幕間~ロイスの気苦労~

 ……さて、今頃マルスはどうしているだろうか?


 最初、マルスを送るときは意外となんとかなると思っていたが……。


 ライルを送ったが、あの二人は揃うとおふざけが過ぎるところがあるから心配だ……。


 やはり、ライルではなくライラを行かせるべきだったか?


 しかし……ライラはマルスに甘すぎるし。


「はぁ……ままならないものだ」

「国王陛下?」


 宰相であり、古参の臣下であるルーカスが、俺の独り言に気づく。



「いや、すまない。少しマルスのことを心配していてな」

「マルス様ですか……市民から不満が出てますね」

「まあ、市民には人気があったからな」


(サボって、よく街に出かけていたからな……人を見下さないあいつは、民にとっては良き王族だったのだろう)


「しかし、私は後悔しておりません。あの方が義務を果たして居ないのは事実ですから」

「ああ、わかっているさ。税金で生かされている以上、国のために働かなくてはいけない」

「はい、仰る通りです」


(ルーカスは融通はきかないが、悪い人間じゃない。マルスのことだって、好きで追放をしたわけでもない。それに……最終的に決めたのは俺だ。厳しくするのが、長兄である俺の役目だからだ)


「まあ、心配しても仕方ないか」

「ええ、幸い失敗しても損害はありません」

「俺は、そういうのは好かん。今回だって、あの地を救うつもりでいる。ようやく、この国を掌握し始めたんだからな」

「失礼いたしました……おや?」


 足音が聞こえ……私室の扉がノックされる。


「国王陛下、バランです」

「近衛騎士団バラン、入室を許可する」

「はっ! 失礼いたします!」


 扉を開け、二メートル近い無骨な男が入ってくる。


「国王陛下、オーレン様が帰還いたしました。至急、お時間をいただきたいと申しておりますが……如何なさいますか?」

「なに? すぐに通すように伝えてくれ」

「御意」


 すぐに出て行き、扉が閉まる。


「あのオーレンが至急か……」

「やはり、何か問題があったのでは? もし、あの方がお怒りになられると……色々まずいですな」


(オーレンは友人でもあった父が亡くなってから、すぐに俺の味方になってくれた。もし、奴が敵に回っていたら……俺は傀儡になっていた可能性すらある。マルス……頼むぞ? オーレンを怒らせることだけはしないでくれ……あぁ、胃が痛い)







 そして十分後、オーレンがやってくる。


「国王陛下、お時間を頂きありがとうございます」

「いや、こちらこそご苦労であった。忙しいお主を動かしたこと、すまなく思う」

「いえ、私自身も望んだことなのでお気になさらずに」


(……どうやら、機嫌が悪いようではないと。よし、ひとまず落ち着いて聞けそうだ)


「助かる。それで、至急という話だったが……何かあった?」

「はい……おっと、その前に来たようですな」

「なに?」


 すると……。


「バラン! 退きなさい!」

「し、しかし、許可が……」

「マルスの情報よ! 私も聞きたいわ!」

「あ、いや、その……」


(……はぁ、ライラか)


「すみません、私が呼びました」

「なに? そうか……バラン! 許可する!」

「か、畏まりました!」


 すぐにライラが入ってくる。


「お兄様!」

「ま、まあ、落ち着け」

「オーレン! マルスは無事なの!?」

「お、落ち着いてください」

「コホン! ライラ様、話が進みません。出て行ってもらいますよ?」

「宰相……わかったわよ。じゃあ、黙ってるから」


(普段は冷静なくせに、相変わらずマルスが絡むとこれだ)


「では、私が見聞きしたことをお話しします……言っておきますが、誇張もしていない真実であることだけは先に申しておきます。そして、聞き終わるまで質問はなしでお願い致します……では」








 ……マルスが?


 あの勉強も武道も魔法もサボっていた……あのマルスが?


 食糧難や奴隷問題を解決しつつ、立派に領地改革を進め……。


 終いには、魔法使いとして一流の力を持っていたと?


「それは、本当なんだな?」

「ええ、この目でしかと」

「ほら! マルスはすごいのよ! 私にはわかってたわ! 兄さんだって、あの子には何かがあるって言ってたじゃない!」

「い、いや、そうだが……」


(ここまでなんて聞いてない! あいつは何をどうしたんだ!? それだけならまだしも、この国のことを考えて黙っていたと?)


「……俺は馬鹿だったな。そんなことも知らずに、あいつに酷いことを言ってしまった」

「いえ、マルス様は気にしてない様子でした。おそらく、兄である貴方を好きなのでしょう。故に、争いたくなかったかと思います」

「そうか……そうだな、優しいあいつのことだ……俺が即位して、掌握するまで待っていたのかもな」


(全く、何が人を見る目があるだ……調子に乗ってはいけないな)


「ふむ……あのマルス様が、俄かには信じ難いですが……」

「私が嘘を申すと?」

「い、いえ、そんなことはありません」

「ふふ……ふふふ……」

「ら、ライラ?」

「お兄様、私いくわ」

「へっ?」

「マルスに会いにいくわ」

「いや、しかし……」

「止めても無駄よ」


(いや、お前を止められる奴なんかいないし……)


「平気よ、私の副官たちは優秀だから」

「はぁ……まあ、今は冬だから戦いもないしな。あっても、そこまで問題にはならないか」

「いいの!?」

「いいのって……ああ、良いよ。お前にも休みを取ってもらわないといけないし」

「やったわ! お兄様、ありがとう!」

「全く、都合のいい時だけ妹になる奴だ」


まあ……特にマルスを可愛がっていたからな。


会わせておかないと、どっかで爆発するだろうし……。


 マルスよ……すまん。


 国王である俺にも、ライラを止めることはできない。


……はぁ、長男は胃が痛いよ。





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