる。
すると、国王様が中央に立ち……。
「皆の者! 英雄の登場だ!」
『オォォォ——!』
あちらこちらから、歓声が巻き起こる。
「マルス殿、一言お願いします」
「セシリアさん、俺はそういうのは苦手で……」
「ふふ、本当に謙虚な方のようだ。軽くで良いですから」
「では……皆さん! ——宴じゃァァァ!」
『ウオオオオオオ——!』
みんなが、呑んで歌って踊り出す。
俺も戻ってきたシルク達と一緒に、セシリアさんに案内されて屋台へ繰り出す。
「まずは、キングオクトパスだな。醤油につけて焼いたものと、あとは寿司だな。こちらは、元々小さいタイプが獲れることもあるので、作り方は問題ない」
「わぁ……! いただきます!」
「へい! どうぞ!」
「あれ? お代は?」
「そんなのもらえません! それに、今日は国王陛下の奢りだそうです!」
「そういうことだ。遠慮はしないでくれ」
(へぇ、みんなタダってことか……太っ腹な国王陛下だね)
「いただきます! ——ん〜! うみゃい!」
口の中でゴリゴリと小気味よい音が聞こえる。
そして、醤油の香りと塩気が出て……口の中が幸せになる。
「コリコリしてますわ! 噛むと塩気が出て……初めて食べましたが、美味しいですわ」
「はむはむ……」
ただひたすらに、リンがタコを口の中に放り込んでいく……。
ただし尻尾が揺れているので、相当気に入ったということだろうね。
「ちょっ!? 姐さん! 俺の分を食べないでくださいよ!」
「レオ、ここは弱肉強食の世界ですよ」
「ふふ……まだまだあるから、安心すると良い」
その後寿司も食べて、次の場所に向かう。
(寿司も美味かったけど、やっぱりわさびがないのがなぁ……)
聞いたら、そんなのは知らないと言われてしまった。
どっかにあるかなぁ……今度、シロを連れて探しに行こうかな。
そして、次の屋台に到着する。
「さあ! これがシーサーペントだっ! まずは食べてみてくれ!」
「じゃあ、遠慮なく……うまい……優しい味わいだ」
「これ——美味しいですわ……口当たりが良くて……溶けましたわ」
(なんだ!? 白身の魚のようでいて、このふわふわ感——うなぎだっ!)
「こっちもどうぞ!」
「うん? 同じ塩焼き?」
「まずは食べてください」
言われた通りに食べると……。
「へっ? か、硬い? コリコリして……味がどんどん出てくる!」
「私は、こっちのが好きですね」
「オレもですぜ!」
(さっきと食感が違う! エンガワみたいな食感だっ! 美味い!)
というか、臭みなんか一切無いけど……どうなってんの?
「実は、調べたんだが……体の位置によって味が違うらしい」
「なるほど……」
「あと、誰も食べたことがないので、とりあえず塩焼きにしたが……どういうのが合うのだろうか……」
(いや、それは一択しかないでしょ!? やるなら今でしょ!?)
「ふふふ、俺に任せてください!」
「へっ? ま、マルス殿?」
「セシリア様、マルス様は料理にも精通しておりますわ」
「そ、そうなのか……ふふ、ますます面白い」
「それじゃあ、さっき国王陛下がいたスペースを使っても?」
「ああ、父上に聞きに行こう」
そのまま国王陛下の元に向かい、事情を説明する。
「しかし、英雄であり客人である其方に……」
「そういうのは良いですから。俺はみんなで楽しく過ごせれば良いんですよ」
「……フハハッ! 参った! アロス殿め……とんだ麒麟児を生みおって……」
「ん? ……父上の名前ですね」
「ああ、そうだ。わかった、其方の好きにすると良い」
「ありがとうございます」
俺は中央付近に座りこみ、準備を始める。
「さて、これでよしと……俺のすることは、いつもと変わらないよね」
即席コンロを作り、フライパンを火にかける。
「ここに砂糖を入れて……少し熱してから、みりんと酒を入れて……シーサーペントの切れ端も足す……確か、そうすると美味いって聞いたよね」
(本当は砂糖をカラメル状にしても良いけど、難易度高いし時間もかかるからね)
アルコールの匂いがしなくなったら、醤油を入れる。
「あとは煮詰まれば……即席のタレの完成だね」
(これは順番がとても大事だったよね。砂糖から熱を入れることと、きちんとアルコールを飛ばすことが美味しい秘訣だったはず)
「マルス様、私は何をすれば?」
「私達も手伝えますか?」
「オレも手伝いますぜ!」
「ありがとう、三人共。じゃあ串を作るから、それにシーサーペントのふわふわな部位を刺していってくれる?」
三人が返事をして、それぞれ作業を進めていく。
「さてさて、俺はそしたら……」
石の台座を二個用意して、間隔をあけて設置する。
その上に、石の棒をいくつか設置して……。
「その真下で火をつけると……」
さらに火が逃げないように、その周りを土の壁で囲い込む。
「これで安全だね」
すると、三人も用意ができたみたいだ。
「じゃあ、それをタレに沈めて……石の棒に乗せる」
即席だが、お店屋さんの焼き鳥やうなぎを焼くときのような状態になる。
そしてすぐに——特有の香ばしい香りが辺りを包み込む。
「ふぁ……良い香りですわ……」
「ゴクリ……マルス様、まだですか?」
「た、たまんねえっす!」
「ふふふ、まだだよ……ここで手を抜くと美味しくないからね」
「マ、マルス殿……私も良いか?」
「余も良いだろうか?」
香りに釣られ、お二人もやってくる。
それどころか、そこらじゅうの人々がやってくる。
「ええ、もちろんですよー。じゃあ、同じのを用意しますね」
同じように台を設置して、シーサーペントを焼いていく。
時にひっくり返し、時にタレを塗って……完成だ。
「じゃあ、国王様とセシリアさんからどうぞ」
「「よ、良いのか?」」
「ええ」
二人が顔を見合わせて……かぶりつく。
「ッー!? こ、これは……余が食ったことないものだ……美味い」
「だ、誰か! 米を持ってきてくれ!」
(ふふふ、まあそうなるよね)
「「「マルス様!」」」
「まあまあ、米が来るまで待とう」
三人を押し留め……すぐに米がやってくる。
そして蒲焼を口に含み、すぐに米を食べる!
「 んっ〜! まい!」
(これだよこれ! 甘いタレが米に絡んで、いくらでもかきこめる!)
シーサーペントはふわふわだし、意外とさっぱりしている。
美味しい蒲焼きって、口当たりが良いって本当だったんだね!
「このお米って美味しいですの!」
「もちもちしてて、このシーサーペントに合いますね」
「マルス様! おかわりっす!」
「はいはい……」
「「「英雄殿!!!!」」」
今にもよだれを垂らしそうな人々が押し寄せる。
「わ、わかりましたから! 全員に配りますから! リン! レオ! やり方はわかったね!」
「はい、お手伝いします」
「へい!」
すると……。
「セシリア! 余達も焼くぞ!」
「ち、父上!?」
「客人にばかりやらせてどうする! たまには民のために汗を流そうぞ!」
「は、はいっ!」
そこには、不思議な光景が広がっていた。
王族、上位貴族、獣人が調理をして……民に配る姿が。
(うん、こういうのも良いよね!)
充実感と満腹感に包まれながら、楽しい夜が更けていく……。
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