第38話 やる気を出す?

 その後、森を歩いていると……。


「マルス様、何か大きな音が聞こえます……」


「どうしようかな?」


「行ってみようぜ。俺とリンがいて、魔法が使えるお前がいればオーガでも問題あるまい」


「いや、俺は怖いので会いたくないんですけど?」


「まあ、行ってみましょう。今は、他の冒険者も探索を始めています。厄介なのがいたら、私達で倒しましょう……被害を未然に防ぐために」


「それもそっか。うん、わかった」


 リンを先頭に、俺、ライル兄さんが続く。






 道中でオークやゴブリンを倒しつつ、奥へ向かっていくと……。


 そして……何かを発見する。


「あれ……何?」


 ゴブリンらしき生き物がいる。

 ただ、一回り以上大きい……多分、俺くらいかな?

 それが二体いて、片方はバイスンを食べていて……。

 もう一体は、バイスンと向かい合っている。

 どうやら、はぐれを襲ったようだ。


「チッ! 上位種か」


……えっと、魔物は進化することがあるんだっけ?

ゴブリンがゴブリンジェネラルになったり、キングになったり……。

確か……魔獣や人間を食べたり、殺す事で進化すると。


「あれはジェネラルですね。トロールよりは弱いですが、オークより強いです。下位の冒険者では苦戦することもあるでしょう」


「じゃあ、倒した方が良いね。バイスンも片方なら、まだ食べられるし。俺がサクッと……」


「待てや、マルス。俺にもやらせてくれ。ずっとストレスが溜まってんだよ」


兄上は騎士団として魔物狩りや、盗賊の討伐なんかをするって言ってた。

でも、ほとんど後方にいて戦えないらしい。


「まあ、こんなでも王族だしね」


「マルス様、それはブーメランですよ?」


「ぐぬぬ……否定できないや」


「いや、リン。まずは『こんなでも』を否定してくれ」


「おっと、すみません」


「クク、変わったな。最初の頃は、ずっとおどおどしてたってのに」


「殴りますよ?」


「こわっ……」


「んで、どうするんですか?」


「俺が一体やる。後の一体はくれてやる」


「じゃあ、初撃で仕留めるね」


「では、私はバイスンを」


「決まりだね」


「うし——行くぜ」


 草むらから、リンと兄上が飛び出し、一気に距離を詰める。


「ゴァァ!」

「ゴガァ!」


 俺の狙いはバイスンを狙っている方!


兄上やリンに当てないようにするには……コンパクトで威力の高い魔法!


「貫け——石の弾丸ストーンバレット


 銃を構えるようにして、指先から石の弾丸を発射する!


気分的には某霊界探偵のレイ○ーン! って感じで!


「ゴァァァァ——!?」


 狙い違わず、奴の顔半分を削り取る!

 そのまま、そいつは魔石と化す。


「はっ! すげぇ威力だ! まるで姉さんを見ているようだ——っと!」


「ゴガァ!」


 兄上が攻撃を躱し、剣を構え……相手の剣と打ち合う!


「ハハッ! これだこれ!」

「まったく、困った人ですね」


 その間に、リンはバイスンを一刀の元に斬り伏せたらしい。

 相変わらず、見事な腕前だ。


「ゴァァ!」

「オラァ!」

「兄上! 遊んでないでケリをつけてください! 他のが寄ってきたら面倒です!」

「チッ、仕方ねぇ」


 一度退き、兄上は上段の構えを取る。


「ゴガァ!!」

「フリージア剣術、一刀斬馬!」

「ゴガァ……ガ、ガ……」


 真っ直ぐ振り下ろし、近づいてきたジェネラルを真っ二つにする。


うーん、相変わらず格好いいなぁ。

記憶が蘇る前は興味なかったけど、今見ると良いよね……でも、今更やるのもめんどい。


「チッ、やっぱり鈍ってやがる」


「そうですね。私と稽古してた時のが、強かったかもしれないです」


「そりゃな。未成熟とはいえ、お前は最強種と言われる炎狐族だ。それと稽古してたなら、強くなるに決まってるわな。何より、師匠として負けられないという気持ちがある」


「あぁーそういうのって大事だよね。張り合いというか、なんというか……」


俺も怖いけど、ライラ姉さんに会いたいかも。

思いっきり、稽古もできるかもだし。

そうすれば、色々実験もできるし。何より……会いたいしね。






 その後、バイスンを担いでバーバラに帰ると……。


「ライル様! ご無事でなによりです!」


「よかった!」


「おおっ!」


 連れてきた文官や兵士達が待ち構えていた。


「チッ、面倒だぜ」


「そんなこと言わないでください! 貴方に何かあれば、後継がいないのですよ!?」


「兄貴は死なねーよ」


「ですが! 前国王様は!」


「わ、わかった、わかった」


 兄さんは、バツが悪そうな表情をしている。

 そして、そのまま連れて行かれる。


「兄さんは大変だなぁ」


「まあ、国王陛下は結婚もしていませんし……もし何かあれば、ライル様が王位を継承しますから。それもあって、好き勝手にできないのでしょうね。かといって、王族を増やしすぎても問題がありますし。ただでさえ、若い国王陛下は色々言われてますし」


兄さんは結婚できないというより、中々相手が決まらなかった。

それぞれの高位貴族が牽制しあって、中々先に進まなくて……。

俺が出る前に、ようやく決まったけどね。


「うーん、可哀想だね」


「 いや、その一端はマルス様の所為ですからね?」


「うぅ……そうか、俺が穀潰しと言われてるから」


つまり、彼らの中では俺は継承する対象になってないってことだよね。

いや。それは自業自得だけど……うん、本当に迷惑をかけちゃったなぁ。


「どうします?」


「うーん……今からでも間に合うかな?」


「どうでしょう? マルス様次第では?」


「そっか……少し考えてみるね」


 こんな俺に、好きにやって良いって言ってくれる兄さんのために……。


 継承なんかに興味はないけど、少なくとも穀潰しと呼ばれないように……。


 どっちにしろ、スローライフを送るには、この領地を上手く発展させなくては……。


 よし、少しだけ頑張ってみようかな。


……本当に少しだけだけど。


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