44話 異変?

その後……姉上は爆睡してしまった。


どうやら、俺が気を失っている間に色々聞いたらしい……。


色々な意味で、俺に会うことができることを喜んでいたそうだ。


そして我慢できずに、護衛や使用人を置いて……。


ほとんど眠らずに、この地へやってきたということらしい。


いや、どんだけ会いたかっ……いや、魔法が撃ちたかったんだか。







「ふぅ……疲れたなぁ」

「ふふ、お疲れ様でした」

「相変わらずでしたわね」

「二人とも酷いよ、いつの間にか消えてるんだもん」

「いえいえ、姉弟の再会を邪魔するわけにはいきませんから」

「そうですわ。それにアレを止められるのはマルス様だけです。適材適所ってやつですわ」

「物は言いようだね……まあ、良いけどさ」








 そんな中、ラビが部屋にやってくる。


「ご、ご主人様!」

「ど、どうしたの?」


(ラビの俺への呼び名はご主人様になったそうだ。シルクが奴隷としてではなく、仕える主人としてそう呼びなさいってことらしい)


「の、農業をしている人が来てくださいって!」

「うん? 何か問題でもあったかな?」

「な、なんか……おかしいらしいです!」

「はい?」

「と、とにかく、マルス様を呼んでくれって……」

「わかった、とりあえず行ってみるとしようか」

「わたし、先に行ってますから! あいたっ! うぅ……足ぶつけた」


(うわぁ……足の指をぶつけた……アレって痛いよなぁ)


 すると、シルクが近づいていき……。


「ラビ、待ちなさい——癒しの力よ」

「あ、ありがとうございます!」

「ふふ、気をつけるのよ? 慌てないのも淑女の嗜みですわ」

「はいっ! 行ってきます!」


(うんうん、相変わらずドジっ子だけど、おどおどすることはなくなってきたね)


 すると、今度は俺の方に来てシルクの手が額に触れる。


「……顔色は良いですね。マルス様、私もお伴します。一応、病み上がりですからね」

「では、私も行きましょう。先ほど、戦ったばかりですし」

「別に平気だけど……」

「「ダメです」」

「はーい」


(うーん、過保護だ。でも悪い気はしないよね、俺のことを心配してくれてるんだし)





 着替えて外に出てみると……。


「うぅ……寒いですわ」

「寒いよね」

「ええ、本当に。まあ、私は二人ほどではありませんけど」


(どうすればいいかなぁ〜。外でも寒くないようにするには……あっ!)


「そうだよ! 俺は馬鹿だよ!」

「マルス様?」

「何を当たり前のことを?」

「リン、真面目な顔で言わないでよ!?」


 俺は前世の記憶が蘇ってから、まだ一ヶ月も経っていない。

 前世の記憶も朧気だし、まだまだ慣れていない。

 故に、色々なところが抜けている。


(俺は熱風を覚えた……この世界にはない魔法……ホッカイ○みたいにできないかな?)


「ごめん、いらない魔石ある?」

「ええ、オークのでしたら……」


 リンからオークの魔石をもらい……。


「オークならギリギリ耐えられるかな?」


 俺の魔力制御は日に日に良くなっている。

 今なら、小石程度の魔石を壊さずに……どうだ?

 俺は魔力を送り、危ないのでひとまず地面に置く。


「何も起きませんわよ?」

「見た目も変わらないですし……」


 俺は恐る恐る、それに触れる。


「……出来た! ホッカイ○だ!」


 ほんのりと温かさを感じるが、熱いというほどでもない。

 今、熱風を教えてる人達に、追加で教えてみようかな。

 ただ、ドライヤーも含めて、 イメージが難しいかもしれない。


「何ですか?」

「シルク、これを服の中に入れてみて」

「えっ? は、はい……ふわぁ……! マルス様!」

「ふふ、どうだね?」

「と——っても! あったかいですわ! ほかほかします!」

「マルス様、私も欲しいですね」

「ふふ、仕方ないなぁ」


 俺とリンの分も用意する。


「うん……加減は合ってるかな」

「あったかいですね」

「すごいですわ! 革命ですわ! これは熱いのに、どうして火が出ていませんの!?」

「うーん……暖炉の前は暖かいよね?」

「ええ、そうですわ」

「その暖かい熱は……火から出た熱を込めたって感じかな? 名付けるなら、ヒートって感じで」

「……なるほど、そういうことですか。どうして、思いつかなかったのでしょう」


(まあ、固定観念ってやつだよね。前の世界でも、誰にでもわかるようなことも、最初に思いついた人がいなければ発明されなかったし)


「これも書庫で?」

「まあ、近いかな。色々と参考にしてる部分はあるよ。というわけで、俺が凄いわけじゃないからね」

「ふふ、マルス様ったら」

「謙虚なのは良いことです」

「ところでマルス様」

「うん?」

「これ、マルス様以外には難しいですの?」

「うーん……今の所はね」

「これ、売れますわ——確実に」

「売る?」

「王都にいる貴族達や、他国なんかにも。まだ十二月末あたりまでは寒いですし……もちろん、まずは住民に配るのが先かと思いますが……」


(……そっか、そういう発想はなかったなぁ。やっぱり、俺ってダメダメだなぁ)


「シルク、ありがとね」

「ふえっ? な、何がですの?」

「俺だと発明というか……色々思いつくけど、それを有効活用できないからさ。シルクが色々考えてくれて助かるよ」

「べ、別に……」


 シルクはサイドテールにしてる髪をいじいじしている。

 はい、今日もとっても可愛いですね——ツンデレバンザイ!






 その後、都市の右下にある農業地帯に向かう。


「そういえば、この都市の仕組みはどうなってますの?」

「リン、どうなってるの?」

「いや、マルス様……はぁ、説明しますよ」


 俺は部屋でダラダラしたいので、基本的にはウロウロしない。

 必要がある場所しか行っていないので、まだ全貌を把握していないのだ。

 ……はい、私がそんな領主です。


 リンの説明によると……。

 南から入って、入り口には広いメインストリートがあり、冒険者ギルドや飲食店がある。

 北に真っ直ぐ行けば、領主の館に到着する通りだね。

 南西には鍛治屋や洋服屋があり、北西は商店会がある。

 北東は家が多く、南東に農地がある。

 そして一番北に、獣人達が暮らすエリアがあるって感じだ。

もちろん、どれもこれも栄えてはいない……今のところはだけどね。


「とまあ、大雑把に言えばそんな感じですね」

「ふんふん、言われてみればわかる」

「まだまだ、土地は余ってますわよね?」

「ええ、人口のわりには広いですから。何より、どこも人口減少傾向にありますから」

「そっか……まあ、そればっかりはすぐには無理だね」




 そして、農地がある場所に到着すると……。


「マルス様!」

「ラビ、そんなに慌てなくても……あれ?」


 俺が以前耕した田んぼには、すでに成長した苗がある。

 ちなみに室内でやっていて、温度管理などを徹底させるように指示した。


「いくらなんでも、早すぎるね」

「しかも、しっかりしているといいますか……」

「わかりますわ。何か、違う気がしますの」


(ピンと伸びた感じ……元気がありそうだ)


「ラビ、ここだけ?」


 この場所だけは、俺がお手本として魔法使い達に見せた。


「は、はいっ! マルス様がやったところだけ、成長が良いって……」


 ……何が違う?


 同じ魔法を使っているはずなのに……。


 俺と他の人達の違いってなんだろう?



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