51話 探索

一夜明け……出かける準備を整える。


だが、出かける前に聞いておくことがある。


「ヨルさん」

「なんでしょう?」

「村々から聞いたんですけど……何か、俺のことを良く言っていたそうで」

「す、すみません! 勝手なことを言ってしまって……」

「いや、別に良いんですけど……ほどほどでお願いしますね?」

「はい、わかりました」

「ふふ、マルス様は照れ屋さんですからね」

「シルク、別に俺は……」

「そうですよ、マルス様は褒められ慣れてませんから」

「リンまで……もう、それで良いや」


(褒められるのは嬉しいけど、周りが持ち上げるのは困るなぁ。俺は後々静かに過ごしたいわけだし、そんなに人間が出来てない……そのうち、調子に乗って失敗しそう)


……俺が気をつければいい話なんだけどね。


「あと、聞きたいんだけど……森に変化とかなかった? そういう報告はない?」

「何かあったのですか?」


村の魔物のことや、姉さんの推察を知らせる。

兵士や冒険者達の報告は、ヨルさんに行くはずだからだ。

森の中で変化があったなら、気づいてもおかしくない。


「ホブゴブリンやスカルが……いえ、報告には……いや、少々お待ちください!」







そう言って駆け出して……十分くらいで戻ってきた。


「ぜぇ、ぜぇ……す、すみませんでしたっ!」


すると、いきなり九十度の角角度で謝ってきた。


「どうしたの?」

「そ、それが……異変を感じた者は数名いまして……」

「へぇ? 報告がなかったの?」

「これは私の責任です。実は……以前、ここにいた責任者……私の上役ですね。その方に報告をすると、いつも『いちいち報告してくるな!』と怒鳴られてまして……他の兵士達もそんな感じだったもので……」


(うわぁ……前の世界にもいたなぁ。こっちは大事な報告してんのに、全然聞かない上司とか。しかも、それで何かあったら、責任はこっちに擦りつけるっていう……ヤダヤダ)


「そうだったんだね。じゃあ、これからは何でも伝えるように言っておいて。別に、怒ったりしないからさ」

「はいっ! 徹底させます!」

「うん、よろしくね。ホウレンソウは大事だからね!」

「ホウレンソウ?」

「えっと……報告、連絡、相談が大事ってこと」

「なるほど! それいいですね! 早速伝えてきます!」


そう言い、ヨルさんは再び部屋を出て行った。


「ふむ……目安箱でも作ろうか?」

「何ですの?」

「えっと……平民、貴族、獣人、子供大人関係なしに意見を入れられる箱だね。やっぱり、直接言い辛いこともあるだろうし」

「良い案ですわ! では、私の方でやってきますわね」

「うん、お願い」


(まあ、貴族に意見なんて考えは浮かばない世界だもんなぁ。多分、最初は怖くて誰も本音を書かないと思うけど……やらないことには始まらないしね)








その後出発して……森の中に入っていく。


俺とシルクとラビを中心に、レオとベアとリンで囲む。


「ラビ、頼んだよ」

「はい!」


その顔からは緊張は伺えない。

どうやら、慣れてきたようだね。


「あいたっ!?」


ラビは……突然、なにもないところで転んだ。


「どうやら……そうでもないね」

「あぅぅ……」

「ラビ、見せてくださいな」

「やっぱり、シルクを連れてきて正解だったね」


シルクが怪我を癒して、先へと進む。





そして気づく。


体感的に、一時間は歩いているのに……。


「ゴブリンが減ってますね」

「リンの言う通りだね。前は、この辺りにもいたんだけど」

「ボス、どうしやす?」

「どうやら、みんなが仕事してくれたおかげだね。じゃあ、いつもより少し進んでみよう。そうだなぁ……ラビ、川の流れとか聞こえる?」


(川の水があるということは、もしかしたら魔獣もいるかも)


「今は……聞こえません」

「よし、じゃあラビは音だけに集中して」

「はい!」

「転びそうになったら、俺が受け止めるね」

「うぅ〜お願いしますぅ」




その後……ようやくオークとゴブリンに出会う。


「シッ!」

「オラァ!」


しかし、リンとレオが瞬殺する。


「主人! スカルだ!」

「あ、あれがそうなのですわね」


ベアが指差す方には、スカルナイトが数体!


「シネシネ」

「シネ」

「ひっ……」


俺はシルクの前に立ち……。


「怖がらせるなよ——アースクラッシャー」


大岩を頭上に出現させ……まとめて押し潰す!


「他には?」

「……平気だな」

「シルク、平気?」

「は、はぃ……あんなに近くで見たのは初めてだったので……」

「連れてこない方が良かったかな?」

「い、いいえ! 私はついていきますわ! 死ぬときは一緒です!」

「いや死なないから!」

「こ、言葉のあやですわ!」

「ご、御主人様!」


突然、ラビが俺の服を引っ張る。


「あっ、ごめんね。うるさくて聞こえないよね」

「す、すみませんわ」

「違くて……水の流れる音が聞こえます」

「ほんと? どっちかな?」

「えっと……こっちです」


リンとレオが魔石を回収して戻ってくる。


「レオ、ラビを守ってあげて」

「へいっ!」


レオに守られながら、ラビが先導して歩き……。






魔物や食えない魔獣を倒しつつ……。


一時間くらい歩いていると……幅五メートルほどの川を発見する。


「おおっ! 川だっ!」

「どうやら、誰も来てないようですね。人が通った形跡はまるでなかったですし」

「ええ、報告にもありませんでしたわ」

「どれ! 覗いてみようか!」


俺が川に近づこうとすると……ベアの腕が遮る。


「ベア?」

「主人、川の中に何かいる」

「えっ?」

「俺も気配を感じます。ボス、気をつけてくださいよ」

「ご、ごめんね」

「俺が様子を見よう。この中では、一番水に強い」


(……そういや、くまさんだったね)


「では、レオ。私たちは警戒を」

「へいっ!」


俺たちが二人に守られる中、ベアが川へと近づいていき……。


「ギシャァ——!!」

「むっ!」


川から飛び出してきたどでかい魚?が、ベアの腕に食いつく!


「ベア!?」

「主人! 問題ない——セァ!」


ベアは噛まれている腕ごと——地面に叩きつけた!


「ギガ……」

「ふぅ……これで良いだろう」


魚はビクビクと痙攣して……動かなくなった。


「お見事ですね、ベア殿。徐々にですが、熊族としての力を取り戻しています」

「ああ、これもライル殿のおかげだ」

「い、痛くありませんの?」

「お嬢さん、平気だ。熊族は身体の頑丈さが売りだからな」

「ボス! 俺も強くなりましたぜ! あとで見せてあげます!」

「うん、楽しみにしてるね」


……そうか、もう二人とも元に戻ってきてるんだ。


じゃあ、そろそろ……バイスンの飼育作戦を決行してもいいかも。

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