66話 マルス、英雄になる?

 さて……このでかいのをどうしよう?


 倒したのは良いけど、俺の魔法じゃ移動はさせられない。


(こういう時、浮遊させたり出来ないのか? というか、空とか飛べないし)


 ……もしかしたら。

 あの女神だか天使だがは言ってたよね……。

 それまでの異世界人がやりすぎだったって。

 だから、チートとはいえ色々と制限があるのかも。


「マルス様、早く戻りましょう」

「へい、危ないっす。すぐにでも魔物や魔獣が寄ってくるぜ」

「いや、でもこいつらを……はい?」


 レオがオクトパスを、リンがシーサーペントをそれぞれ引っ張っている。

 どう考えても無理なのだが……これが闘気の力ってやつなのかも?

もしかして強くなった獣人って……俺より、よっぽどチートじゃないっすかね?

 でも、それで良いのかも。

 俺は、彼らと助け合って生きていけば良いんだよね!





 ひとまず、来た道を戻って行くと……。


「マルス様! あれを!」


 リンの視線を追うと……何やら、半魚人のような醜い生き物が泳いでくる。


「なるほど、あれがマーマンね……俺の寿司ネタを奪いにきたか」

「どうしやす?」

「そんなの当たり前だよ——万死に値するウインドカッター


 風魔法を放ち、近ずく前に処理していく。


「あっちからも!」

「こっちもですぜ!」

 「何人たりとも、俺の寿司パーティーの邪魔はさせない——アイスショットガン氷の散弾


 両手の指先から、氷の弾丸を撒き散らす!


「グゲェェ!?」

「グゴォォ!?」


 醜い声を上げ、マーマン供が魔石と化していく。


(むむ、魔石はもったいないなぁ……ルリが頑張ったからご褒美あげたいし)


 すると……こちらに小舟が沢山やってくる。


「マルス殿!」

「セシリアさん! 魔石を集めてください! ここで、こいつらの数を減らします!」

「なんと心強い! 皆の者! 見たか! 安心して海に潜るといい!」

「「「オォォォ——! マルス様万歳!!」」」


(うん? なんか、みんなの目つきが違う……まあ良いや。まずは寿司と魔石が優先だね)


 その後、俺は迫り来るマーマン供を駆逐していく。


 そして、十五分くらいで……それが収まる。


「これでよしと……」

「な、何という……あれだけいたマーマンが……見当たらない」

「セシリアさん、早く帰りましょう!」

「あ、ああ……」


(ふふふ、どんな味がするのかなぁ〜)


 俺は気分良く、街へと戻るのだった。





 すると……何やら人だかりと、国王様が待っていた。


「あのぅ……どうしたんですか?」

「皆の者! 英雄に感謝の言葉を!」

「へっ?」


 次の瞬間、次々と言葉が飛んでくる。


「ありがとうございます!」

「これで安全に漁ができます!」

「まさか、あれを倒せる人間がいるなんて!」

「マルス様! 是非とも我が国に!」


(……あれー? いや、俺はただ米が食べたいだけだったんだけど……)


「マルス殿、余からも感謝する」

「い、いえ! 頭をあげてください!」

「いや、これはそれだけ重要ということだ。長年、奴らには苦しめられてきた。何千人という犠牲者、そして収穫量にどれだけ影響を及ぼしたか……何より、あの津波がきていたらどうなっていたか……ありがとう、マルス殿——其方がこの国の英雄だ」


(なんか、話がでかくなってるよぉ〜!? そんなことより、早く寿司が食べたい!)


「いえ。俺はただ、自分の成すべきことを果たしただけですよ」


(そう、寿司が食べたいというね! あと、米が欲しいし!)


「何と、傲慢さのかけらもない……真なる英雄とは……こういうものなのだな」

「はい?」

「いや、もう何も言うまい。マルス殿、何か望みはあるか? 余に出来ることなら、何でも叶えようぞ」


(……なんだって!? うーむ……いや、ひとまず初志貫徹だね)


「では、予定通りに我が国との流通整備を進めましょう。そして、交流会を行いたいと思います。とりあえず——宴にしません?」

「……ハハッ! 聞いたか皆の者! 英雄のお言葉だ! すぐに宴の準備を進めよ!」

「「「オオオォォォ——!」」」


 大地を揺るがすほどの歓声が上がる。

 そして、人々がすぐに行動を開始していく。


「さて、余は指揮を執るとしよう。このお礼は、あとで必ず果たす」

「父上! 私も手伝います!」

「うむ、ついてくるが良い。マルス殿は、ここにて待っているといい」


 そして、二人も去っていく。


 入れ替わりに、ルリを抱えたシルクが駆け寄ってくる。


「マルス様! 凄いですわ!」

「ん?」

「長年、この国との関係に我が国は悩んでおりましたわ!」

「そうなの?」

「ええっ! 昔のように交流がしたいですが、我が国から差し出すものがないと! 次第に関係性は薄れていってしまい、今のような状況になってしまいましたわ!」


(なるほど……確かに、こちら側に得るものがないって話だったね)


「しかし、これで状況は一変いたしますわ! マルス様のご活躍によって!」

「そ、そう……」

「こうしてはいれません! レオ殿! 護衛をお願いしますわ! 宴には時間がかかるので、今すぐに打ち合わせをしてきます!」

「へ、へいっ!」


 そして、二人も去っていく。


「……ねえ、リン」

「はい、何でしょう?」

「俺はただ……米が……寿司が食べたいだけだったんだけど?」

「ふふ、マルス様らしいじゃないですか」

「あと……ほっぺにチューしてもらってないし」

「ププッ!? あ、相変わらずですね……」


(むぅ……なんだか、釈然としない。俺は、俺の好きなようにしただけなのに)


 すると——突然、柔らかなモノが頬に触れる。


「へっ? ……リン!?」

「わ、私からご褒美です……不満ですか?」

「い、いえ! 御馳走さまです!」

「ふふ、何ですかその返事は」


 リンは尻尾を揺らしつつ、少し頬を赤らめている。


(クールからのデレがキタァァ!!)


 まあ良いか! 今日は良い日だね!


 俺は砂浜に寝転がり、綺麗な夕日を眺める。


 何を作るか考えながら……。

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