第34話 みんなで仲良くハチミツ

 その後、厨房内に入ってみると……。


 厨房では、すでに巣が解体されていた。


 その中には、お腹の大きなエイトビーもいる。


「あれが女王? 随分と、ズングリしてるね」

「ああ、そうだ。奴は苗床扱いだ。ひたすらに種を仕込まれて、ただ生み出すだけのものになる。オスは種を仕込んだら、死ぬそうだ」


 うげぇ……いや、そういう性質だとは思ってだけど気分は良くないなぁ。

 確か、前世でも似たような感じだったはず。


「そしたら次の女王はどうするの?」

「メスの中から、新たな個体が女王となる。そして、子を生んでいく。その始めとして、まずは守りのキングを生み出す」

「へぇ、なるほどね。じゃあ、あのまま放っておけば良いんだ?」

「ああ、いずれ巣を作り、また採取出来る日が来るだろう」

「冬を越せるの?」

「ん? ああ、問題ない」

「そっか……うん、ありがとう」


 そりゃ、色々と勝手は違うよね。

 さて……勝手が違うのは味もかな? ワクワク。


「それで、ハチミツは……」

「おおっ!!!」

「うわっ!?」


 いきなりベアが駆け出して、奥の部屋へと向かう。

 そして、その扉を開けた瞬間——。


「めっちゃ、甘い香りが……たまらん」

「ボスっ!」

「マルス様!」

「僕、気になります!」

「うん、行こうか」


 全員で、奥の部屋へ入ると……。


 そこには、丸い壺の前で号泣するクマ……ベアがいた。

 どうやら、壺に小分けされているようだ。

 確か、密閉性が大事って聞いたことあるな。


「ウォォォ——!」

「べ、ベア?」

「主人よっ! 感謝する!」

「いたたっ!?」


 くまさんに抱きしめられています! 痛いです!


「べ、ベア! 落ち着けって! ボスが潰れちまう!」

「す、すまない」

「い、いや、別に良いよ。そんなに好きなんだ?」

「ああ、母親との思い出の味だからな。いや、今は香りか」

「なるほどね」

「あと、取ってからずっとうずうずしていた。しかし、主人達が真面目な話をしているのに、そんなことを言うわけにはいかない」


 ああ、そういうことね。

 ずっと我慢してたってことか。

 それが爆発したと……ふむ。


「じゃあ、ベアが一番に食べて良いよ」

「……良いのか? 主人であるお主を差し置いて……」

「うん、だってベアがいなければ取れなかったんだから」

「……レオよ」

「へっ、言ったろ?」

「ああ、我らの主人は素晴らしい人だな。主人よ、改めて誓おう。我が身を捧げるので、好きに使え」

「そういうのは良いから。ほら、早く食べて。君が食べないと、俺だって食べられないよ」


 なんか、こういうのって照れ臭いよね……まあ、嬉しいけど。


「では……」


 綺麗なスプーンを使い、壺からハチミツを取り……。


「あむ……あぁ……母さん……」

「どう? 美味しい?」

「ああ、今まで生きてきた中で二番目に美味い」

「あら?」

「一番は母がくれたものだ」

「それなら仕方ないね。じゃあ、俺も……」


 違うスプーンを使い、ハチミツをすくう。


「おおっ、重い」


 見た目よりも、ずっしりとした重さを感じる。

 何より黄金に輝くそれは、見ているだけで飽きない。


「頂きます——あれ……っ!!」


(甘くないと思ったら……遅れていきなり甘みが爆発した!?)


「うん? 甘すぎない? でも甘い? ……これが上品な味わいってやつか」


 うん……これなら飲めるね、比喩でもなんでもなく。


「美味しいね……」

「ははっ! こいつはうめぇ!」

「美味しいです!」

「わぁ……! 僕、これ好き!」

「クク、おそらく一番良い時期のものだな。何より、皆で取ったからだろう。俺も……昔を思い出した」

「うん、それはあるね。全員でとったものを一緒に食べると美味しいよね」


 すると……足音が聞こえてきて。


「あら、私は仲間外れですか?」

「私は一緒には取ってませんけど……」

「そうだね、ごめんね。リンも食べなよ。もちろん、シルクも」

「はい、では……美味しいですね。滑らかでいて、それでいて喉越しも良い」

「い、良いんですの?」

「みんな、良いかな? この子も、これから仲間になるから」


 俺が全員の顔をみると……皆が戸惑っている。


 そっか、シルクが貴族だから戸惑ってるのかも?

 シルクが良い子だってことを伝えないと……。


「マルス様、ご挨拶をしてもよろしいですか?」

「えっ? う、うん、もちろん」


 するとシルクが前に出て、優雅にスカートの端をつまみ……。


「皆様、ご挨拶が遅れて申し訳ありませんわ。私はシルク-セルリアと申します。マルス様の元婚約者にして、マルス様を愛する者であり、リンの友でもあります。以後、よろしくお願いしますわ」

「皆の者、ここにおわす方は奴隷差別をしない。この私が保証するから安心するといい」

「あ、姐さんが言うなら……よろしくな!」

「よ、よろしくお願いしましゅ!」

「ぼ、僕もよろしくお願いします!」


 みんなが声をあげる中……しかし、ベアだけは腕組みをして黙っている。


「主人よ……こやつはお主の大事な人か?」

「うん、そうだよ」

「ふえっ!?」

「えっ?」

「い、いえ、何でもありませんわ」

「そうか……ならば良い。さあ、食べてくれ」


 ベアが壺を、シルクの前に差し出す。


「……いいんですか?」

「……ああ、主人の大事な人なら良い」

「で、では……はむ……っ〜!!」

「いたいいたい! 背中を叩かないで!」


 ハチミツを口に含んだ瞬間、何故か俺は背中をバンバンと叩かれています。


「マ、マルス様! 美味しいですわ! 今まで食べたハチミツの中で一番!」

「そ、そう、それは良かった」

「こ、これは……紅茶に入れなくてはいけませんわ!」

「良いですね、では私が入れましょう」

「わ、私やりますわ!」

「僕も!」

「わたしも!」


 女の子達が隣の部屋に移動して、並んで厨房内で作業をしている。


(そういや、いつもこんな感じだったっけ。前世の記憶が蘇ってからは初めてだし)


「主人よ、良い人間だな。我らを見下す視線がない」

「でしょ? シルクはいい子だもん」

「ははっ! ボスの女か! なら、俺たちにとっても大事な人だな!」

「いや、女って……」

「クク、照れているようだな?」

「マルス様〜! できますわよ〜!?」

「わ、わかった! ほら、行くよ!」





 その後、みんなでティータイムの時間を過ごす。


「ぁぁ……美味しい……砂糖とは違う、上品な味わいだわ」

「ええ、美味しいですね」


 確かに美味い……だが、まずはアレが食べたい! 一段階レベルが上がるはず!


「ふふ……俺は、これで唐揚げを作る!」

「良いですね」

「わぁ……美味しそう! 僕も手伝います!」

「わたしも食べたい!」

「オレもだっ!」

「ほう、良いな」


 シルクはキョロキョロとした後、俺の側にくる。


「な、なんですの?」

「ああ、唐揚げって食べ物があってね、これが美味しくて——うわぁ!?」


 物凄い力で肩を揺さぶられる!


「何処ですの!? 私も食べたいですわっ!」

「い、いや、今はなくて……お、落ち着いて!」

「ず、ずるいですわっ! 私も食べたいですっ!」

「わ、わかったから!」


 そういや、普段のシルクはこんな感じだった……。

 ……でもおかげで、俺はずっと楽しかったんだよね。

 それを今思い出した。


 俺はいつも無気力で……でも、その確かな理由がわからなくて。

 そんな時、彼女が側にいてくれた。

 俺を無理矢理連れ出したり……当時はめんどくさいと思うこともあったけど。

 ……それでも、今思えば楽しかった。


「な、何を笑っているのですか?」

「ううん、何でもないよ。シルク、君がいると楽しいね」

「っ〜!!」

「いたっ!?」

「もう! ……私も楽しいですわ」


 うん……彼女ならきっと、他の人とも上手くやれるだろう。


 さて、色々とやらなきゃいけないけど……頑張りますかね。







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