65話 マルス、ラブコメ効果で無双する

 さて……どうしてくれようか。


「ククク……寿司ネタにでもなってもらうか」

「マルス様? 口調が変わってますが……」

「リン、戦争だ……俺から念願の米を奪う奴は——許さない」

「……よくわかりませんが。本気なのはわかりましたよ」


(まずは、津波をどうにかしないとね)


 俺は徐々に近づいてくる津波を眺めて……。


「リン、ルリを頼んだよ」

「ええ、お任せを。お二人とも、守ってみせます」

「心強いね……よし、集中しますか」


 ルリを手渡したら……高台の上で、目を閉じて精神を集中する。


(生き物じゃないから手加減はいらない、一滴たりとも零さないように……)


 すると……。


「何をしている!?」

「セシリアさん、避難は?」

「もうすんだ! この街では高台への避難訓練は常にしている! 家や物は直せば良い! しかし——人は死んだら戻ってこない!」


(へぇ……やっぱり、良い人だね。わざわざ、俺たちを心配して来てくれたし)


「マルス様! 一気に来ます!」


 俺が目を開けると……物凄いスピードで波が迫って来ていた!


「くっ!? 待ち合わんか!?」

「大丈夫ですよ……俺の魔力を好きなだけ持っていけ——アースウォール!!」


 両手を地面について、無尽蔵に魔力を込めていく。


「なっ——!?」

「あ、相変わらず恐ろしいですね……」


 ズガガガガ! という轟音と共に、横一列に土の壁を展開する。


「ば、バカな!? 高さ……上が見えん!」

「多分、二十メートルってところですね」


 そして次の瞬間——物凄い衝撃音が鳴り響く!


「くっ!? やはり無理だ! 人は自然には勝てない!」

「マルス様! ヒビが!」

「平気だよ! スゥ……ハァァァァ——!!」


 魔力を送り続け、補修と強化を繰り返す!






 どれくらい経っただろうか……五分くらいか?


「お、おさまった?」

「マルス様、少々お待ちください……平気です! もう波はひいてます!」


 俺はひとまず、慎重に魔法を解除していく……。


「……うん、平気だね」

「な、なんと……これを人が? マルス殿、其方は一体?」

「ただの、米が食べたいだけの穀潰しですよー」

「……ははっ! これだけのことをやって威張りもしないとは……益々面白い」


(さて……問題はここからだよね〜)


「あいつら、まだ戦ってますね」

「セシリアさん、奴らの強さは?」

「……詳しいことはわからん。何せ、あの位置まで行くことがない。あいつらも来ることができない。ただ近海の制海権を握ってる二体なのは確かだ。それぞれ縄張りがあり、普段は出会うことがないはずなのだが……どうしたことか」


(……そりゃ、そうか。あんなのがいたら漁どころじゃないよね)


「倒してもいいですか? 生態系に影響しますか?」

「何!? ……いや、平気なはずだ。むしろ、奴らがいることで年々獲れるものが減っているくらいだ。奴らこそが、生態系を破壊している」

「なるほど、それなら平気ですね」

「し、しかし、どうやって? あの位置まで移動するのは無理だ」


 すると……。


「ボスッ! 姐さん!」

「マルス様! リン!」


 二人が、こちらに駆けてくる。


「やあ、二人とも」

「も、もう! びっくりさせないでください! 避難してないって聞いて……」

「ご、ごめんなさい」

「うぅ……心配しましたの」

「わ、悪かったから! 泣かないで!?」


(ど、どうしよう? これじゃ、行きづらいなぁ……)


「グスッ……でも、行くんですわよね?」

「えっ? ……うん、そのつもり——元凶をどうにかしないとね」

「そ、そうですか……」


 何故かシルクの顔が赤くなっていく……。


「レオ、セシリア様、少しこちらへ」

「へい!」

「ふむ」


 終いには、リンが二人を連れて遠くに行く。


(はて? なんだろ?)


「えっと、その……目をつぶってくださいますか?」

「へっ? なんで?」

「もう! こういう時は黙って従うのが礼儀ですわ!」

「は、はいっ!」

「全く! マルス様ってば、ちっとも察してくれませんの」

「ご、ごめんなさい!」


(よくわからないが、シルクを怒らせちゃいけない……)


 大人しく、俺が目を瞑ると……何か、柔らかいモノが頬に触れる。


「へっ? えっ? ……今のは……」

「お、おまじないですわ……戦いに行くお父様に、お母様がしてましたの……あぅぅ……」


(……ほっぺにチューだァァァ! しかもツンからのデレがキタァァァ!!)


「ククク……フハハッ!」

「ま、マルス様?」


(諸君! ほっぺにチューごときで何をと言うかもしれない! しかぁし! 箱入り娘でツンツンな可愛い女の子からのほっぺにチューは——素晴らしい!!)


 そもそも……俺、前世も含めてそれすら経験ないし——スン。


「グスッ……」

「ど、どうして泣くんですの!?」

「いや、嬉しくてさ」

「そ、そうですか……帰ってきたら、その……もう一回して差し上げますわよ……?」

「……ナニ?」

「だ、だから……無事に帰ってきてくださいね!」


 そう言うシルクの顔は真っ赤に染まっている。


(これでやる気を出さなかったら——男じゃないよねっ!)


「レオ! ついてこい!」

「へい!」

「リン!」

「はっ、ここに」


 二人が側に来る。


「奴らを駆逐する」

「ほ、本気ですね」

「シルク、ルリをよろしくね」

「はい、お気をつけて」

「彼女は私が責任持って守ろう」

「ありがとうございます。あと、船と人手を大勢用意しといてください」

「なに? ……わかった」

「頼みましたよ! レオ!」

「へい! どうぞ!」






 レオがおんぶした形で、砂浜に降り立ち……。


「そのままダッシュしてくれ」

「へっ? う、海ですよ?」

「俺を信じて、先頭を走ってくれ」

「へ、へいっ!」


 リンが砂浜を駆けていき、レオがついていく。

 そして海に入る手前で……。


「凍れ」


 一本の氷の道を作る。


「おおっ!?」

「レオ! 走らずに滑るのです!」

「な、なるほど!」


 獣人である二人は器用に滑って、どんどん加速していく。





 そして……ものの数分で、奴らを捉える。


「グギャァァァ——!!」

「クシャャャ——!!」


 絡み合うように、奴らは争っている。


「で、でけぇ……」

「軽く十メートル以上はありますね」

「関係ないよ……風穴をあけろ——風の爆弾エアリアルブロークン


 緑色の大きな玉が、シーサーペントに吸い込まれ——爆発する!


「グギャァァァ!? ……ガ、ガ……」


 奴の首に穴が空いて——死に絶える。

 オリジナル魔法、空気を凝縮させた風の爆弾だ。


「い、一撃!?」

「マルス様! オクトパスが!」

「防げるかい!?」

「ふふ——もちろんです!」


 オクトパスの脚が迫るが……。


「クシャャャ!」

「舐めるなっ!」


 リンが居合を使うと……脚が宙に舞う。

 だが、次々と脚が襲ってくる。


「ボスッ! 流石の姐さんでも足場が悪いっす!」

「わかってるよ……よし」


 再び、魔力を貯め——。


「荒れ狂う風よ全てを切り刻め——トルネイド!」


 大竜巻が、オクトパスを包み込む!


「クシャャャ!?」

「な、何という威力……」

「あの大きさを包み込んでますぜ……」

「これで、あとは放っておけば……終わったみたいだね」


 段々と静かになっていき……オクトパスが海に倒れこむ。


(ふふふ、俺の米を奪おうとするからさ)


 だが、安心したまえ——君達は美味しく頂くからねっ!



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