第37話 兄上は脳筋だけど優しい

 その後、シルクに頼まれたのでラビを呼び出す。


 口出しをしないでくださいと言われたので、ひとまず様子を見る。


「ラビと言いましたね?」


「は、はいっ!」


「貴女、読み書きは出来ると聞いたのですが……」


「か、簡単なやつなら……覚えないと怒られたので」


「十歳くらいなら、まだいけるはずですわね……」


「え、えっと……」


「貴女、お金のことや経済について学ぶ気はありますか?」


「へっ?」


「意味はわかるかしら?」


「は、はい」


「もし学びたいなら、私が教えますわ」


 その時、ラビの表情が変わる。


「そ、それをすれば、マルス様のお役に立てますか!?」


「ええ、もちろんですわ」


「や、やります——やらせてください! お願いしますっ!」


「良い返事ですわ。では、マルス様? 許可を頂けますか?」


「ラビ」


「は、はいっ!」


 いくら俺とて、ここで言うべきことはわかる。


「期待してるからね。無理せずに頑張って」


「あ、ありがとうございます! わたし、頑張ります!」


「ふふ、では早速始めましょう。マルス様、では失礼しますわ」


「うん、よろしくね」


 そして、シルクはラビを連れて部屋を出て行った。


「ふふ、良かったですね」


「うん?」


「ラビはずっと気にしてましたから。マルス様のお世話も上手く出来ずに、シロとは違って役に立ってないことを。シロは料理の腕が上がってきましたし、ベアやレオは護衛や戦力として優秀ですし」


「なるほどね……まあ、十歳だから仕方ないけど。でも、逆にそれが良かったと」


「ええ、吸収力が違いますからね。私も、もう少し幼かったら……」


「リン?」


「マルス様、ライル様のところに行きませんか?」


「そうだね、兄上も暇してるかもしれないし」


というか、さっき追い出しちゃったし……。





 リンと一緒に、庭に出てみると……。


「くっ!?」

「なに!?」

「ははっ! あめぇ! そんなもんか!?」


 ベアとレオを相手に、兄上が取っ組み合いをしている。


「ライル様は相変わらずですね……二人とも万全の状態ではないとはいえ、二対一で張り合えるのですか」


「す、凄いね……強いとは知ってたけど」


「まあ、私の師匠ですからね。獣人の動きや癖なんかを掴んでいるのでしょう」


確かに、よく稽古してたよなぁ。

それにしても体格差はそんなにないとはいえ、闘気もないのに凄いや。

流石は、王国最強の男と言われるだけのことはある……。

姉さんには勝てないけどね……俺も含めて。


「まあ、俺が穀潰しと言われるわけだよね。優しくも厳格で人を見る目があるロイス兄さん、一流の魔法使いにして頭脳明晰なライラ姉さん、そして……脳筋の兄さん」


 すると……三人の手が止まる。


「おい!? 聞こえてるからなっ!?」


「あれ? 聞こえてました? 優しくてカッコいい兄さんって」


「一言も言ってなくね!?」



 三人に近づいていくと……。


「主人よ、流石はお主の兄だ。まさか、人族と力比べをして負けそうになるとは」


「ボス、この人本当に人族ですかい? オレと体当たりして退かなかったぜ」


「まあ、これでも王族の血を引く人だから。何より、類稀なる戦闘センスの持ち主だし」


「俺は戦えば戦うほどに強くなるからなっ! それを、王子だからと後ろにいろとか……つまらん!」


アンタは、どこの野菜の国の王子ですか。

この世界には冷たい不動産屋はいないですよ?


「ふふ、では私とやりますか?」


「ほほう? この俺に挑むというのか? 良いだろう、かかってこい!」


リンがゴク○で、兄上はベジー○ですかねー。



「二人共、大人しくあっちで見てようか。多分、色々参考になるよ」


「ああ、そうさせてもらう」


「姐さんの師匠か……言うだけのことはあったぜ」


 俺達が離れると……。


「ウラァ!」

「セイッ!」


 拳と拳がぶつかり合う!


「おーっと! 双方一歩も引かずに肉弾戦の模様です! そこには、最早男と女は関係ない! あるのはどちらが強いかということだけだ!」


「くそっ! 相変わらずイテェな!」


「そっちこそですよ。私、闘気纏ってるんですけど——ねっ!」


「おっと! リン選手の強力な連続の足技が炸裂ッッ——! 兄上、これはピンチか!?」


「相変わらずはえぇな!」


「ライル様こそ、人族とは思えない動きですね!」


「な、なんと! 兄上はリンの蹴りを紙一重で避けています! 類稀なるセンスのなせる技でしょう! 俺なら一発でお陀仏です!」


「次はこっちから行くぜ!」


「ふふ、良いですよ!」


「おっと、リン選手は巧みな足捌きで攻撃を躱しています! ライル選手はジャブを繰り出し、相手を牽制します! これは大技狙いか!?」


「うるせえよ!」「うるさいですよ!」


 二人は中断して、俺の方に来る。


「えー? そうですか? 楽しくないですか?」

「うむ……俺は楽しかった」

「オレもです! こう熱くなりましたぜ!」

「そ、そういうもんか?」

「では、レオとベアでやってみてください」



 その後、似たようなことをやると……。


「確かに、見ている分には面白いな」


「ええ、一理あるかと」


「ふーん……そうなんだ」


いわゆる、見様見真似のプロレス実況だけど……これは、良いことを思いついたかも。

実現するには色々と障害があるけど、少し考えてみるのも悪くなさそうだね。

上手くいけば、娯楽の提供になるかも。






 その後、兄上とリンと共に狩りに出かける。


「ほう、これが魔の森か」


「マルス様、他の人は連れてこなくて良かったのですか?」


「うん、他の人に聞かれたくないし」


「なに? ……なんだ?」


「俺のやってることって、ロイス兄さんはどう思うかな?」


「ふむ、兄貴自体は喜ぶと思うが……周りの家臣は良く思わないかもな。奴らは頭が固く、自分の利益しか考えていないし、変わることを恐れる」


ロイス兄さんは若くして国王になったから、色々と苦労してるんだよなぁ。

基本的に、周りの家臣はおっさんと老人ばかりだし。

どこの世界でも、偉そうに口だけ出して地位にすがる奴はいるよねー。


「そっか、どうしようかなぁ……」


 すると、頭に手を置かれる。


「兄さん?」


「ばかやろー、そんなことは気にしなくて良い。兄貴は、そんなことで地盤が揺らぐような人じゃない。お前は気にせずに好きにやんな。そのフォローをするのが、俺やライラ姉さん、そして兄貴だ。まあ、末っ子は大人しく甘えとけ」


「そうですよ、マルス様。私達もいますから」


「……そっか。うん、わかったよ。ありがとう、二人とも」


 ……好きにやってみるか。


 よし、俺は俺の思う通りにやってみよう。


 それが末っ子の特権だしねっ!










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