59話 旅路にて

 すぐに準備をして、都市の入り口に集合する。


「ラビ、言っておいたことはわかりますわね?」

「はいっ! もらった本で勉強します!」

「ええ、そうです。ですが、休むことも大事ですからね」

「ふふ、私が見ておくから平気よ」

「ライラ様、よろしくお願いしましゅ! ……あぅぅ……」


 ラビは姉さんを見てブルブルしている。

 どうやら、恐怖心を植え付けてしまったらしい。


「大丈夫だよ、姉さんはライル兄さん以外には優しいから」

「ええ、そうよ」

「おい!?」

「は、はい!」


 兄さんは無視(酷い)して、俺もシロに伝える。


「シロ、メモは書いておいたから。ただ、休むことが優先だからね?」

「が、頑張ります!」

「だから、頑張っちゃダメなんだって……」

「うぅー……難しいです……」

「仕方ねえ、俺が見といてやる」

「ええ、お願いします」


 最後に、ベアに話しかける。


「ベア、守りは頼んだよ」

「ああ、任せておけ。俺が、主人の大事なものを守ろう」


 みんなを守る者として、ベアに留守番を任せる。


 そして、俺達は馬車に乗って、バーバラを出発するのでした。


 ふふふ、のんびりするぞぉぉ〜!















 what'shappenホワッツハプン!?(何が起きたの!?)


 何故か、人々に囲まれています。


「もうぅぅ〜! いいですから!」

「キュイー!?」

「いえ! そういうわけにはまいりません!」

「是非とも! お願いします!」

「一泊でもいいですから!」


 さっさと南の国に行きたいけど、道中の村々に引き止められてしまう。

 どうやら、俺にお礼がしたいらしいけど……。

 まだ何もしたつもりはないので、少々バツが悪いというか……。






 結局、説得するのに一時間くらいかかってしまった……。

 税金云々や、警備の強化、食料の配布などが上手くいってるのは良いけど。


「はぁ……ありがたいけどさ」

「ふふ、マルス様は感謝されることに慣れていませんから」

「そうですね。ですが、我々はいつだって感謝してますから」

「ボス! そうですぜ! 」

「キュイ!」

「もちろん、私もですわよ?」

「……ありがとう、みんな」


(むず痒いけど、悪い気はしないよね……やれやれ、そう簡単にダラダラはさせてもらえそうにないね)







 下手に村に泊まると引き止められるので、野宿をする。


 といっても、俺の魔法があるので快適そのものである。


 リンとレオに見張りを頼んで、俺とシルクは椅子に座る。


「こういうのって難しいよね」

「どうしたんですの?」


 焚き火を囲みつつ、シルクに話してみる。

 ちなみに、ルリはシルクの膝で『すぴー』と言っています。


「うーんと……嬉しいけどさ、全部の村を回るわけにもいかないよね?」

「まあ……そうですわね。マルス様の身体はおひとつですから」

「どっかに滞在したらさ、なんでうちにもって思われちゃうよね?」

「そういうことですか……ええ、残念ながら」

「かといって、全部を断ってたら……」

「それはそれで……言われてしまいますわね」


(……うーん、解決方法は何かなぁ?)


「ふふ」

「シルク?」

「ご、ごめんなさい」

「何か変なこと言った?」

「いえ……結局、民のことを考えていらっしゃるので」

「……あっ——そうだった! 俺は休みだった!」


(俺としたことが! いつの間かワーカーホリックに!? 由々しき事態です!)


「でも……そういうマルス様は素敵だと思いますわ」

「そ、そうかな……?」

「はい、私の……す、好きな人は素敵ですわ」

「あ、ありがとう……」

「い、いえ……あぅぅ」


 シルクは見る見るうちに……耳まで真っ赤になっていく。


(こ、これは……良い雰囲気なのでは!? 経験がない俺でもわかるよ!)


 ………肩くらいは抱き寄せても良いかな?

 いや、しかし……殺されるかな?

 俺が意を決して、肩でも抱こうかとすると……。


「マルス様?」

「キュイー?」


 つぶらな瞳が四つ……俺を見つめている。


「い、いや! なんでも無いです! ごめんなさい!」

「えっと……?」

「やれやれ、ヘタレですね」

「ボスはなっちゃいないですね」


 いつの間にやら、2人が側に来ていた。

 気配を全く感じなかった……これが獣人族の力か!


「何という無駄使い……」

「……どういうことですの?」

「そうでした……シルク様は筋金入りの箱入りお嬢様でしたね」

「へい、そうみたいですぜ」

「これは、我々で何とかしないと……シルク様、少し良いですか?」

「はい? え、ええ……」


 シルクを呼び寄せ、リンは何やら耳打ちをしている。


「ボスも苦労しそうですぜ」

「うん? そうなの?」


 帰ってきたシルクの顔は、さっきよりも真っ赤になっていた。

 本人には言わないけど、まるでゆでだこのように……。


(そういや、港町って言うし……タコとかいるかな?)


「マ、マルス様!」

「はい?」

「そういうのは……その、あの……まだ早いですわ!」

「そっか……肩を抱き寄せるのもダメか……」

「ふえっ?」

「えっ?」

「はい?」


 何やら、憐れみの視線を向けられている……何故だ?


「……何、みんなして」

「も、もう! リン!」

「わ、私は悪くありませんよ!」

「ハハッ! シルクさんのが苦労しそうだ!」

「……げせぬ」

「キュイー!」


 こうして、楽しい旅路は進んでいく……。


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