56話 マルス、◯◯◯◯の親になるってよ

俺がシロについていき厨房に入ると……。


「……あれ?」


卵が揺れている?

台座の上で誰もいないのにグラグラと揺れている。


「ご、ごめんなさい!」

「えっ?」

「僕が不注意でぶつかっちゃって……そしたら、ヒビが入って……さっきは動いてなかったんですけど……」

「ああ、そういうこと……刺激によってってことか……いや、怒らないから平気だよ。誰にでも失敗はあるし」

「ふぁ……あ、ありがとうございます!」

「それよりも……」


俺はその大きい卵に近づいて……確信する。


(……中から微かに鳴き声が聞こえるね)


「産まれるね」

「ええっ!?」

「さて……どうしたもんか」


(卵じゃなかったのは残念だけど……ゲルバの雛ってことは……飼育するチャンスでもあるってことか……でも、一頭だけじゃどうにもならないから……)


「マ、マルス様!」

「へっ?」


次の瞬間——眩い光が卵から溢れる!


「うわぁ!?」

「くっ!? 眩しい!」


そして……光が収まると……。


「あれ? 卵が割れてる……でも、何もいない」

「マ、マルス様! 頭の上です!」

「へっ? ……そういや、なんか重たい気がする……」

「キュイ!」

「はい?」

「キュイキュイ!」


俺は頭の上に乗っているモノを、両手で持って……顔の前に持ってくる。


「……あれ? なんで?」


俺が首をかしげると……。


「キュイ?」


この子も、同じように首をかしげる。


「これ……ゲルバじゃないよね?」


色が茶色くてダチョウのようなゲルバとは違い……。

この子は綺麗な青色だし、小さいけど羽もあるし、何故か頭には一本の角があるし……、

手と足もついてる……というか、これってどう見てもアレだよね。


「君——ドラゴンだね」

「キュイ!」


俺がそういうと、その子は笑顔になるのだった。

まあ、随分と……表情が豊かなこと。


「ど、どうして、ドラゴンが?」

「いや、俺が聞きたいよ。確かに、ゲルバが温めていた卵を持ってきたんだけど……」

「キュイー!」

「はいはい、わかったよ。君は元気がいいね」


つぶらな瞳で俺を見つめながら、しきりに顔を舐めてくる。


きりがないので、無理矢理剥がして頭の上に乗せる。


「ほら、ここで大人しくしてて」

「キュイ!」


ひとまず、シロにはゲルバの解体と仕込みをお願いして……。


俺は自分の部屋に帰ることにする。





部屋に入ると、リンとライラ姉さんだけがいた。


ちなみにドラゴンは、俺の頭の上で寝ています。


可愛らしく、ぷーぷーと鼻を鳴らして……あざとい。


「マ、マルス様?」

「それ、どうしたの?」

「実はですね……」


起こったことを、ありのままに話すと……。


「わけがわからないわね」

「そうですね……何が起きたのか……」

「そうですよねー。俺にもさっぱりで」

「もっと詳しく聞かせてちょうだい。ゲルバと出会う時からね」


俺は再び、ありのままに話す。


「……確証は持てないけど、わかったかもしれないわ」

「流石は姉上!」

「まあ、推測でしかないけど……貴方達、結構奥まで行ったのよね?」

「そうですね……ジェネラルオークが出るくらいには」

「うーん、確かに。 一日中歩いてたもんね」

「そして、そのゲルバに番はいなかったのね?」

「……そういや、倒してからも見かけてないかも」

「ええ、そうですね」

「もしかしたら……間違えて卵を温めていたのでは? オスはその習性があるっていうし」


(なるほど……メスがいなかったのは、そもそもゲルバの卵じゃなかったってことか)


「あれ? あのくらいに行くとドラゴンがいるってこと?」

「いや、そうとも言えないわね。そもそも、ドラゴンは高位の存在だわ。滅多に人前に現れることはないわね。ちょうど良い機会ね……少し、勉強会といきましょう」

「えぇ……」

「マルスゥゥ?」

「は、はいっ! 御指導御鞭撻よろしくお願いします!」

「ふふ、任せなさい」


姉上の説明によると……。

今現在の人類は、魔の森の一部しか把握していないらしい。

凶悪な魔獣や魔物はもちろんのこと……。

国のゴタゴタや、他国との争いなどが原因と言われているらしい。

いや、逆かもしれない……国のゴタゴタや他国との争いをしてしまったから、その間に人類は弱体化して……対抗できなくなってきたのかも。

それが獣人の奴隷化にも繋がってるかもね。


(どこの世界も一緒ってことか……問題を抱えているのに、足の引っ張り合い……自分達の利益しか考えられない……綺麗事ではやっていけないとはいえ、何だか悲しいね)



俺が、それらを伝えると……。


「マルス、良い考えね。そうね、そっちの可能性もあるわ」

「ど、どうもです」

「ふふ、やっぱり頭のいい子だったのね。さて、次に高位魔獣について説明するわ」


高位魔獣とは、他の魔獣とは別格の存在である。

人語を理解し、個体によっては話すこともある。

ドラゴン、ケルベロス、ユニコーンなどがいるらしい。

それらの特徴は、兎に角強いこと。

むやみやたらに姿を現さないこと。

出会っても敵対しないこと。

魔の森の奥地に生息しているということ。


「へぇ……そうなんですね」

「まあ、ここ何十年かは姿を見た人もいないけど……とりあえず、そんな感じかしらね」

「じゃあ、返した方がいいですかね?」

「キュイ!」

「うわぁっ!?」


急に頭の上で暴れ出した!

ひとまず、腕で抱っこすると……大人しくなる。


「とりあえず……そのドラゴンは、マルスを親だと思っているわね」

「へっ?」

「最初に目に入ったモノを親だと思うらしいから」

「……なるほど。でも、賢いのでは? すぐに違うと分かりそうですけど」

「多分だけど……文献によると、ドラゴンの卵は魔力が餌らしいのよ」

「ふむふむ」

「貴方、抱きかかえていたっていうし……もしかしたら、無意識に吸い取られてたんじゃない? それが孵化を早めたのかもしれないわ……農場と一緒でね。結果的に、貴方の魔力で孵化して……親だと思ってるのかも」


(一応、辻褄は合うってことかぁ)


「じゃあ、俺が育てるってことですかねー」

「そうなるわね。あと、多分だけど……女の子ね」

「キュイ?」


姉上は抱きかかえて、何やら頷いている。


(動物も飼ったことないし、子供もいたことないけど……孵化させたからには責任を取らないとだよね。放り出すことなく、きっちり育てないと……)


「じゃあ、君の名前は瑠璃色に輝いているから——ルリちゃんだね」

「キュイー!」


どうやら、気に入ってくれたようです。


さて……私、マルスはドラゴンの親になったそうです。


あっ——ちなみに……卵は、他の冒険者達が見つけてきてくれたそうで……。


ほっと、一安心したマルスなのでした。

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