第31話 審査?

 ……ふぅ、どうにかなったか。


 あの大きさ……多分、あれがキングだったんだろうね。


 森の外だったから、咄嗟に火属性の上級を使っちゃったけど……。


「おい! マルス!」

「いたたっ!」

「なんだ!? 今のは!? ライラ姉さんに、いつの間に習った!?」

「ま、待って! 肩外れちゃうっ!」

「ライル様、落ち着いてください」

「おっと、すまん」


 ふぅ……リンがライル兄さんを止めてくれた。

 おかげで、肩を外されずに済んだ……痛いよぉ〜。


「まずは、都市の中に入りましょう。シルク様も、それで良いですか?」

「………」


(ん? なんだ? シルクの様子が変だな?)


「シルク? どっか怪我でもした? 怖かったかい?」

「ひゃい!?」

「うひゃあ!?」

「はっ! ご、ごめんなさい!」

「いてて……二人して酷くない?」


 ライル兄さんには、両肩を掴まれて揺さぶられ……。

 シルクの顔を覗き込んだら、今度は突き飛ばされてしまったよ。


「あぅぅ……違うのにぃ……」

「今のはマルス様が悪いですね」

「くははっ! 女の扱いがなっとらんなっ!」

「えぇ……俺が悪いの?」


あれー? おかしいなぁ、シルクってもっとツンツンしてなかったっけ?

いつも、こんなしおらしかったっけ?






 ひとまず、四人で都市の中に入ると……。


「マルス様! ご無事でなによりです!」

「マックスもご苦労様」

「ヨルさんと、侯爵様がお待ちです! すぐに館へ!」

「はい? ……シルク?」

「お、お父様もきていますわっ!」


まじか……俺、あの人苦手なんだよなぁ。

厳しい人だし、理論派だし……だから、幼いながらに顔を合わせないようにしていたはず。





 そして……領主の館の前、その男は腕組みをして待っていた。


「マルス様、お久しぶりでございます」

「は、はい、お久しぶりですね。本日は、どのようなご用で?」


俺は婚約破棄されたから、もう関係ないはずだ。


「実は、国王陛下に視察の同行を頼まれまして……」


ウワァ〜! ロイス兄さんは、本当に厳しくするつもりだっ!

この人を寄越すなんて……とにかく自分にも他人にも厳しい人だし……とほほ。


「そ、そうなんですね。えっと……」

「まずは、中に参りましょう」

「わ、わかりました!」


あれ? 俺って、ここの領主だよね? 王子だよね? ……まあ、いいか。








 俺の部屋では、すでにヨルさん達が待っていた。

 壁際には、レオ、ベア、シロ、ラビもいる。


「皆さんも色々と話したいことや、話すべきことが多いですね。ライル様、申し訳ありませんが……」

「俺に遠慮することはない。今の俺は、王子である前に視察兼護衛で来ている」

「感謝いたします。では、私がマルス様とお話をさせていただきます……マルス様も、よろしいですね?」

「は、はいっ!」

「シルクもいいな? あと、リンといったか?」

「はい、お父様」

「ええ、問題ありません」


ぎゃー! 助けてくれる人がいないよぉ〜! みんな、この人にビビってるし!


「さて……ヨル殿から色々と聞きました」

「そ、そうですか」

「奴隷解放をするおつもりで?」

「いえ、そこまでは考えていません。必ず軋轢を生むことになります——特に貴族の間で」

「わかっているならよろしい」

「しかし、このままでは良くないとも思っています。このままいけば、どこかで破綻するでしょう」

「ほう? それも理解していると……ええ、その通りです。私も、憂慮していることです」

「はい、どこかで和解の道を探るのが俺の目的です。そして、後世の者に繋げていきたいと思っています。もちろんなくせれば、それに越したことはありませんが……」

「なるほど……ふむ、そうですか」


うぅ……この審査されてる感じ……胃が痛いよぉ〜。


「では、次に……何やら、労働改革をしているとか?」

「ええ、奴隷達だって休憩は必要ですし、食事をとった方が効率が良いですから」

「ふむ、理にはかなってますな。それを奴隷に適用するところは、普通はあり得ませんが」

「彼らだって、同じ生き物です」

「……真っ直ぐな目ですね。そうですか、そう言える人だということですか」


ん? 少し和らいだ? それとも気のせい?


「えっと?」

「いえ……他にも、仕事の少ない下位の冒険者達を使った農作物の管理……獣人や人族のために家を用意し、皆で使えるお風呂を用意したり……獣人を使って、本人自らも狩りにまで出ていると」

「ええ、彼らも魔法の鍛錬にもなり、いずれ強くなるでしょう。冒険者全体の底上げにも繋がります。獣人と人族がコミニュケーションをとれば、狩りの効率も上がります。そうすれば食料自給率の向上になります。私自身が行くことによって、彼らと連携が取れるということを証明するためです」

「ふむ……しかし、高位冒険者から不満が出るのでは?」

「ええ、出ています。しかし、それもきちんと考えています」


 すると、少し上を見上げた後……。


「……及第点ですな」

「へっ?」

「いや、元々のことを考えれば上々の成果といったところですか」

「それは、つまり……?」

「ひとまず、合格点を差し上げます」

「ほっ……ありがとうございます」

「いえ……正直言って驚いております。厳しいことを言いましたが、まだ二週間という短期間ですから。この進歩は目覚ましいかと」


よしっ! この人に褒められたのは大きいぞ!

国内でも屈指の人物で、国王陛下や宰相すら一目置いてるし。


「しかし! ……甘い部分が目立ちます」

「えっ?」

「税金は? 収入源の確保は? その使い道は? マルス様の給料は? リン殿は? 特産品は? 法の設備は?獣人達と人族の仲を取り持つなら、それも必要かと。さらには、ここには高位貴族がいません。だから、王族である貴方が好きにやることが出来ました。他では、こう上手くはいかないでしょう」


うわぁ……ぐうの音も出ないや。


「す、すみません……」

「いえ。先ほども申しましたが、二週間で出来る事ではありません。何より、貴方に感服いたしました!」


先ほどとは打って変わり、急に熱が入ったように前屈みになる。


「ど、どういう意味ですか?」

「魔法使いとして一流とお聞きしました。皆に馬鹿にされつつも、その力を秘匿していたと……もし貴方が力を秘匿していなかったら、王位継承で揉めていたでしょうね」


あぁーそういう意味ね……いや、そんなつもりはなくて……。


「まさか、だらだらしていたのがカモフラージュだったとは……私としたことが、騙されるとは……これには驚きを隠せません」


うん、だってカモフラージュじゃないし……だらだらしたかったもん!


「生まれた頃から神童と呼ばれることに甘んじることなく……冷静に状況を確認して、自らの立ち位置を決めたのでしょうね。もちろん、兄弟仲が良いことも要因かと思いますが」


ううん、全然考えてなかったよ?

ただ、めんどくさかっただけだよ?


「沈黙ですか……いえ、答えられるものではありませんね。まさか、こんなに出来る方だとは……今まで失礼な態度をとり、申し訳ありませんでした!」

「ちょっと!? やめてください!」


何いきなり頭下げてんの!? しかも——ほとんど勘違いなんですけど!!


「いいえ、私が間違っておりました。シルクの言う通り、優しくて思いやりのある方で、きちんとした考えの持ち主だということがわかりました」

「良いですからっ! お願いだからやめてください!」


 俺は彼に寄っていき。無理矢理起こす。


「なんと……王族でもあるのに、私の物言いにも文句もつけずに……しかも、許してくださると?」

「許すも何も、俺がだらだらしてたのは事実ですし、まだまだ未熟なのも事実ですから」

「……私の負けですな。シルク、婚約破棄は撤回する」

「お父様!」

「はい?」

「いや、それどころではないな。このままではシルク……お前のがマルス様に相応しくない」

「そ、そんなっ!?」

「えっと?」

「しかし、お前の気持ちはわかる。それに約束は守らねばならん。マルス様、娘を置いていくので、好きにお使いください。シルク、きちんと役に立ってマルス様に相応しい女性になりなさい」

「はいっ! お父様っ!」


待て待てーい! 何がなんだかさっぱりなんですけど!?


「今更何を言うと思いになるでしょうが……シルクが相応しい女性になったら……もしよろしければ、娘を再び婚約者にしてもらえるでしょうか?」


……はい? 後半から全然展開についていけないんですけど?

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