64話 マルス、激おこ
そして、最後に海の方に向かう。
「流石は港町ですね……」
軽く高さ十メートル以上ある防波堤の上から海を眺める。
ここに来る前に確認したが、街全体を包み込んでいるかのようだ。
その前には砂浜が広がっていて、海までは距離がある。
「いや、それでも度々補修作業を行っている。傷がついたり、穴が空いてしまったこともあるからな」
「へぇ、波がこの距離まで来るんですか?」
「ああ、時期によってはな。もちろん、漁のチャンスでもあるが。しかし、海にいる魔物が邪魔をしてくる。だから、いうほど豊富に獲れるわけでもない」
「なるほど、近くまで獲物がくるってことですね。魔物ってどんなのがいるんですか?」
「一番多いのがマーマンだ。人間に近い体形で、屈強な身体と槍を持ち、海にいる小さい魔獣を喰い散らかす。そして度々現れ、この首都を攻めてくる」
(マーマン……そんなのがいたら大きい船なんて無理だね。すぐに沈んじゃうし)
「魚はどうやって獲るんです?」
「網を仕掛けたものを、小さい船で獣人達に取りに行かせたり……冒険者や兵士達が海に潜って獲ったりするな」
「なるほど、危険な仕事ですね」
「ああ、それ故に報酬は高いが……犠牲者も多い。なんとかしたいところだが……難しいところだ」
「そうですね……俺も似たようなことで悩んだり……ん?」
今、海が盛り上がって見えたような……。
「マルス様! 何か海から出てきます!」
「まずい! 避難してくれ!」
次の瞬間——蛇のような生き物と、タコのような生き物が海の中から出現する。
「くっ!? よりによって、キングオクトパスとシーサーペントか!」
「うわぁ……! 凄いや!」
(まるで怪獣映画のようだね! この位置からでも、目視できるってことは……何十メートルあるんだろう?)
「ちょっ!? マルス様!?」
「えっ? ——うわぁ!?」
俺は思わず前に出ていたらしく、手すりを超えて高台から落っこちる!
(ま、まずい! 上手く着地しないと!)
「風よ!」
真下に風魔法をうち、勢いを減速させると……、
「あれ? 落下しない?」
「キュイー!」
「ルリ!?」
「キュ、キュイー!」
なんと、ルリが俺の腕を掴んで飛んでいる!
でも、流石に支えきれないのか……プルプルしている。
「ルリ! 無理しなくて良いから!」
「キュイー!!」
まるで、嫌だと言っているかのようだ。
すると……。
「まったく、相変わらず世話の焼ける方ですね」
「リン!」
リンが飛び降りてきて、俺ごと掴まえて……地上に降りる。
「ふぅ……危ないところでした」
「ごめんね。二人とも、ありがとう」
「キュイキュイ!」
「ふふ、やっぱり私がいないとダメですね」
「そりゃ、もちろん。リンには、俺の側にいてもらわないと」
すると……上から声が聞こえる。
「平気か!?」
「はい! 平気です!」
「そこからはすぐには上がれない! 右方向に階段がある! 急げ——津波がくる!」
「津波……?」
「マルス様! あれを!」
リンが指差す方向を見ると……怪獣達が激突している。
「……そういうことか!」
二体が暴れることによって、波が荒れ狂っていて……。
それにより、津波が押し寄せてくる。
「キュイ!?」
「げげっ!?」
「マルス様! 失礼します!」
再び俺を抱えて——リンが垂直の壁に向かって走り出す。
「ちょっ!? ……えぇ——!?」
なんと、ほぼ垂直の壁をリンが駆け上がっていく!
そして……元の位置に戻ってくる。
「な、なんと……もしや、ただの犬族ではない?」
「リンは炎狐族なんですよ」
「……かの最強種か。それならば、納得もいく」
「リン、ありがとね」
「キュイ!」
「いえ、それが私の使命ですから」
頬をぽりぽりかきながら、照れ臭そうにしている。
「ふふ、良き関係だ」
「それより、平気ですか?」
「ああ、避難勧告はすでに出ている」
「それなら良かった。あれ? ルリ?」
「プス〜……ピスー」
(あらら……寝ちゃったよ。そっか、俺のために体力を使ったんだね)
「ふふ、可愛いものだな。では、私達もいくとしよう」
「はい、俺たちも避難……リン?」
リンが、俺の洋服を掴む。
「……あの波、ここを超えませんか?」
「なに!? どういうことだ!?」
「リンの目は、俺たちなんかより数倍上です。しかも、普通の獣人とは違います。リン、確かなんだね?」
今はまだ遠くて、俺にはわからない。
「……超えます——確実に」
「なんということだ! わかった! すぐに通達を出す!」
そう言い、セシリアさんは駆け出していった。
(良い人だね……獣人であるリンの言葉を信じてくれた)
「リン、この国は素敵だね」
「ええ、奴隷……といっても、無下には扱っていない印象を受けます。もちろん、国王陛下のお膝元だからかもしれないですが」
「うん、他では違うだろうね。さて——守らないとね。ここには、シルクやレオもいるし」
「そういうと思ってましたよ」
「何より……許せないよね」
「はい?」
「この街には米とお酢があるからね」
「……ふふ、それでこそマルス様です」
津波だが、オクトパスだがシーサーペントだが知らないけど……。
俺の米を奪うつもりなら——覚悟してもらうよ?
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