55話 帰還

「……や、やめてください! 何故、こんなことを!?」


(な、何で、オーレンさんがここに!?)


「ほう? この状況で言い訳ですか——覚悟は出来ているんでしょうね?」


 オーレンさんが剣を振り上げ、俺に迫ってくる。


「お、俺が何をしたっていうんですか!?」


「なにをですと……その隣にいる女性は誰ですかな?」


 俺の隣には……シルクが寝転がっている——何故か裸で。

 毛布がかかっているが……その豊満なおっぱいも、白く綺麗な肌も見え隠れしている。


「そうだ! 俺は確かシルクと一緒に寝て……はっ!?」

「言質はとりましたぞ? ——お覚悟を」

「や、やめて! 違うんです! 話をきい」

「問答無用——成敗!」


 振り下ろされた剣が、俺に向かってくる!









「っ——!?」


(……あれ? 痛くない? それと、何か柔らかいものが……)


 気がつくと、いつの間かシルクの顔が目の前にあった。


(うわぁ……綺麗な顔……まつ毛長い……可愛い)


 そしてあることに気がつく。

 俺の手は……シルクの柔らかく、たわわに実った胸を揉んでいた。

 そして——シルクと目が合う。


「んぁ……はえっ? ……い、イヤァァァ!」

「ヘブシッ!?」


 シルクの平手打ちを顔面にくらい、俺はベットから転げ落ちる!


「な、なにをなさるのですか!?」

「ご、誤解なんだ! 悪気はないんだ!」

「うぅー……お嫁にいけませんわ……お父様に言わないと」

「やめて——!? オーレンさんには言わないで〜!! お願いします!」


 俺は懐かしのスライディング土下座を披露する。

 これ、前世ではよくやっていました……何の自慢にもならないね。


「シルク様、その辺で許してあげてください」

「リンエモ○!」

「リン……」

「だから誰ですか……別に、そのうち触られるから良いのでは?」

「へっ? ……ひゃぅ……」


 シルクから聞いたことない声が漏れる。


「えっと……」


(そのうち触る? ……結婚したら触れる? ……おっし! オラ頑張んぞ!)


 俺だって男の子ですからねー。

 そりゃ、触りたいですよねー。

 目指せ! イチャイチャスローライフ!

 ……めっちゃ良い響きだね!

 ……道のりは果てしなく遠そうだけど。





 その後、ひとまず許してはもらえたけど……。


「シルクさんや」

「……フンッ!」

「とほほ……」


 顔は腫れたままだし、そっぽ向かれるし……まあ、俺が悪いんだけど。


 とりあえず、バッチリ目は覚めたので……。


「じゃあ、帰るとしようか」


 準備をして、森の中を歩いていく。


 ちなみに、その間も俺は卵をスリスリしていた。


(もうすぐですからね〜、ハンバーグかなぁ〜とんかつかなぁ〜親子丼かなぁ〜)






 




 幸い、現れたのはオークやゴブリン程度の魔物……。


 アントや小型魔獣のみだったので……。


 三時間くらいで、すんなりと森を抜けることが出来た。



 すると……姉さんが突撃してくる!


「マルスゥゥ——!!」

「うひゃあ!?」


(ぐぬぬ! 死ぬ!? 胸に圧死される! これが胸を揉んだ報いなのか!?)


「おい! 平気か!? 姉貴! 顔を見てみろ!」

「……まあ! すごい腫れてるわ! 誰がやったの!?」

「……えっと、それはですね……」

「あぅぅ……私は悪くありませんもの……」

「あん? どういうことだ? 何でシルク嬢は顔を真っ赤にしてんだ?」

「これは……あとで、じっくりと話を聞く必要があるわね」

「ブルブル……お手柔らかに」

「お二人共、落ち着いてください。まずは帰りましょう」







 リンの言う通りに、ひとまず館に帰還する。


 卵とゲルバをシロに託して、俺たちは部屋に戻る。


 そして、経緯を説明する。


「なるほどねぇ……それはマルスが悪いわね」

「ハハッ! で、どうだったよ? 揉みこごちは——ぐへぇ!?」


 シルクと姉さんの一撃で、ライル兄さんが沈む。


「ベア、レオ、そのゴミを運んでくださる?」

「「へいっ!! 姉御!!」」


 いつの間にか、ベアとレオの態度が変わっている。

 どうやら、逆らってはいけないと認識したようだ。


「ふぁ……」

「シルク様、行きましょう」

「そうですね、シルク様」


 やはり疲れていたのだろうね。

 あくびをしたシルクを、リンとラビが連れて行く。

 つまり、部屋に残されたのは……俺と、姉さんだけである。


「マルスゥゥ?」


 その言い方に、何か途轍もなくイヤな予感がしたので……。


「さ、さて! 俺も疲れたし寝ようかな!」

「待ちなさい」


 俺は肩を掴まれてしまう!


「な、何か?」

「シルクから聞いたわ。マルスの魔力を測ってくださいって」


(い、いつの間に……もしや、これがお仕置きということか!?)


「そ、そうなんですよ! 少し気になってて……でも、今は良いですよ。ほら、俺も疲れ」

「行くわよ」

「ちょっ!? 引きずらないで〜!」

「なにか用事でも?」

「ほ、ほら! 卵も手に入ったし! ゲルバもあるし! 姉上に唐揚げっていうやつを」

「それなら平気よ。僕が作れますって言ってたから」

「シロォォォ——!!」


(何ということだっ! 教えたことが裏目にでるとは!)




 その後、庭に連れていかれ……。


「ファイアボール」

「アクアボール」

「ウインドカッター」

「ロックブラスト」


 ひたすらに、魔法を打たされる。


「……疲れは?」

「えっ? いえ、全く……感覚的には1割程度かと」

「……恐ろしいわね。下級魔法とはいえ、すでに数十発は撃っているのに」

「そうなんですか? いまいち、基準がわからないので……」

「私は国でも有数の魔法使いよ。その私より……マルスの方が十倍以上は上ね」

「えっ!? そんなに!?」

「それに威力も桁が違うわ。しかも、まだまだ伸びそうね……」


(はぁ〜チートって実感があまりなかったけど……しっかりくれてたんだね)


 天使さん、疑ってごめんなさい! きちんとチートだったらしいです!


「とりあえず、一つだけ判明したわ」

「何ですか?」

「私がマルスの言うように、農地に水を撒いてみたんだけど……物凄い魔力を持っていかれたわ」

「えっと?」

「つまり……イメージする度合いによって、消費量が増えるということね」

「……俺は魔力があるからイメージ通りになった?」

「そう推測ができるわね。というわけで、マルス以外には厳しいわ。もちろん、下位互換は可能よ」

「そっかぁ……はぁ、働かないといけないのですね」

「ふふ、もしくは弟子を育てることね」

「なるほど……ふむ、考えておきます」


 すると……シロが息を切らしてやってくる。


「し、師匠!」

「どうしたの?」

「あ、あの! 卵にヒビが……」

「うん?」

「ごめんなさい!」

「まあ、落ち着いて。とりあえず、行こうか」


 はて? 一体なにが起きたのだろうか?

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