第33話 その裏では……
オーレンさんを見送った後、一度領主の館に戻り……。
ずっと、うずうずしていたライル兄さんに迫られる。
「おい! どうなってんだ!?」
「ま、待って!」
咄嗟に、俺はリンとシルクの後ろに隠れる。
……え? 情けないって? 別に良いじゃないかっ!俺は肩を外されたくないもん!
「ライル様、落ち着いてください」
「そうですわよ」
「全く、そういうとこは変わらないのか」
「俺は何も変わってませんよ?」
「嘘つけ、お前が優しい子で実は賢いのは知ってる。しかし、魔法が使えるとは知らなかったぞ? ライラ姉さんは、知っているのか?」
ど、どうしよう? 前世とかチートとか説明しても理解してもらえないよね?
でも、可愛がってもらった兄さんに嘘はつきたくないかな……折衷案でいこうか。
「いえ、誰にも伝えていませんでした」
「ほう? その理由は、さっきオーレンが言っていたようにか?」
「いえ、あれはオーレン殿の勘違いです。俺はただ、だらだらしたかっただけです。そのためには、力を隠す必要がありました」
まずは、きちんとダラダラしたかったのは自分の意思だと伝えないと……。
そのうち、働かされちゃうかもだし。
「なるほどな……お前らしい」
「もちろん、歳を重ねていくうちに面倒なことになると思ったのは事実です。世話になったロイス兄さんと敵対したくはありませんし」
そんなこと思ったことないけど、これは勘違いされたら困るから伝えないとね。
「わかった、そういうことか……まさか、可愛い弟が麒麟児だったとはな。ライラ姉さんが聞いたら……覚悟しといた方がいいぞ? 魔法を使えるとなったら……こわ」
「……ブルブル……そ、その時は助けてくれますよね?」
「バカいうな! 俺は逃げる!」
「なっ!? それが可愛い弟に対する仕打ちですか!?」
「馬鹿野郎! 俺だって命は惜しい!」
ライラ姉さんは、いわゆる魔法バカで……ブラコンである。
もし、使えるとなったら遊ぼっていうに違いない。
勝てる勝てないではなく、俺とライル兄さんは姉さんには頭が上がらない。
「ふふ、懐かしい光景ですわ」
「ええ、そうですね。ライル様が騎士団に入ってからは、会うことも減りましたから」
「ふん……まあ、そうだな。マルス、視察員として数日世話になる。まずは、荷物を置いておきたい。そして、連れてきた数名の兵士達や文官の部屋もだ」
「そういうことでしたら。ラビ、ライル兄さんを空いてる部屋に案内してあげて」
俺は、それまで後ろで大人しくしていた彼らに声をかけていく。
「は、はいっ!」
「ほう? こいつは?」
「俺のお世話係兼、リンのお手伝いをしている兎族のラビです。ちなみに、獅子族がレオ、熊族がベア、犬族がシロです。みんな、俺の仲間です」
「主人……」「ボス!」 「えへへ」
「そうか……こんな弟だが、よろしく頼む」
「ああ」 「おう!」 「はいっ!」
自己紹介を終え、ひとまず兄上は部屋から出て行く。
さて、問題はこっちだよね。
「シルク」
「はい?」
「……どうして、腕を組んでいるの?」
兄上が出て行った瞬間、腕を組まれました。
いや、良いんですけどね?
「もう逃がさないからですわ」
「えっと、逃げた覚えはないんだけど?」
「私を置いて、バーバラに行ってしまいましたわ」
「いや……」
「私は、まっててくださいって言ったのに……」
「しかしですね……」
「覚悟してくださいね? ——もう離れませんから」
……あれ? やっぱり、おかしいよ?
「マルス様が悪いので、落ち着くまでは甘んじてください」
「リン、俺が悪いの?」
「ええ、もちろん」
「……ソウデスカ」
……まあ、いっか。
そのうち落ち着くでしょ……落ち着くよね?
その後、リンはシルク用の部屋に案内しに行った。
「じゃあ、レオ、ベア、シロ、ハチミツを取りに行こう」
俺は彼らを連れて、厨房へと向かう。
ひとまず、シルクを歓迎しないとね!お
◇◇◇◇◇
……さて、ここなら邪魔は入りませんわ。
部屋に案内された私は、リンと向かいあいます。
「リン、案内をありがとう」
「いえ。シルク様、改めてよろしくお願いしますね。マルス様には、貴方が必要ですから」
「リン……貴女の正直な気持ちを教えてくださる? 私は、邪魔ではないですか?」
「いえ、私は……」
「貴女の気持ちは知っていますから」
リンはマルス様が好きなんですわ。
もちろん、私も負けてはいませんが……。
「……私は、貴女に感謝しています。奴隷であった私に、貴女は優しくしてくださいました。そして、マルス様のお側にいることを許してくれました」
「当然ですわ。貴女は信頼に足る者で、私の友なのですから」
「ええ、そう言ってくださることを嬉しく思います。ですので、私はそばに居られればいいのです」
「もう! それではダメですわ!」
「しかし……」
むぅ……相変わらず、強情ですわね。
「まあ、それは後にします……ところで、他に女性の方は?」
「大丈夫です、メイドやそれらしい者は全て排除しましたから。シロもラビも幼く、マルス様の守備範囲ではありませんし」
「そ、そうですか……ほっ」
「ふふ、約束通りお守りしましたよ」
リンには、マルス様に近づく女性がいたら排除するように頼んでたから……。
「言っておきますけど、貴女以外には許しませんから」
「シルク様……」
「貴女はライバルでもあり、友なのですからね」
「しかし、私は元奴隷で獣人で……」
「私の友を悪くいうことは、貴女でも許しませんわ」
「……ありがとうございます」
もう! 相変わらず頑ななんだから!
私がいない隙に、マルス様をどうにかすることもできたのに…。
そんな気配はないし。
でも……そんなリンだからこそ私は好きで……。
きっと、上手くやっていけると思ってますのに……そうだわっ!。
「リン」
「はい?」
「私は、婚約破棄こそされませんでしたが……今は解消状態に近いです」
「え、ええ……ですが」
「つまり、マルス様を好きなただの女ということです——貴女と同じ」
「シルク様……」
「これで、立場的には対等ですわ。いや、マルス様の信頼を得ている貴女の方が上かもしれないわね」
「そ、そんなことは……」
「つまり、私と貴女の競争というわけですわ。どっちがマルス様のお役に立てるか」
「………」
「自信がない? マルス様のお役に立つ自信が」
リンは何よりも、マルス様の役に立つことを重視しているわ……これなら。
「……いいでしょう。私の唯一の誇りを奪おうというなら——貴女でも容赦はしません」
「ふふ、そうでなくては。リン、頑張りましょうね?」
私は彼女に握手を求めます。
「……敵わないですね、貴女には」
少し躊躇った後、リンはぎこちなく握ってくれました。
これで良いのです……マルス様には、リンが必要ですから。
もちろん——私も負けるつもりはありませんことよ?
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