57話 親子丼を作るってばよ
ひとまず、名前をつけたのはいいけど……。
「君は何を食べるの? というか、重たいんだけど……」
「キュイ!」
「それが……わからないのよ。まあ、乗ってる様は可愛らしいけど……あら?」
急に頭が軽くなったと思ったら……ルリは、パタパタと宙に浮いていた。
「どうやら、空を飛ぶタイプのドラゴンのようね」
「飛ばない奴もいるんですか?」
「ええ、もちろんよ。グリーンドラゴン、レッドドラゴン、ブルードラゴン、アースドラゴンがいるわね。グリーンとレッドは羽があって、その子に近いタイプね。ブルーとアースは羽がなくて地面にいるタイプね」
「……あれ? その言い方って……」
「そんな子、文献でも見たことないわ。頭にツノが生えているし……色も深い青色だわ。まあ、文献自体が少ないから何とも言えないけど……」
(……どうやら、珍しいドラゴンさんのようです)
「キュイ?」
「君は何を食べるの?」
「キュイー!」
ルリは、俺の腰にある袋を尻尾でピシピシ叩く。
「うん? ……まさかね」
試しに魔石を差し出すと……。
「キュイー!」
嬉しそうに口に運び……飲み込んだ。
「ええっ!? へ、平気!?」
「キュイキュイ!」
嬉しそうにはしゃいでいる……どうやら、平気みたいだね。
「……まさか、魔石が餌? それはどうして? ……これは面白いわね。マルス、色々と調べるわよ」
「か、解剖はダメだよ!?」
「キュイ!?」
「……同じような顔をしてるわね。そんなことはしないわよ、少し弄るだけよ?」
「ダメです!」
「キュイ!」
「むぅ……仕方ないわね。じゃあ、経過報告をしっかりしなさい。わかったわね?」
「まあ、それなら……」
「キュイ……」
「ふふ、本当に親子みたいね」
(親子か……前世も含めて親を知らない俺に育てられるかな? ……よし、頑張ってみるか。親がいない寂しさは、誰よりも知っているし)
ひとまず、リンとルリを連れて……本来の目的を果たしに行く。
「あっ、師匠」
「どう? 準備は出来てる?」
「はいっ!」
キッチンには、すでに解体されたゲルバがいた。
「さて……どうしようかな?」
(米が美味しくないとはいえ、まずは親子丼かな。あれなら汁があるし、今の米でも美味しく食べられるかも)
「では、親子丼というものを作ります!」
「おー!」
「キュイー!」
「はいはい、わかりましたよ。それで、何で親子丼なのですか?」
「ゲルバのもも肉と、ゲルバの卵を使うから親子ってことだね」
「なるほど、面白い名前ですね」
「師匠、どうやるんですかぁ?」
(……えっと、確か)
当時の記憶を頼りに手を動かしていく。
「まずは醤油、ゲルバの骨の出汁、砂糖、生姜を混ぜる」
「ふんふん、この辺は普通の煮込みでも使いますね!」
「うん、そうだね。ある意味では煮込みに近いからね」
(この世界の卵料理は基本的に焼くだけだ。そもそも貴重品だし、試行錯誤するほどの数もなかったのだろうね)
前の世界だって、鶏がいなかったら……今頃、どうなっていたか。
偉大な先人がいたから、安く普通に食べられたんだよね。
「それを鍋で火にかけてと……シロ、玉ねぎをスライスしてくれる?」
「はいっ! お任せください!」
「ありがとう。じゃあ、俺はもも肉を焼くかね」
そう、俺が作るのは普通の親子丼じゃない。
前の世界では親子丼をよく作っていた。
卵も鳥もも肉も安く、ほかの大して材料費もかからない。
しかし……どうしたって飽きはくる。
そんな時に、俺が作っていたのは……。
「おろしニンニクを両面に塗って……それを焼く」
ジュワーという心地よい音と、ニンニクの食欲をそそる香りが鼻腔をくすぐる。
「くぅー! 相変わらず良い匂いだね!」
「お、お腹すいてきました!」
「キュイ!」
「……まだですか?」
俺を除く全員の尻尾がゆらゆら揺れている。
(ふふふ、この香りには抗えないよね!)
「こっちの方は温まったら、玉ねぎを入れて……軽く煮る」
その間に卵を割って……。
「リン、重たいよぉ〜」
「はいはい、やりますよ——ふんっ!」
的確にヒビをいれて、ボールの中に卵が流れてくる。
「うぉぉぉ!! すごい量だね!」
多分、鶏の卵十個分以上はある。
「でも、保存が効かないのがなぁ〜。やっぱり、養殖したいよね」
「そのための方法は浮かんでいるので?」
「うーん……まあ、一応ね。かなり無理矢理だけど……もう少ししたら実験開始する予定」
話しながらも、手は動いていて……。
玉ねぎがしんなりしてきたら、溶き卵を入れる。
「その間に、ご飯をよそって……ニンニク鳥を乗せると」
その上から、半熟になった卵を乗せる。
「これが——俺の親子丼です!」
普通なら出汁も出るから、玉ねぎと一緒に煮る。
でも、それだと飽きるから、焼いた肉に卵を乗せる形にしたってわけさ。
「みんなも、ぜひ試してみてねっ!」
「マルス様?」
「誰に言ってるんですかぁ?」
「まあ、気にしないで。さあ、どんどんやっていこー!」
「キュイキュイ!」
その後、試食会と言う名の夕食の時間である。
「マ、マルス様!? その可愛らしい生き物は……?」
「うん、ドラゴンらしいよ。名前はルリちゃんです」
「だ、抱っこしても……?」
「キュイ?」
「ルリ、この可愛いお姉さんが抱っこしたいってさ」
「キュイ!」
俺の側から飛び立ち、シルクの腕の中に収まる。
……別に、少し良いなとか思ってませんけど?
「なんだなんだ、一体何があった?」
「ライル兄さん、よくわかってないんですけど……」
ヨルさんやマックスさんもいるので、全員に説明をする。
ひとまず、俺が育てるということで。
「で、では、私もお手伝いをしたいですわ!」
「シルク? そんなに気に入った?」
「そ、それもありますが……予行練習に……ごにょごにょ」
「うん?」
「良いから食べようぜ! さっきからたまんねえぜ!」
兄さんの言う通りで、みんなの視線は……釘付けである。
特に、リンの尻尾がゆらゆら揺れて止まらない。
「ふふふ、食べても良いよ?」
「い、いただきます!」
席について、みんなが一斉に食べ始める!
「うまっ!? とまらねぇ……!」
「あらあら……上品な味わいの中にニンニクがあって……クセになるわ」
「マルス様! おかわりは!?」
「リン!? 早いよ!?」
ひとまず、俺も食べて……。
「くぅ〜! これこれ!」
(パンチの効いたニンニクに鳥の旨味! 甘さのある卵のまろやかな味わい! この組み合わせが最高に美味いんだよね!)
かきこむように、次々と口の中に吸い込まれていく!
「ふぅ……美味かった」
こういう丼ものって、つい流しこんじゃうよね!
まだ卵はあるし、次はなにを作ろうかなぁ〜。
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