45話 考察?

 俺が館に戻ってくると……。


 庭から、騒ぎ声がきこえてくる。


「マルス! マルスはどこ!?」

「お、落ち着けって!」

「主人はすぐに帰ってくる!」

「そうだ! だから待ってくれ!」


(……姉上が暴れている。兄さんとレオとベアが、必死に止めてるね)


 ……とりあえず、嫌な予感しかしないので。


「さて、帰ろうか」


 俺が引き返そうとすると……。


「マルス様の帰る場所はここですが?」

「そうですわ。さあ、諦めてまいりましょう」


 二人に両腕を組まれる。

 フニュン(シルク)としたものと、ムニン(リン)としたものに腕が包まれる。


(気持ちいい……はっ! いけない! これは罠だっ!)


 俺は意識を総動員して振り払おうとするが……。


(く、くそォォ!! 俺の本能が幸せすぎて動いてくれないよぉ〜!)


 俺は虚しくも、二人に引きずられていくのだった……。







 そして俺を発見した姉さんが……ものすごい形相で突撃してくる。


(あの? お二人さん? 離れすぎじゃありません?)


 二人は一瞬にして、俺から距離を取る……巻き添えを食わないように。


「マルス!」

「は、はいっ!」

「私、風呂に入るわ!」

「あっ、そんなことですか。ええ、ご自由に使ってください」

「大事なのはそのあとよ!」

「はい?」

「なに? その、魔法で髪を乾かすの? 私、入ろうとしたんだけど……まだ使用人達も来てないから、どうしようと思って」


 俺が三人に視線を向けると……。

 全員の顔が『すまない』と言っている。


(……なるほど。風呂に入ろうした姉さんに、俺の魔法のことを話してしまったと)


 姉さんの髪の毛は、シルクやリンを超える超ロングである。

 つまり……それだけ大変ということである。

 ……まあ、良いけどね。


「ええ、良いですよ。俺が乾かしますから」

「マルス〜! なんて良い子なの!?」

「わ、わかりましたからっ!」

「姉貴! また気を失っちまうぜ!?」

「あら、ごめんなさい」


(アブナイアブナイ、またおっぱいに溺れるところだった)


「い、いえ、平気ですよ」

「ふふ、一緒に入る?」

「ええぇ!? い、いや、俺も成人しましたし……」

「やめてやれよ、姉貴。誰も姉貴の裸なんか——グホッ!?」

「にいさーん!?」


 腹パンにより、兄さんが沈んだ。

 あの細い体のどこに、あんな力が?

 俺がガクガク震えていると……。


「まったく、失礼しちゃうわ」

「ライラ様、僭越ながらお背中をお流しいたしますわ」


 シルクが、すっと前に出て姉さんに言う。

 さらには……。


「では、私が見張り兼護衛をいたします」

「あら、二人共。そうね、シルクの柔肌をマルスに見せるわけにはいかないわね。じゃあ、お願いしようかしら」


 二人は俺にウインクをして、姉さんを連れて行く。


(どうやら、助けられたみたいだね……でも、数日間はいるよね?)


 ……上手く断る理由を考えておかないと。


 ……ちなみに悶絶したライル兄さんは、レオとベアが部屋に運びましたとさ。


 ……南無三。







 その後、俺がうたた寝をしていると……。


「マルス〜!」

「はい! ただいま!」


 俺はガバッと起きて、風呂場に直行する!


 ……多分、俺史上最速で。





 階段を駆け下りて……通路を通って。


「マルス、ただいま参上!」

「あら、早かったわね」

「そりゃ、姉さんの頼みですから」


(ふふ、俺はライル兄さんみたいなドジは踏まないのさ!)


「では、マルス様」

「私たちが髪を持ちますので」

「あらあら……二人共、ありがとう」

「じゃあ、行くよ——熱風」


 座ってる姉さんの髪にドライヤーもどきをかける。

 間違っても、焦がさないように……手が震えるよぉ〜。


「ふぁ……なにこれ……気持ちいいわ」

「熱くないですか?」

「ええ、ちょうどいいわ。それに可愛いマルスに、こんなことしてもらえるなんて……涙が出そうよ」

「大袈裟ですよ、姉さん。俺がしてもらったことに比べればね」

「ふふ、相変わらず良い子ね。じゃあ、とりあえず黙っていたことは許してあげる。貴方にも、理由があると思うけど……聞かないであげるから」


(ほっ、良かった。どうやら、誤魔化す必要もなさそうだ——熱風万歳!)


「ただ、気になったのは……」

「はい?」

「リンが綺麗になってるわ」

「へっ? あ、ありがとうございます?」

「いよいよ恋を自覚したのかしら?」

「ひゃい!? な、な、何を言うのですか!?」

「えっ!? リンに好きな人いるの!?」


(誰だ!? ベア!? レオ!? 俺が認めた相手じゃないと許さないぞ!)


「マルス様……何ということを」

「へっ?」

「わ、私にはいませんから!」

「あらあら、まだなのね」

「うん?」


(……どういうことだろう?)


「まあ、良いわ。シルクは元々お手入れをされてきた子だから、そこまで気にならなかったんだけど……身体や髪を見たけど、随分と艶がいいというか……」

「あっ——わかりますわ! 私も、なんだか綺麗になったと思ってました」

「……たしかに体の調子は良いとは思ってましたが」


(……身体の調子が良い? 綺麗になる?……何か、引っかかるなぁ)


「……あっ!」

「ど、どうしたの? どっか焼けた?」

「い、いえ、問題ないです」

「どうしましたの?」

「いや……リン。この風呂と住民が多く使う風呂だけは、俺の魔法で水をはってるよね?」


(大量の水を使うので、そこだけは今のところは俺がやっている。温めることも、最初の一回は俺がやるようにしてる)


「え、ええ、そのはずです」

「つまり……俺の魔法の効果かも」

「マルス、詳しく話してみなさい」


 俺は姉さんに出来事を説明する。


「なるほどね、農業に魔法を使っていることは置いておいて……マルスの魔法には、特別な効果があるかもしれないってわけね」

「どうなんですかね? 自分では普通にやってるんですけど……」


(もしくは、これが本当のチートってやつなのかな?)


「ふふ……面白いわ」

「へっ?」

「今日は日も暮れるから流石にアレだけど、明日から調べましょう」

「えぇ……めんどくさいなぁ」

「マルスぅ?」

「ヒィ!? わ、わかりました! 精一杯やらせて頂きます!」

「ふふ、それで良いのよ。楽しみが増えたわぁ……ウフフ」


(……そういや、魔法バカだったね。というか、魔法の研究とかもしてたし)


 姉さんは、一部の人間からこう呼ばれている——狂気のライラ。


 さらには、他国からも異名がある。


 その炎は全てを燃やし尽くすので、こう恐れられている——灰塵のライラと。


 ライル兄さんは、そのまま脳筋のライルと言われてます。


 あっ——ちなみにロイス兄さんは……苦労人のロイスらしいです。


うん! 全部俺たちのせいだね! ……ごめんね、ロイス兄さん。

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