四章 マルス、領地改革を頑張る

41話 癒しの力

 シルクが来てから、数日が過ぎ……。


 ようやく、色々と動き出した気がする。


 俺の給料やリンの給料、レオ達獣人達の給料……。


 都市の中から募集をして、文官を集めたり……。


 少しずつ、前へと向かってる。


 となると、俺の仕事はのんびり……。


 したいけど……はぁ、まだまだできそうにありません。





 自分の部屋の中で、これからのことを考えていると……。

なんか寒気がする? なんだろ?

頭も痛い気がするし……風邪かな?


「スン……クシュン! ……ズズー」

「へ、平気ですの!?」

「へ、平気だよ」


 シルクが立ち上がって近づいて、座っている俺のおでこに手を当てる。


うわぁー! 胸が! 胸が近い! フルフルしとる!

暖かい部屋の中なので、締め付け緩めの洋服を着ている。

 なので、前かがみになると……そういうことである。

 本人は気づいてないのか、一生懸命に俺を触っている。


「マルス様? ……どんどん熱が上がってますわ!」

「い、いや! これは違うから!」


熱が上がってるのは違うところだから!


「た、大変ですわ! ほら! 早くソファーに!」

「わ、わかったから!」


 シルクに引っ張れ、ソファーに横にされる。

 もちろん、膝枕である……最高です。


リンの固い感じもいいけど、シルクのモチっとした感じも良い。


「マルス様、その……ニヤニヤしないでください」

「ご、ごめんね、つい気持ちよくて」

「もう……殿方は仕方ありませんわね」


これは分が悪い……何か、話題を変えないと。


「そ、それより、そういう服には慣れた?」

「ふえっ? そ、そうですわね……少し心もとないですけど」


 正真正銘、紛う事なき侯爵令嬢のシルクさん。

 普段の洋服は、人が手伝って着せるような豪華なドレスが基本です。

 しかし、ここには使用人は最低限しかいません。

 つまり、一般の人が着るような布の服を着るわけですね。

 故に、さっきのようなことも起きると……ありがとうございます。


「以上が説明となります」

「マルス様? 何をぶつぶつ言ってますの?」

「いや、何でもないよ。シルクは可愛いから、何でも似合うってことさ」

「まあ……マルス様ったら!」


むぅ……可愛い。

しかし手を出すとオーレンさんに殺される……。

結婚すれば手を出して良いのかな?

でも、そのためには実績がいるよね。


「うーむ……」


そのためには領地を改革する必要が……結局、そうなるのかぁ。

スローライフのためにも、シルクに手を出すためにもがんばろっと……。

あれ? めちゃくちゃ自分本位な考えですねー。

……まあ、結果的にみんな幸せになれば良いよね!







 しばらく、俺が太ももを堪能していると……。


「あっ——私としたことが忘れていましたわ」

「ん?」

「癒しの力よ——かの者の痛みを除きたまえ」


 シルクの手が光り、俺に暖かいモノが流れ込んでくる。


「どうですか?」

「うん、頭が痛いのが良くなったね。ありがとう、シルク」

「いえ、マルス様の体調管理も私の役目ですわ」

「でも、平気? それだって、魔力を使うでしょ?」

「ふふ、平気ですわ。私も鍛えてますし」

「そっか、でも無理はしちゃダメだよ?」

「はい、わかってますわ。ふふ、相変わらず優しいですわね」


 シルクの癒しの力は、魔力を使うが魔法とは違う。

 今の俺なら、何となく仕組みはわかる気がする。

 多分、魔力を相手に送って……魔力の乱れ?を正しているのかもしれない。

 癒すというよりは、調整してるって感じかも。

 どっちにしろ特殊な才能が必要で、使える人はほとんどいないけどね。





 その後、稽古からリンが戻ってきて……。


「マルス様、具合が悪いとか……」

「平気だよ、少し寒気がしただけだから。シルクが癒してくれたし」

「そうですか。シルク様、ありがとうございます」

「いえ、私にはマルス様をお守りする力はありませんから。その代わり、癒すことは出来ますわ」

「そうですね、守るのは私の役目です」


うーん……男としてどうなのかと思ったりもするけど……別にいっか。


「じゃあ、俺の役目は二人に甘えることだね!」

「「違います」」

「えっ?」

「働くことですわ」

「ええ、その通りかと」

「とほほ……やっぱりそうなるのね」


 すると……。


「ハハッ! 相変わらず尻に敷かれてるな!」

「むぅ……相手がいない人に言われたくないですね」

「ぐはっ!? 人が気にしていることを……」

「ふふーん、兄さんも遊んでないで婚約者を作れば良いのに」

「俺は縛られるのが嫌なんだよ。幸い兄貴も結婚するし、俺は当分はいらない」


そんなこと言って……次期国王に祭り上げようとする貴族たちに牽制するために、独身を貫いているくせに。

ロイス兄さんに敵対する奴らは、ライル兄さんを擁立しようとしてたしね。

それに、ライル兄さんの方が扱いやすいと踏んだのだろうね。


「それよりライル兄さん、お疲れ様でした」

「なに、気にするな。俺のためでもある」

「私からも礼を。お陰で、感覚が研ぎ澄まされてきましたね」


 ライル兄さんには、リンやベアやレオと稽古をしてもらっている。

 俺のバイスン飼育計画には、戦力増強が不可欠だからだ。


「ベアとレオは?」

「あいつらなら、まだのびている。結構厳しくやったが……さすがは獅子族と熊族だ。これなら、そう時間はかかるまい」

「まあ、最近は食べて身体も出来てきましたからね」

「なるほど、そいつは鍛え甲斐があるな」

「私も強くならないと……引き続き宜しくお願いします」

「おう、任せとけ」


レオもベアも本来のスペックが出せて、リンも強くなれば……。


 よし……その日も、そう遠くはないかも。








しかし、この時の俺は知らない。


今日の悪寒の意味を……。

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