58話 休みを要求する!

……く、苦しい。


な、なんだ?


「プハァ!?」

「キュイー!」

「……君かい、ルリ」

「キュルルー!」

「はいはい、おはよう」


一緒に寝ていたが、どうやら先に起きて退屈してたらしい。

そして、俺の顔に乗っかったと……。

表情が豊かだからなのか、賢いからか……。

何となく、ルリの言っていることがわかる気がする。


「キュイ!」

「はいはい、魔石ね」

「パクッ……キュイー!」

「何とまあ……不思議なこと」


この子だけが特別なのか、それとも高位魔獣が特別なのか……。

色々と調べてみないとね。

もしかしたら、面白いことがわかるかもしれないし。






朝ご飯を食べ終えたら……これからについて話し合いです。


ライラ姉さん、ライル兄さん、リンとシルクが集まる。


「マルスは何から始めたいの?」

「はいっ! 休みを要求します! コッペパンじゃなくて美味しい米が食べたいです! そして、だらだらしたいです!」

「マルスゥゥ? 今は、そういう話をしているんじゃないわよ?」

「ヒィ!?」

「いや、良いんじゃねえか」

「ライルゥゥ?」

「ヒィ!? ま、待て! 話を聞いてくれ!」

「……まあ、良いでしょう」

「兄さん! ありがとう!」


どうやら、俺とライル兄さんが消し炭にならずに済みそうです。

兄さん、燃えるときは一緒にね!


「へっ、調子の良い弟だ。まあ、しかし……こいつよ、少し働きすぎだぜ? もちろん、今までが怠けすぎだけどよ」

「なるほど……確かにそうね。可愛いマルスを休ませてあげるのも大事よね……もっと、色々実験したかったけど……ひとまず、我慢するわ」

「ほっ……」

「確かに。私達が来てから、もうすぐで一ヶ月が経ちますね」

「それは……マルス様にしては働きすぎですわ」

「でしょ!? 休みが欲しいよぉ〜! だらだらしたいよぉ〜!」

「キュイキュイ!」

「じゃあ、良いわよ」


(ヤッタァ! 久々の休みだ! ……あれ? おかしい……俺はスローライフを目指しているのに……どこに行こうとしてるんだろう……)


その時、俺の脳裏によぎったのは……。

まるで、はぐれメタ○が逃げ出したばりに——スローライフが逃げていく音だった。


「い、いや! まだいけるはず! 俺は諦めないぞォォ!!!」

「キュイ——!」

「おおっ! わかってくれるか! よしよし!」


意外と柔らかい肌を撫でてあげる。


「キュキューン……」

「か、可愛いですわ!」


シルクが寄ってきて、一緒に撫でる。


「シルクは、いいお母さんになりそうだね」

「な、何を言いますの!?」

「ヘブシッ!?」


思いきりど突かれて、俺は吹き飛ばされる!


「イテテ……」

「も、もう! 変なこと言うからですわ!」

「えぇ〜……」


どうやら親になったけど、女心はさっぱりわからないようです。


「さて……じゃあ、南にある国セレナーデに行くと良いわ。その間は、私とライルがやっておくから」

「げげっ!? 俺も!?」

「アンタが言い出したんじゃない」

「そうだけどよぉ……」

「兄さん! とっておきの料理を作りますから!」

「なに!? ……よし、良いだろう」


こうして、取引は成立したのでした!

ふぅ〜! 休みだ休みだァァァ!






さて、そうなると……人選をどうするかですね。


ライル兄さんとライラ姉さんが去った後、仲間達を部屋に呼ぶ。


「はいっ! 休みたい人!」

「キュイー!」

「多分、マルス様だけですね」


みんなが頷いている。


「ダメだよ! みんなワーカーホリックになっちゃうよ!」

「ワーカー……何ですの?」

「うーん……働きすぎて、それに慣れてしまうことかな。仕事をしなきゃっていう強迫観念に囚われるんだよね。それで、いずれ身体が悲鳴を上げていることに気づかずに——死んじゃうんだ」

「こ、怖いですぅぅ〜!」

「ぼ、僕も!」

「ふむ、奴隷仲間の中にもいたな」

「ああ、ベアの言う通りだぜ」


(まあ、この辺りは元奴隷達ならわかるよね……皮肉なことに、俺もわかるし)


多分、直接的ではないとはいえ……死んだ一因だと思うし。

スローライフを目指して過労死とか……そんなの笑えないよ!


「まあ、そんなわけでメンバーを決めましょう」

「私はついていきますからね。貴方をお守りする責務があるので」

「別に、たまには休んでも良いんだよ?」

「えっ——い、嫌です」

「はい?」


何やら、リンが落ち込んでる……どうしたんだろ?


「マルス様!」

「はいっ!?」

「リンについてきて欲しいのか欲しくないのか——どっちですの!?」

「シ、シルク様!?」


珍しいなぁ……リンがオロオロしている。

いや、この場合は懐かしいかも。


「へっ? そりゃ……ついてきて欲しいに決まってるけど?」

「そ、そうですか……ふふ、仕方ありませんね。さっさと、そう言えば良いのに」

「そうならそうと言えばいいのですわ!」

「……なんで、俺は責められてるの?」

「ははっ! ボスは女の扱いは疎いらしい!」

「うむ、若さゆえのことだろう」

「……解せぬ」


その後、話し合いをして……。


俺とルリ、リンとシルク、そして護衛としてレオという面子に決まった。


あっ——ちなみに静かなルリちゃんは、ずっとシルクに抱かれていました。


いやはや、ルリちゃんが女の子で良かったですよ。


……俺って、意外と嫉妬深いようです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る