第35話 長い一日の終わりに

 その後、一度執務室に戻ることになり……。


 リンとシルク、兄上とヨルさんと話し合いをする。


「さて、もうすぐ日が暮れる。本格的な視察は明日以降にする……という建前で、明日から遊ぶぜ!」

「へっ?」

「はは……ヨルさん、すみません。ライル兄さんはこんな感じなので……ごめんなさい」

「おいおい、お前が言うなよ。一緒にサボった仲じゃねえか」


確かに……勉強からは、一緒に逃げてたなぁ。

兄さんは武術の稽古以外は嫌いだったし。

えっ? 俺? 俺はもちろん、全部から逃げたしたのさ!



「……こ、国王陛下は」


「はい、苦労なさってますわ」


「ええ、そうです。下の二人がこれですからね」


「ぐぬぬ……マルスと一緒にされるのは癪だな」


「いえいえ、兄上。今の俺はスーパーマルスです。キノコは食べてないけど、めっちゃ動いてます」


「相変わらず、わけわからん奴だ」


「コホン! ですので、ヨルさん」


「は、はい」


「明日以降、兄上が引き連れてきた文官や兵士達を案内してあげてください」


「し、しかし、私の身分では……」


「大丈夫です、明日彼らには伝えますから。俺が信頼する方だと……兄上もねっ?」


「まあ、お前が信頼してるなら良い」


「わ、わかりましたっ! 誠心誠意努めさせて頂きます! では部下にも説明してまいります!」


 そう言い、ヨルさんは駆け出していった。


「クク、人誑しは相変わらずか」


「人聞きの悪いこと言わないでくださいよ。俺はできる人に任せているだけです」


「……確かに、そういう見方もできるか。もしかしたら、領主向きなのかもな」


「はい、私もそう思いますわ。人に任せられるのも才能だと、お父様は仰ってました」


「そうなの? まあ、俺は楽できれば良いよ」


確かに、前世でもそういう話は聞いたことあるかも。

まあ、俺みたいにめんどくさいって理由ではないと思うけどね。


「じゃあ、兄上は俺と狩りにでもいく?」


「おう! 楽しみだぜ! うるせえ奴らが多くてよ、王子なので後方にいてくださいとか」


「はは……まあ、そうだろうね」


「マルス様、シロがご飯を作ってる間に入ってもらっては?」


「おっ、いいね。二人とも風呂に入ろうか」


「おっ! 良いじゃねえか!」


「あら! 素敵ですわっ!」






 というわけで、作ったばかりの風呂場に案内する。

 俺が指定して作らせたので、まんま前世の温泉に近い形にしてもらった。

 のれんまで作って、女湯と男湯に分かれている。


「す、凄いですわね」


「お、お前が作ったのか?」


「うん、お金はそんなにはかかってないよ。ほとんど俺が魔法で加工したし。木材を風魔法で切ったり、土魔法で穴を開けたり、水魔法で水を溜めて、火魔法で温めるから」


「「………」」


「ん? どしたの?」


「こ、こりゃ、兄貴に報告しないと」


「お、お父様にお手紙を書かないと」


「ふふ、マルス様は常識外れですからね」


「別に魔法を使っちゃダメなんて決まりはないし。ほら、入ろう」







 身体を石鹸で洗い、髪も簡易的なシャンプーで洗い流す。


これも、あまり良いものではないよね。

もちろん、あるだけマシだとは思うけど、前世の記憶が蘇ったし……。

そのうち、きちんとしたモノを作りたいね。

そしたら、シルクやリンも喜ぶかも。


「ふぅ……気持ちいい」

「カァー! 気持ちいいぜ! あとは酒と女でもあれば言うことないな!」

「そんなに良いものですか?」


俺、前世の時も酒は好かなかったし……女性とお付き合いしたこともないし……。

我ながら、寂しい人生だったなぁ。


「ちょっと!? ライル様! マルス様に変なことを教えないでくださいませ!」

「シルク様、もう少し静かに」

「で、ですが!」


 覗くスペースはないけど、声が通るくらいの隙間は作ってある。

 なので、大声で話せば聞こえないこともない。


「クク、愛されてるな? しかし、怖くもある。お前、女遊びはできないな? ……まあ、死人が出そうだ」

「どういう意味ですか?」

「リンが相手を始末するか……お前がシルクに泣かれて……オーレンが飛んでくるかだな」


 その光景が、一瞬で目の前に広がる。

 ……ブルブル、オレ、オンナアソビシナイ。



 そして風呂から出た後……俺はあることに気づく。


俺やライル兄さんはそこまで長髪ではないから、そこまで大変じゃない。

でも、女性は乾かすのも大変だよなぁ……。

ドライヤーなどはないから、暖炉の前や暖かい部屋で髪を乾かすのが一般的だ。

 貴族の人は、タオルでよく拭いてから、使用人に団扇で扇いでもらって……。


「……うん、できるかも。というか、俺はバカか。なんで思いつかなかった」


「マルス? 何をぶつぶつ言っている?」


「兄さん、少し実験に付き合ってください」


「お、おう。その言い方、姉さんそっくりだな」


「大丈夫です、少し髪が燃えるだけですから」


「お、おい!?」


「はい、いきますよ——それ」


「おっ……おおおおぉぉ!!」


 そして、ものの数分で……。


「ははっ! すげえぞ! 姉さんが聞いたら驚くぜ!」


どうやら、実験は成功したようだ。






 俺は兄さんを先に帰し、自分の分も乾かして二人を待つ。


 すると……。


「た、大変ですわっ! 使用人がいないから乾かせないですわっ!」


「大丈夫ですよ、ブルブルってして暖炉の前にいれば乾きますよ」


「や、野生的すぎますわ!?」


そういや、リンはいつもそうしてたっけ。

というか、基本的に獣人の身体は丈夫だから平気だって言ってたね。


「二人とも〜! 服は着た〜!?」


「マ、マルス様!?」


「ええ、着てますよ」


「じゃあ、出てきて! 俺が乾かすから!」


 そういうと、二人が出てくるが……。


やばい……なめてた……色気が半端じゃないですけど?


 ガウンに着替えた二人は、蒸気というか、色香というか……。


とにかく、色々とまずい……さっさと仕事しよう。


「マルス様?」


「う、ううん、シルク、そこに座って後ろを向いてくれる?」


「は、はぃ」


 シルクを座らせたら……。


炎は出しちゃいけない……あくまでも熱を……そこに風を送るイメージ……。


 これが、火属性と風属性の複合魔法だ。


熱風ヒートウインド


 風を送りながら、手で優しく髪を乾かす。

 絶対に傷めないように、細心の注意を払う……こんな綺麗だもんね。


「にゃん!?」


「あ、熱かった!?」


「い、いえ! だ、男性に触られることなどないので……」


「……あっ——」


そ、そうだったー! 侯爵令嬢だったァァァ!


「リ、リンがやろうか!?」


「えっと……マルス様が良いですわ……」


「ええ、それが正解です」


「そ、そっか……熱かったり、痛かったら言ってね?」


「はぃ……気持ちいいです」


うなじ綺麗だなぁ……っといかんいかん。

こんな時は、オーレンさんの顔を思い出して……。




 そして色々な意味?で無事に終わる。


「はい、次はリンだね」


「ですが……」


「ほら、やってもらいましょう?」


「……では、お願いします」


 続けて、リンの髪を乾かす。


おおっ、シルクと違って重たい量のある髪だ……!


「うん、綺麗な紅髪だね」


「あ、ありがとうございます……」


「マルス様! 私は!?」


「シルクも綺麗だよ。両方ともサラサラだし」


「えへへ」



 髪を乾かすと……。


「これ凄いですわっ!」


「ええ、こんなに早く乾くなんて……」


「だよね……よし、これについても考えておこう。ひとまず、ご飯にしよう」





 食堂に行くと……すでに、みんなが揃っていた。


 シロやラビ、レオにベア。

 マックスさんにヨルさん、魔法使いのヤンさん。

 兄上や、そのお連れの方々。

 本日は、バイキング方式を採用したらしい。


「おっ! 来たな! じゃあ、食べるぜ!」


「どうやら、俺たち待ちだったみたいですね。みなさん! どうぞ召し上がってください!と言っても、シルク達持ってきたものですけどね」


「ふふ、良いんですよ。さあ、食べましょう?」





 楽しい食事会が始まり、そして……とあるものが登場する。

 こんがり焼けた芋虫のようなものが、大皿に盛られている。


「これ……エイトビーの幼虫?」

「そうですね」

「マ、マルス様……」


いや……前世でも、食べる地域はあった。

まあ、色々と勝手は違うけどね。


「よし——はむ……うまっ!」


ていうか大きさといい、食感といい……海老だな。

しかも、伊勢海老とか……食べたことないけど。


「ええ、美味しいですね」

「で、では、私も……お、美味しい……とても濃厚でミルキーな味わいですわ!」

「そう、それが言いたかった。さすがはシルクだね」

「おう! 俺にも食わせろ!」

「ちょっと!? 重たいですよっ!」

「もぐもぐ……うめぇ!」


 すると……。


「ボスッ! オレも!」

「僕も!」

「わ、わたしも!」

「俺もだ」


 さらに……。


「ヨル殿、俺達も頂きましょう」

「ああ、マックス。良いですかな?」

「うん! もちろんさ! みんなで食べよう!」


 ……そうだ、こういう感じを目指せば良いんだ。


 よし、シルクのためにも頑張るとしますか。


 やっぱり、男の子ですから……カッコいいところ見せたいしね。

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