60話 初めての他国

 そこから数日をかけて……ようやく、関所に到着する。


 そして、そこから更に一日ほど移動して……。


 港町、アクアテーゼに到着する。


 道中の店などには目もくれず、まずは高台の方に移動する。


「おおっ——! 着いたね!」

「うわぁ……素敵ですわ……!」

「へぇ……これは壮観ですね」

「オレが、こんな景色を眺める日が来るなんて……」


 俺たちの目の前には、大海原が広がっている。

 見渡す限りの海……遠目からでもわかる大きい魔獣……。


「これがセレナーデ国の首都か」


(こりゃ、戦争なんかしなくても良いわけだ)


 通ってきたけど、うちよりは豊かだし。

 やっぱり、海が近いっていうのは利点が多いよなぁ。

 もちろん、危険も多いけど……。

 その分優秀な冒険者や兵士が育って、彼らが魔獣を狩って……。

 その魔獣を元に、経済が回って……って感じで潤うんだろうね。






 ひとまず冒険者ギルドに行って、道中で倒した魔獣や魔石を換金する。


 幸い、お土産用に荷台は大きいのを用意したから、そこそこの値段になった。


 受付を終わらせ、外に出ると……。


「すまないが、少しよろしいか?」


 青い髪のナイスバディで綺麗なお姉さんが、俺に話しかけてきた。

 後ろには護衛がずらっと並んでいる。


「俺ですか?」

「ええ、貴方がマルス殿でよろしいか?」

「えっ? ええ……よくわかりましたね」


(うわぁ……綺麗な人だなぁ。騎士服を着て、カッコいい大人の女性って感じだ)


「むぅ……マルス様、デレデレしないでください」

「そうですよ、いくら綺麗だからって」

「えっ!? し、してないよ!?」


(というか……あれ? まだ王城に挨拶に行ってないけど……)


 姉上から手紙を預かっていて、それをこれから見せにいくところだった。


「マルス様、自分の容姿を自覚なさってください」

「そうですわ。漆黒の髪なんて、この世界にはマルス様くらいですわ。しかも、そんなドラゴンを連れていますし」


(そういやそうだった! 道理で視線を感じるとは思っていたけど。黒髪黒目なんて、記憶を思い出した俺からしたら普通そのものだし)


「てっきり、シルクやリンが綺麗だから見られてるとばかり思ってたよ」

「なっ——何を言いますの!?」

「な、な、何をいうのですか!?」

「ん? 何か変なこと言った?」

「ハハッ! ボスは女の扱いが上手いのか下手なのかわかんねえな!」

「キュイ!」


 すると……。


「ふふ、愉快な方々のようだ」

「す、すみません……お名前を伺ってもよろしいですか?」

「これは失礼した。私の名は、セシリア-セレナーデという。この国の第一王女だ」


(……えっ!? 王女様なの!? こんなにカッコいい感じなのに……)


「こ、これはご丁寧にありがとうございます。私はマルス-フリージアといいます。慣れないことですので、失礼なこともあるかもしれませんが、ご容赦ください」

「ああ、構わない。私も堅苦しいのは嫌いでな」

「ほっ……それなら良かったです」

「では、ここからは普通にしてくれると助かる。私が偉そうな態度に見えてしまうのでな」

「わかりました」


(随分と男らしいというか……)


「くっころ! とか言ってもらえませんか?」

「はい?」

「イテッ!?」


 俺はすぐにシルクとリンに叩かれる。


「す、す、すみません!」

「マ、マルス様は変わり者でして!」

「ご、ごめんなさい」


(だって……すっごく似合いそうなんだもん。如何にもな女騎士で、王女様とか……完璧じゃないか!)


「クク……本当に愉快な方だ。ある意味で噂通りか」

「えっと……」

「いや、何も言うまい。私は自分の目で見たものしか信じないタチでな。その私から見て……とてもじゃないが、穀潰しとは思えない」

「それはどうも……」

「さて、立ち話もあれなのでな……ついてきてもらえるか? 城へと案内しよう」

「ええ、もちろんです。わざわざありがとうございます」

「なに、気にするな。私も興味があったのでな」

「へっ?」

「いや……さあ、行こうか」


 そして、そのままセシリアさんの後をついていく。


 ところで……なんで、シルクとリンは不機嫌なんだろう?







 やはり、海沿いの都市だからか、高い位置に建物が多いようだ。

 城は一番目立つように、高くそびえ立っている。

 橋が下され、俺達は城にの中へと入っていく。




 そして……とある扉の前に案内される。


「今回は非公式だから、普通の部屋に案内する。故に、そこまで硬くならなくて良い」

「はい、わかりました」

「しかし——奴隷はここで待機だな」

「オ、オレは!」

「レオ、抑えなさい」

「し、しかし、姐さん……」


(……やはり、そうなるか。リンやレオには視線もやらなかったし。もちろん、この女性が悪いわけではないが……嫌だなぁ)


「奴隷ではなければ? ——俺の大切な仲間です」

「マルス様……」

「ボス……」

「……変わり者というのは本当だったか」

「ええ、そうですね……それを変わり者というなら——俺はそれで良い」

「……クク……ハハッ! 愉快だ!」


(……なんだ? どういう意味だ?)


「いや、すまない。なるほど……素晴らしい」

「へっ?」

「試したことを謝罪する」


 そういうと、しっかりと頭を下げてくる……レオやリンに向かって。


「い、いえ……」

「な、なんだ?」

「ふふ、噂を聞いていたのでな。では、入ろう。安心して良い、私が許可する。だが、流石に席にはつかないでもらえるか?」

「ええ、それくらいなら」

「すまんな」


 よくわからないけど……悪い人ではないのかも。


 ところで……道理で静かだと思っていたら。


「プスー……」

「ルリはよく寝るね」

「生まれたばかりですから」

「それについても、あとで聞かせてもらいたいところだ」

「ええ、別に良いですよ。といっても、俺もわかってませんけど」


 セシリアさんが、扉を開けると……。


「来たか」


 青髪でガタイのいい壮年の男性が、テーブルの奥に座っている。

 どうやら、食事をする場所のようだ。


「父上、マルス殿をお連れしました」

「ご苦労だった、セシリア……よく似ているな」

「へっ?」

「其方の亡き母上と父上とは面識がある。さて。挨拶が先だな。。余の名は、ヨハン-セレナーデだ」


(……そりゃ、そうだよね。同じ国王だったわけだし)


「初めまして、ヨハン様。マルス~フリージアと申します。そして申し訳ありません、私はほとんど覚えていないのです」

「仕方あるまい。其方は幼かったと聞く。さて、まずは歓迎しよう。席に座ると良い」


 メイドさんが来て、俺とシルクのみが座る。

 リンはルリを抱っこして、シルクの後ろに、レオは俺の後ろに立つ。


 すると……国王様が手を叩く。


「食事を用意した、まずは」

「っ〜!! うぉぉぉ!!」

「……なんだ?」

「す、すみません!」


 叩いた瞬間、ガラガラと台車がやってきた。


 そして……その皿に乗っていたのは……。


(……寿司だァァァ!)


 つまり——念願の米である!

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