第39話 たまには真面目な話

 やる気は出たけど、まずはこれだよねー。


 俺たちは昼食を済ませた後……。


 厨房に向かい、シロにお願いをする。


 今のうちにやっておけば、二、三時間後には出来るはずだし。


「シロ、解体したら、このモモ肉のブロックにハチミツを塗っておいて」

「ふえっ!?お肉もハチミツも、もったいないですよ!?」

「まあまあ、騙されたと思ってさ。夜になればわかるから」

「そ、そうですかぁ? うーん……わっかりました!」

「うむ、では頼んだよ。俺は仕方ないので仕事に行かねばならない」

「が、頑張ってください!」


 素直で可愛いので、良い子いい子をしてあげる。


「えへへ……」

「ほら、いきますよ。やる気を出すんでしょう?」

「まあまあ、リンも撫でてあげ……ナンデモナイデス」


 冷たい目をしたリンに、俺は連れ去られるのだった。

 でも……美人さんの冷たい目って、素敵だよねっ!







 ひとまず私室に戻ると……。


「マルス様、お帰りなさいませ」

「やあ、シルク」

「私も、たった今戻ってきたところですわ」

「レオ、ご苦労様」

「いえ、これがオレの新たな任務と聞きましたので」


 都市の中を歩く際には、シルクにはレオが護衛につくように頼んである。

 残念なことに、獣人の中には……もしかしたら襲うような者もいるかもしれないし。


「うん、シルクはか弱い女の子だから守ってくれると助かるよ」

「ま、まあ、マルス様ったら」

「俺は、もっとか弱いけどね」

「それ、自慢になるんすか?」

「なりませんね。マルス様も肉体を鍛えないといけませんよ」

「えぇ〜やだなぁ〜」

「やる気はどこに行ったので?」

「……明日から頑張る」

「それ、絶対頑張らないやつっす」


 すると、モジモジしていたシルクが復活する。


「マルス様、ひとまずお話がありますわ」

「わかった。じゃあ、座るとしようか」

「レオさん、ラビを呼んできてもらえますか?」

「おう、わかったぜ」





 レオが部屋から出て、入れ替わりにラビがやってくる。


 おそらく、話を聞くのも勉強の一環ということだろうね。


 そしてソファーに座り、話し合いをする。


「まずは、使節団と共に都市を見てきましたわ」

「そっか、ご苦労様。それで、何か言ってた?」

「概ね好評でしたわ。奴隷への緩和の有用性や、仕事時間の問題など……特に、魔法を使って色々やっていることには目から鱗が落ちると。何故、今まで誰もやらなかったんだと。ただ、魔法使いの方々はプライドが高いので難しいとも言ってましたわ」

「多分、昔はやってたんだけど思うんだけどね。何処かでずれたんじゃないかな? 特権意識とか、奴隷もそうだけどさ」

「なるほど……あとは、魔法を高いレベルで行使できる人が減っているのも原因ですわね」


(うーん……何となく想像はつくけど。多分、魔物退治以外に使わなくなっていって、繊細なコントロールや精度が落ちたんだと思う)


「それもあるよね。ただ、考察してもキリがないから今は置いとこう」

「ええ、そうですわね。あとは、マルス様が女性に偏見がないのが好感が持てると。女性達に働きの場を提供したり……特に侯爵令嬢とはいえ、文官の長に私を指名したことに驚かれていましたわ」

「だって女性だって有能な人はいっぱいいるもん。俺は使える人に任せるよ、だって俺が楽をしたいもん」

「ふふ、マルス様らしいですわ。それで、マルス様から他にやりたいことはありますか?」


(やりたいことかぁ……いっぱいあるよなぁ)


「ダラダラしたり、ノンビリしたり、グータラしたり……」

「……マルス様、声に出てますからね? しかも言い方が違うだけで、全部同じ意味ですからね?」

「もう! マルス様ったら、相変わらずですわね」

「あらら……俺としたことが、つい本音が出ちゃった」

「もう……それで、他にはないですの?」

「まずは、シルクが言ってたけど……仕事に見合った報酬ってやつ」

「ええ、その能力と地位に見合った……」

「それもいいんだけど……俺は、普通の人が嫌がる仕事をする人の報酬を上げたい」

「ど、どういうことですの?」

「もちろん、それも必要だと思う。でも食材を作っている人や、清掃する人の賃金を上げたいかなぁって。だって、彼らがいないと困るのはみんなだよ? その着ている服は? 食べてる物は? 毎日使ってる物は? 誰がやってるの?」


(これは、前世の時も思ってた。どうして、介護や掃除をする人達の給料が安いのかと。もちろん、ほかに能力がなかったからと言われたらそれまでなんだけど。それでも、生きていく上で必要な職業が低賃金なのが不思議でならなかった。俺も孤児で、中卒でどうしようもなくて……色々な職種を転々とした)


「……またしても、目から鱗が落ちましたわ。私は、疑問にも思いませんでした……恥ずかしい」

「ううん、そんなことないよ。人によっては、俺の言ってることは甘いって言われるかもしれないし。そんなのは、そいつらの頑張りが足りないからとかね。でも……頑張っても、どうにもならないことってあると思うんだ」

「はい、そうかもしれないですわ。ですが、現実は甘くないです。そのお金はどっから出すのですか?」

「簡単だよ、今のうちは役人がいないもん。というか、実際そんなにいらないでしょ?」


(国会議員とか、町の議員とか、必要ないとは言わないけど、無駄に数が多い。この世界でも同じことで、仕事もろくにしないのに報酬が高い奴らが役人だ)


「そ、それは……貴族から反発が……いや、ここにはいませんね」

「うん、ここには来たがらないし。だから、それの一部を当てて欲しい。もちろん、多くなくて良いんだ。それに今すぐでなくも良い。将来的に、そうなれば良いかな」

「わかりました。ええ、確かに……この街の規模なら、数名いれば事足りますわ。あとは、その下につく者に役職を与えて……ええ、これは私の仕事ですわね」


(この都市の人口は約数千人と書いてある。それくらいなら、上にいる役人はそんなに多くはいらない)


「ごめんね、面倒なこと言って」

「い、いえ! その……嬉しいですわ」

「うん?」

「マルス様は、いつもそういう話をすると逃げましたから」

「……はは、ごめんなさい」

「いえ、変わったなら良いのです。優しいところは相変わらずですし。それで、ほかにもありますか?」

「やっぱり、魔獣を飼育したいね。そして、特産品なんかも作りたい」

「やはり、そうなりますわね」

「一応、考えはあるんだ」

「聞かせてくださいますか?」

「うん……これこれで……どうかな?」

「……随分と無茶なことを考えますわね。それに、そんなものは知らないですし……ですが、マルス様が出来るというならやってみる価値はありそうですわ」


 こうして、話はまとまった。


 あとは入念に準備をして、実行に移すだけだね。


 ……なんか、真面目な話をしてしまった気がする。

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