第40話 やる気はあるけど……まずは肉だ!

 真面目な話をして疲れたので……お料理です!


 ただ今、厨房の台に乗っているバイスンさんの肉。


 シロや、獣人のお母さんや人間のお母さんたちが、協力して手早く解体してくれました。


 俺は、それを見つめて考える。



「さて、確か……あれで作れるはずだ」

「何を作るので?」

「マルス様、僕も見てて良いですか?」

「ああ、もちろんさ。シロには覚えてもらわないとね。そのうち、俺の専属料理人になってもらわないと」

「が、頑張りますっ!」

「うむ、道は険しいぞ? お主についてこれるかな?」

「むむ! 僕、ついていきます!」

「はいはい、楽しそうなのは良いことですが、早くやりましょうよ」

「ふふ、バレているのだよ?」

「な、何かですか?」

「さっきから尻尾を振るのを我慢していることを!」


 リンの尻尾をよく見ると、小刻みに震えている。

 おそらく、我慢しているに違いない。


「くっ……そ、そんなことはありません」

「ほう? ではいらないと?」

「っ——!! た……」

「た? 何だね? はっきり言ってくれたまえ」

「た、食べたいです……!」

「なに? バスケがしたいって?」

「……はい?」

「ごめんなさい、少し調子に乗りました。だから——コワイカオシナイデ」


 どうやら、俺はタプタプした先生にはなれないようです。








 と言うわけで、気を取り直して……。


「本日はモモ肉を使います!」

「僕が浸けておきました!」

「なるほど、硬い部位で使い辛いやつですね」


(そう、牛モモ肉は部位の中では硬い方だ。ステーキの焼き方が下手だと硬くなるし、煮込んでも硬くて美味しくない。この世界では人気がない部分だ。しかし! 俺の知識の中には、アレがある! もし上手くいけば……特産品になるかもしれない)


「ふふふ、それはさっきまでの話さ。こいつは、今や柔らかい肉に進化したのさ!」

「ハチミツを塗ったことに関係があるので?」

「そういうことだね。お肉っていうのはね、ハチミツを塗ると柔らかくなるんだよ」

「ふぇ〜!? どうしてですか!?」

「うーん……ハチミツの成分の中には、肉の繊維を柔らかくする効果があるんだよ」


(流石にブドウ糖とか言っても、わかんないしなぁ)


「へぇ〜! マルス様は物知りですね!」

「いや、これも先人の知恵さ。俺は、まだまだそういう知識を持ってる。シロ、頑張って覚えてくれ」

「はいっ! 僕のお仕事ですねっ! ラビちゃんに負けられないです!」


(へぇ? ラビとシロは年も近いから仲が良いけど、ライバル的な関係でもあるのか)


「では、調理を開始します。はい、塩胡椒をして……まずは、庭に行きます」

「「へっ?」」

「まあまあ、とりあえず行こうよ」





 俺は材料も持って、庭に出る。


「まずは、四方に壁を作って……その中央に枯葉と木を置いて……石の柱を左右に作って、その上に網を乗せて……火をつける」

「これで、どうするんですか?」

「まずは、すべての面を均等に焼き目をつける」


 俺はトングを持って、肉に焼き目をつけていく。

 そのまま一面を四分程度ずつ焼き……。


「これでよしと……そしたら、蓋をして」


 火を消したらすぐに上に魔法で蓋をする。


「さらに密閉性を高めるために——この箱を土で囲む!」


 魔法によって、中の温かい空気が逃げないようにする。


「これで、あとは放っておけばいい」

「えっ? これだけなのですか?」

「ふぇ〜!? 僕にはできませんよぉ〜!?」

「大丈夫、これは俺用だから。一度、やってみたかったんだ。シロには、もっと簡単な方法を教えるね」




 その後、厨房に戻り……。


 フライパンで同じ要領で、全ての面を五分ほど均等に焼く。

 それが終わったら蓋をして、なるべく温かい場所に置く。


「こ、これだけですか?」

「うん、そうだよ。簡単でしょ?」

「でも、火が通ってないですよ?」


(この世界には、よく焼いて食べるようにという習慣がある。それ故に、低温調理などがない)


「ふふふ、これで余熱調理をしているのだよ」

「余熱……残りの熱さで火を通すってことですか?」

「おっ、良いこと言うね。うん、そう言う感じだね。ただ気になる人や、小さいお子さんなんや妊娠中のお母さんには、切ってから更に焼いた方が良いかも。それでも、十分柔らかくなってるはずだから」

「はいっ! わかりました!」


 シロは一生懸命にメモを取っている。


「では、獣人は平気ですね。時には生肉でも食いますから」

「それは野生的すぎる……」

「もちろん、好んでは食べませんよ? それしか与えられない場合もあるので」

「そうだね……それはなくしたいね」

「ふふ、ありがとうございます」





 その後は、指導している魔法使いの様子を見たり……。


 風呂に入ったり、シルクの髪を乾かしたり……。


 そうこうしている間に……夜になる。





 俺は作ってあったカマクラもどきの前に、みんなを案内する。


「マルス様? 部屋の外で食べるんですの?」

「うん、こっちのが雰囲気出るかなって」

「でも、寒いですわ」

「おう、さみいぜ」

「まあ、そこは任せてよ——ドーム」


 俺のイメージ通りに魔法が発動して、即席のドーム状の建物が出来る。

 もちろん天井には穴を開け、夜空が見えるようにして、更に煙がこもらないようにする。


「ふえっ? ……す、凄いですわ!」

「まじか!?」

「ん? ああ、そっか」


(昨日きたシルクや兄上の前で、こういうのは使ったことなかったね)


「私は、もう慣れましたけどね」


 レオやベア、シロやラビ、マックスさんやヨルさんまで頷いている。


「まあ、まずは入ってよ」


 俺が作ったドームの中に、みんなを入れたら、最後に俺が入る。

 そしたら入り口を魔法で閉める。

 これで、そこまで寒くはないだろう。


「そしたら、椅子とテーブルを作って……ラビ、肉をどかして、代わりに持ってきた鍋を置いてくれる?」

「はいっ!」


 肉を焼いていた場所に鍋を置いて、再び火をつける。

 その場所を、皆で囲む形で席に着く。


「じゃあ、僕が切りますね!」

「うん、任せるね」


 持ってきたまな板をテーブルに乗せて、肉に包丁を入れ……。


「さて、出来たかなぁ〜っと……おおっ!」

「わぁ……綺麗です!」


(赤みのある色合い、しっかりした焼き目……間違いない、ローストビーフの完成だ!)


「よし! 皿に盛って食べよう!」


 それぞれの小皿に切った肉をよそい、全員に配る。


「みなさん! それはローストビーフと言う名の食べ物です! 生に見えますが、しっかりと中に火は通ってます! 気になる人は、網の上で焼いてください! それでは頂きます!」


『頂きます!』


 全員の声が聞こえたあと……俺は肉に齧り付く!


「もぐもぐ……旨い!」


(噛まなくても口の中でとろける肉! じっくり火を入れたことで肉の旨味が凝縮されてる!)


「う……うめぇ! おい! マルス! うめえぞ!?」

「お、美味しいですわ……私が食べたことのない……はぁ」

「うんうん、二人の歓迎の意味もあるから、喜んでくれて良かったよ」


 どうやら、シルクは軽く火にかけたようだ。

 そして、他の連中を見ると……。


「もぐもぐ……マルス様、これおかわりしても?」

「オレも良いっすか!?」

「主人、俺もだ」

「僕も!」

「わたしも!」


 さらには……。


「わ、私も良いですかな?」

「お、俺も食べたいです!」


 どうやら、みんな気に入ってくれたようだ。


「よし! シロ! どんどん切ってくぞ!」

「おー!」


 二人で次々と切っては、みんなの口に入っていく。

 俺も切ってはシロの口に入れ、自分も食べる。


(……うん、これを特産品に出来れば良いかも。割と日持ちするし、旨いし……方法さえ知っていれば作るのも簡単だ)


 後の問題は……バイスンの飼育だね。

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