62話 交渉
さて……まずは、これだよね。
袋から魔石を取り出し、テーブルの上に置いていく。
「これは魔石? しかし、こんなものでは……」
「ふむ……セシリアよ、早計が過ぎるな。して、効果は?」
「まずは、こちらがヒートの魔石ですね」
まずは、仄かに赤く染まった魔石を差し出す。
「ヒート……? 聞き覚えのない魔法であるな」
「父上、私が試しても!?」
「クク、相変わらず好奇心が旺盛なことだ。ああ、お前に任せる」
「ありがとうございます。では……こ、これは!?」
セシリアさんが魔力を送り……顔色が変わっていく。
(ふふふ、やはりこちらにもないみたいだね)
「どうした?」
「これは火が付いてないのに暖かいです! まるで、暖炉の前にいるような……」
「どれ……ほう? いや、しかし……そうか、その手があったか。火ではなく、熱そのものを込めたと?」
(まあ、答えがわかってさえいれば理解は出来るよね。それを思いついたり、実際に込めるのが大変ってだけで)
「ええ、そういうことです。それがあれば、寒い冬も越せますよ」
「父上! それだけではありません! 行軍する兵士や、夜間勤務する兵士達! 朝早くから港で働くもの達など! いくらでも使い道があります! 何より、火の番が必要ありません!」
(……さすが、第一王女様ってことか。すぐにポンポンと案が出てくるね)
「ふむ……確かに。これを其方が?」
「ええ、私が思いつきました」
(少し心苦しいけど、ここは自分を高く売り込まないと……)
「なるほど……穀潰しというのはカモフラージュで、神童だったわけか」
「ふふ、面白い……」
「いえいえ、穀潰しには違いありませんから。あとは、こちらです」
次は白色の魔石を取り出す。
「では、また私が……」
「いえ、それは危ないので……これ使っても良いですか?」
俺は、テーブルの上にあるフルーツを指差す。
「ああ、構わん」
「では——」
俺が魔力を送り込むと……フルーツが凍る。
「なっ!?」
「き、希少な氷魔法!?」
「ええ、そうです。これも、私の魔法を入れています」
「ハハッ! とんだ麒麟児ではないか!」
「限られた者しか使えない氷魔法を……しかもコントロールが難しく、中々魔石には封じられないというのに」
(よしよし、掴みはオッケーかな)
おそらく、海が近いこの国は暖かい方だ。
つまり、それだけ氷魔法の使い手がいないと踏んだ。
そもそも、魔物が大量にいる森とは接していないので、魔石もそこまではないはずだ。
「これがあると……わかりますか?」
「ああ、もちろんだ」
「父上……もし、これが手に入れば……遠くの方に海産物を送ることができます! この地でしか食べられず、消化しきれない食材を民に支給することが! そして量が多くて腐らせてしまうものを凍らせ、非常食として使うことも!」
「そうだ。そして、もっと言えば……他国との貿易にもなる。いや、日持ちするということは、贈り物にすらなり得る」
「それに暑い時期になったら、いくらでも有効活用があります!」
(よしよし……やっぱり、為政者だけはあるね。次々と考えが出てくる)
ここにくるまで、色々話すかは迷っていたけど……。
先程からの対応をみて、問題ないと判断した。
この人たちは、まともな為政者だと思うし。
「さて、どうですかね? これに、何も入れてない魔石もつけます」
「……充分すぎるな——何か欲しい?」
「そうですね。海産物はもちろんですが、良いワインが欲しいのと……米もそうですが、米の元になるものが欲しいです。できれば、作り手の方も」
「ふむ……交流ということか?」
「ええ、そんな感じです。シルク、俺の権限で出来るかな?」
それまで静かに見守っていたシルクに聞いてみる。
「ええ、問題ありませんわ。ですが、確認は取るべきかと」
「うん、もちろん」
「なるほど……」
「出来れば流通整備をして、お金ではなく物々交換などが出来たらなと思ってます。こちらはただの魔石や、魔法を封じた魔石を。そちらからは、豊富な食材などを」
「父上、悪くない話かと。正直言って、今までは取引する物がありませんでしたが……」
「ああ、わかっている。あとは確認することだな。では、これからうちの文官達と話し合う。そちらから、誰か参加してもらえるか?」
(そりゃ、そうだよね……となると、うちからは)
シルクが一歩前に出て、綺麗にお辞儀をする。
「では、私が参加させていただきます」
「シルク、任せてもいいかな?」
「はい、もちろんですわ」
「レオ、シルクを任せるよ?」
「へいっ! お任せを!」
「オーレン殿の娘さんなら申し分ない。いやはや、有意義な時間だった。セシリア、お礼に街を案内して差し上げろ」
「はっ、父上」
(よしよし……これがうまくいけば、辺境改革が進むはずだ。いざとなれば、もっと色々提供しようかと思ったけど……下に見られても困るしなぁ)
「ところで、マルス殿は……うちの娘はどう思う?」
「へっ?」
「ち、父上!?」
「婿にでも来ないか?」
「……それは」
「「ダメです!」」
リンとシルクの声が重なる。
ついでに言うと、俺の両腕にしがみついている。
(ちょっ!? 両腕が幸せに包まれてますけど!?)
「ふむ……すでに二人いるのか。ましてやセルリア侯爵の娘さんか……仕方あるまい」
「父上、そもそもマルス殿に失礼です。私と彼は十歳近く離れているのですよ?」
「それもそうだが……下の子達は嫁に行ってしまったし……はぁ」
「そ、それより! 早く話を進めてください!」
「……そうだな」
そう言い、ヨハン様は肩を落として部屋を出て行った。
どうやら、どこの国も色々あるようです。
(だが、これで……念願の米が手に入るぞォォ!!!)
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