54話 外泊?

 念願の卵を手に入れたのは良いけど……。


 いよいよ暗くなってきたので、出来るだけきた道を戻っていく。


 もちろん、ゲルバ本体はベアが担いでいる。


 ちなみに、卵は俺が抱きかかえてスリスリしています。


(ふふ〜卵ちゃん〜なにを作ろうかなぁ〜)






 そして、ある程度と歩くと……。


「この辺りが限界ですかね」


 リンの案内で、多少ひらけた場所に到着する。


「ここなら音ですぐにわかるね。じゃあ、俺がチャチャっとやっちゃうね」


 土魔法により……あら、不思議。


「こんな森の中にステキな一軒家が! 一体どんな方が住んでいるのかしら?」

「マルス様? どうしたんですの?」

「ほっときましょう。いつもの病気です」

「相変わらず、辛辣なセリフを……スン」


(テレビ風にやってみたけど……そういや、テレビとかゲームとかないけど退屈とか思わないなぁ。もちろん、あったらやりたいけど……きっとなかったらなかったで、普通に生活できるものなんだろうな。昔の人はそれが当たり前だったわけだし)






 さっきと同じような土の建物にみんなが入り……。


「これで見張りも最低限でいいはず。一晩二晩くらいなら俺の魔力も余裕だし」

「マルス様……それは貴方だけですわ。やはり、ライラ様に一度きちんと見てもらった方が良いですわね」

「うん、帰ったら頼むとするよ」

「ところで、ご飯はどうしますか? ゲルバがありますけど……」

「個人的には、まだお腹いっぱいなんだよね」


 俺の言葉に、みんなが頷く。


「では、こうしましょう。今すぐに寝て、早朝になったら帰還するとしましょう。あまり遅くなると……ライラ様が森を焼け野原にしかねません」

「あ、ありえますわね……マルスはどこ!? と言いながら森を燃やす姿がありありと浮かびますわ……」

「そんなことは……ありそうだね」


 俺の脳裏に浮かぶ……炎を撒き散らしながら荒ぶる姉さんの姿が。


「あとはライルさんが死にますぜ」

「ああ、そうだな。きっと止めようとして……燃やされるな」

「あわわっ……いつも、燃やされてますもんね」


 その姿も、何も考えずとも浮かんでいる……ぎゃァァァ!という叫び声と共に。


「よ、よし! 早く帰ろう! 死人が出る前に!」


 みんなが顔を見合わせ、同時に頷く。

 たった今、全員の心が一致した瞬間である。


(……一応、シロには伝えてあるから平気だとは思うけどね)




 というわけで、人族である俺とシルク。

 幼いラビと、いざという時のリンが休むことになる。


「二人とも、悪いね」

「主人よ、気にするな」

「そうっすよ。俺らは体力だけはありますから」


 すると、シルクが……。


「わ、私……こんな場所で寝れますでしょうか?」


(まあ、そうなるよね。生粋のお嬢様だし。俺みたいに木の上で寝たりしないし)


「ちょっと待ってね……これで良いかな」


 土を変形させて、地面の上にベッドのような形のものを作る。

 やっぱり、姉さんの言う通りイメージが大事らしい。


「す、凄いですわ!」

「もう呆れを通り越して……なんというか。でも、これでオーレン様に怒られないですみますね」

「シルクを床で寝かせたなんて知られたら……ブルブル」


(考えただけでオシッコちびりそうです)


 そのベッドもどきに毛布を敷いて……。


「はい、どうぞ」

「わ、私だけですの?」

「私は立ったままでも寝れますので」

「わたしも慣れてますし……」

「うぅー……私も床で寝ますわ!」

「そんなことしたら俺が殺されちゃうよ!?」


(でも意固地なところがあるからなぁ……どうしたもんかね)


「マルス様が一緒に寝れば良いのでは?」

「はい?」

「リン!? 何を言いますの!? 未婚の女性が殿方と同衾するなんて……!」

「ですが、それなら一人ではありませんし。不安も消えるのでは?」


(……そっか、そもそも一人で寝ることなんかないもんな。しかも、こんな場所で)


「じゃあ、そうしようか」

「マ、マルス様!?」

「同衾って言っても、みんないるしね」

「そ、それはそうですが……」

「ほら、さっさと寝てください」


 リンが半ば強制的に、シルクをベッドに寝かせる。


「じゃあ、失礼するね」

「は、はぃ……」


 狭いベッドに二人で並んで、毛布をかぶる。


(……何これ? めちゃくちゃ良い匂いする。甘くて……脳内が痺れる感じ。そういや……前世も含めて初めてだね。女性と同じベッドで寝るとか……我ながらなんと悲しい事実)


「マルス様……わ、私臭くありませんこと?」

「へっ? い、いや、良い匂いするけど……」

「なっ——何を言いますの!?」

「イタっ!?」


(おかしい……何故、背中を叩かれたのだろう? 褒めたのに……誰か女性の扱い方を教えてください……)


「ほら、お二人共。さっさと寝てください」

「はーい」

「が、頑張りますわ……」







 数分後……。


「すー……すやぁ……」

「あらら、早いこと」

「シルク様には大変でしょうからね」

「うん、頑張ってるよね」

「わかってますよね? それが、マルス様のそばに居たいからだと」

「それはもちろん」

「では、マルス様もお休みくださいね」


 俺も背中にシルクの体温を感じつつ……。


 意外にも安心を覚え……微睡みの中に沈んでいく。









 ◇◇◇◇◇



 はわぁ……大変です。


 僕は、どうしたら……。


「どこ!? マルスは!?」

「お、落ち着けって!」

「落ち着けるわけがないじゃない! 泊まりなんて聞いてないわよ!?」

「おいおい、姉貴。あいつだって子供じゃないんだし……それに、調査には時間がかかるかもとは言ってたろ?」

「何!? 可愛いマルスがどうなっても良いっていうの!?」

「く、首を締めないでくれ!」

「うるさいわね! 私は行くわよ!」


 ライルさんをゴミのように振り払って、ライラさんが扉に向かいます!


「ま、待て! 一応、我が国唯一の王族の女性だっつーの!」

「そんなの知らないわよっ!」

「マックス! ヨル! てめえらも手伝え!」

「わ、私達もですか!?」

「し、しかし……触れただけで殺されるのでは?」

「ふふふ、良いわよ——全員でかかってきなさい」


 そんなはずはないのに、ライラさんの後ろには鬼が見えます……!


「い、行くぞ!」

「「はいっ!!」」


 大男三人が飛びかかるけど……。


「ウインドスラッシュ!」

「ぐはっ!?」

「ゴハッ!?」


 風の魔法で、ヨルさんとマックスさんが!


「チッ! オラァ!」

「燃えなさい——ファイア」

「ふっ——甘いぜ!」


 ライルさんが魔法を躱しました!


「甘いのは貴方ね」

「なに?……ぎゃァァァ! 尻が燃える〜!」


 何と、ライラさんは魔法を捻じ曲げて、ライルさんのお尻に当てました!


「ふんふん、やっぱり理論上は可能なのね」


 僕は、勇気を出して前に出ます。


「あら? 貴女も邪魔をするの? 出来れば、怪我はさせたくないけど」

「あ、あの!」

「なぁに?」

「マ、マルス様が……大人しく待ってないと髪を乾かさないって! あ、あと、美味しいご飯もあげないって!」

「……何ですって?」

「ヒィ!? ご、ごめんなさい!」

「……仕方ないわね。我慢するとしましょう」


 そう言って、ライラ様は自分のお部屋に戻って行きました。


「ほっ……」

「お、おい……」

「そ、それを早く言え……」

「俺たちは何のために……」

「「「グフッ」」」

「ご、ごめんなさい!」


 ……マルス様〜! シルク様〜! 早く帰ってきて〜!

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