63話 散策

 ひとまず、シルク達と別れ……。


 俺は寝ているルリを抱えて、リンと共にセシリアさんについていく。


 リンは立場を考えてか、ずっと黙ったままである。


(というか、機嫌が悪い? ……気のせいかな?)


「さて、せっかくの時間だ。何か質問はあるか?」

「そうですね……妹さんがいるんですか?」

「ああ、下に二人な。同じ母から生まれた、成人したばかりの幼い妹は宰相の息子と。側室の子であり二十歳である次女は、フリージア王国と我が国の関所の守護を代々受け継くボレス公爵家に嫁入りしている」

「なるほど、男の人がいないのですね」


(それで、俺に婿に来ないかって聞いたのか)


「そういうことだな。といっても、問題はあるまい。下二人の子供のどれかが継げば良いだけの話だ。幸い次女の方には、すでに男が二人生まれているしな」

「へぇ……結構柔軟なんですね」

「まあ、祖父は婿に来たくらいだしな」

「なるほど……それなら問題はなさそうですね」


(とりあえず、王族の中から優秀な者が王位を継ぐって感じなのかも)


「先程は父上がすまなかったな。誰であれ、こんな年増などもらっては迷惑だろうに」

「そうですか? ……お綺麗だし、いくらでもいると思いますよ?」

「ふふ、ありがとう。まあ、別にしなくても良いんだ」

「まあ、別に独身でも良いと思いますしね」

「おっ、マルス殿は話がわかるな。女ということで、周りがうるさくて敵わん」


(まあ、前の世界では珍しいことじゃないし。姐さん女房とかいるわけだし)


 ……ところで、どうしてリンは俺を睨んでいるのだろう?





 そのまま城を出て、街に出ると……。


「キュイー……」

「おっ、起きたかな?」

「キュー」


 俺の腕の中で、可愛らしく欠伸をしている。


(なに!? うちの子可愛いんですけど!)


「キュイー!」

「はいはい、お腹が減ったのね……ほれ」

「キュイ!」


 小さい魔石を与えてやると、ごくんと飲み込む。


「なっ!?」

「驚きますよね?」

「あ、ああ……ドラゴンとは魔石を食べるのか?」

「俺もよくわからないですけどね。随分前から人々の前から姿を消したらしいので」

「ああ、ドラゴンに関してはそうらしいな。しかし、もしや……高位魔獣と呼ばれるモノは、魔石を主食とするのか?」

「キュイ?」

「はは、お前にもわかんないよね」


(それは、俺も考えたんだよね……ただ、その理由がわからない)


「これから、色々調べていくところなんですよ」

「そうか……面白いな、マルス殿は。まるで、びっくり箱のようだ」

「よく言われます」

「ははっ! そうであろうな!」


(気持ちの良い女性みたいだね。それに、なんだか誰かに似ていて話しやすいなぁ……うーん、誰だろう?)


 ちなみに、ルリは再びお寝んねのようです。


 子供は寝るのが仕事っていうのは、どの生き物でも変わらないようです。






 その後、街を案内してもらったが……。

 やはり海の幸が豊富のようで、あちこちの店で見たことない魚?が並んでいる。

 どでかい貝や、海老らしきもの……とにかく様々なものがある。


「むぅ……買いたいものが多すぎる」

「ふふ、どれも獲れたてのものばかりだからな」


(こういう時、アイテムボックスとかあればなぁ……まあ、人生はそんなに甘くないよね)


「ところで……そんなに警戒しないでくれ」

「へっ?」

「……してません」

「何を言うか。私を恋敵のように睨んでおるではないか」

「し、してません!」

「リン?」


 振り返ると、リンは明らかに動揺している。


「ち、違いますから! わ、私は、シルク様の代わりにマルス様を女性からお守りしないと……そ、それだけです」

「ふむ……マルス殿は、良き従者を持っているな」

「はい、俺には勿体ない女性です」

「あぅぅ……」

「あれ? どうして赤くなってるの?」

「……クク、愉快なことだ」



 その後、リンのために店に入る。


「リンは何が食べたい?」

「えっと……」


 俺とリンが並んでメニューを見ていると……。


「本当に、獣人と普通に接するのだな……」

「ええ、俺にとっては人族と変わりありません。良い奴もいれば、悪い奴もいますけどね」

「……変わり者と言われるわけだ」

「でも、貴女からも嫌悪感は感じないですよ?」

「ああ、私自身は特には気にしない。要は使えるか使えないかだ。人族だろうが、獣人だろうがな。あとは、その環境に甘えていない者には好感が持てる。先程の獅子族といい、そこのリンという女といい……いつでも、マルス殿を守れる姿勢をとっている。それは私にとっては好ましく映るってことだ」


(……なるほど、そういう考え方か。でも、悪いことじゃないよね。種族ではなくて、その人個人を見てるってことだもん)


「むぅ……」

「リン?」

「だから、そんな怖い顔をするな」

「ですが、マルス様は歳上に弱いですから」

「うん?」

「ほう? そうなのか?」


(どうだろ? いや、お姉さんタイプは好きだったけど……)


「魅力的だとは思います」

「ふふ、そうか……今晩、私の部屋に来るか?」

「へっ?」

「ダ、ダメです!」

「ふふ、冗談さ」


 そういい、華麗にウインクをしてくる。


(ド、ドキッとしたァァァ! これが歳上の魅力ってやつか!)


 そういや、俺……前世では歳上好きだったなぁ。







 その後、串焼きが運ばれてくる。

 その香ばしい香りに、お腹いっぱいだったはずなのに……。


「俺も一口ちょうだい」

「ハイハイ、そう言うと思ってましたよ」


 リンが持つ串にかぶりつき……。


「美味い!」

「もぐもぐ……美味しいですね」


(弾力のある歯ごたえと、噛めば噛むほどに旨味を感じる! 醤油との相性も抜群で、クセになる味わいだ!)


これ、間違いなくライル兄さんが好きなやつだ。

いわゆる、酒のあてってやつ……飲まない俺ですら、飲みたくなってきたし。


「これは貝ですか?」

「ああ、砂浜に打ち上げられたりする。あとは、素潜りして獲ったりな」

「獲ったどーですね!」

「はい?」

「すみません、気にしないであげてください」

「あ、ああ……不思議な男だな」


 だって、アラフォー男子なら一度は言ってみたいじゃん!


 ちなみに、お土産に海老らしきものと貝は買っておきました。


インディカ米と合わせて、パエリアなんかも良いよね……でも、それよりも。


ふふふ……帰ったらエビフライや貝の味噌汁を食べるぞォォ!!!


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