61話 食事会にて

 ……まさか、この世界で出会えるなんて。


 そりゃ……期待してなかったわけじゃない。


 港町っていうぐらいだし、あったら良いなって思ってたけど。


「マ、マルス様? 目が血走ってますわよ?」

「し、仕方ないんだ! アレは俺の……文献で見たことあるんだ。すっごく、気になってたんだよね」


(アブナイアブナイ……大好物だなんて言ったら、変に思われちゃう)


「ほう? 我が国の首都でしか食べられない物なのだが……まさか、他国に知っている者がいようとはな」

「父上、マルス殿は変わり者なのは事実のようです。しかし、私は個人的に気に入りました。先ほど、私に向かって啖呵をきったほどです」

「ははっ! 青薔薇姫と呼ばれるお前が気に入ったか! まあ、変わり者同士ってことだ」

「えっと……」


(そんなのはどうでも良いから、早く食べたいんだけど……)


「おっと、すまん。では、食べるとしよう」


 メイドさんたちが、俺たちの前に食事を置いていく。


「マ、マルス様? こ、これ……生ですわ」

「うん、そういう食べ物だからね」

「やはり、そちらの国の者には厳しいか。いや、無理はしなくて良い」

「い、いえ! ここで退いてはセルリア家の名折れ! 食べさせて頂きますわ!」

「ほう? かの有名なセルリア侯爵家の者か……うん? もしや……オーレン殿の?」

「えっ? は、はい、そうですが……何処かでお会いしたことがございますか?」


(良いから! 話長いから! 俺に食べさせてぇぇ——!!)


「父上、お話は後にしましょう」

「おっと、余の悪い癖だな。では——召し上がれ」

「いただきます!」


 俺は手掴みで寿司を掴み、口の中に放り込む!


「っ〜!! 旨い!」

「ふえっ? て、手掴みですの!?」

「ほう? 食べ方まで知っているとは……やりおる」


(この仄かな酸味……間違いなくお酢だ! そして、何の魚かはわからないけど……サバに近い? とにかく懐かしい!)


「い、いきますわ……はむっ……っ〜!!」

「痛い痛い!?」


 隣にいるシルクが、俺の背中をバンバンと叩いてくる!


「す、酸っぱいですぅぅ……」

「くははっ! すまぬな、説明もなしに。しかし、マルス殿は平気そうだな?」

「はい、俺はお酢を知ってますから。すっごく美味しいですが、何の魚ですか?」

「ギラーヌだな。獰猛な魔獣で、人一人くらいなら丸呑みできる」


(……こわっ! そりゃ、そうか……あの広い海で生き残るための進化なのかも)


「なるほど……ところで、お酢はここにしかないのですか?」

「ああ、我が国の首都のみで生産されている。美味しいワインなんかもあるぞ?」

「それは、是非とも手に入れたいですね。特に——このお米を」


 おそらく、俺が今まで食べてたのはインディカ米に近い。

 しかし、これは……俺の馴染みのあるジャポニカ米に近い。

 つまり——俺の求めていたモノだァァァ!


「ふむ……そちらの国ではあまり食べられていないが。なるほどなるほど……しかし、この城で出る以上安いものではない。対価は必要だと思われるが、如何だろうか?」

「それは後でお見せ致します」

「ほう? 随分と自信ありげな表情だ。では、楽しみにしてるとしよう」





 その後、他の知ってる食事も出てきたが……。


(やっぱり、単純なものが多い。魚の味噌汁や、醤油を使ったモノ……流石にワイン蒸しとかはあるか……)


「……慣れると美味しいですわ」

「でしょ? 本来は女性に人気があるものだったらしいから」

「ふむ、それは良かった」


 その時——キュルルルーと可愛いらしい音が鳴る。


「……リン?」

「……申し訳ありません」


 耳まで真っ赤になったリンが俯いている。


(そりゃ、腹も減るよね……そっか、俺があげる分には良いかも)


 寿司を掴んで……。


「はい、アーン」

「へっ!? い、いや、そんな……」

「ほら、食べてよ。気になって食事にならないしさ」

「……そ、それでは……アーン……お、美味しいです……」


 まるでプシューという擬音が聞こえるほど、全身が赤くなっていく。


「後で、食事をしにいくから我慢してね」

「レオ、貴方もですわ」

「あ、ありがとうございます」


 ひとまず、これでよしと……ん?


 何やら視線を感じるので見てみると……。


「………ほう」

「不味かったですか?」

「いや……良き関係だ。その優しさ……よく似ている。お主の父と母も、奴隷……自分より下の身分の者に優しかったのでな」

「そうですか……ありがとうございます」

「ふふ、ますます気に入った」

「ど、どうも」

「むぅ……」


(あのぅ……シルクさんや……つねらないでください)






 食事を終えたら、部屋を移動する。


 俺とシルクはソファーに座り、二人と対面の形になる。


「まずはシルク嬢の父上……オーレン殿とは、あちらに訪問した際に世話になった。最強の護衛を寄越すと、フリージア国王が手配してくれてな」

「なるほど、そういう経緯ですか」

「私は知りませんでしたわ」

「無理もない、二人とも生まれる前だろう」


 すると……目をキラキラさせたセシリアさんが身を乗り出してくる。


「それより、対価は何かあるのだ?」

「ええ、少しお待ち下さい——これです」


 ふふふ、出し惜しみはしない。


 俺は必ず——米を手に入れる!







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