第27話 難しい話はあとにして……宴だ!

 その日の昼間、俺は自分の部屋で考え事をしていた。


「氷魔法ね……」


 彼らは成功したものの、大した氷魔法の使い手にはなれそうにない。

 ただし、ヤンさんを含む数名を除いて。


多分、プロセスが多いんだと思う。

魔力で水魔法を作り、そっから体内で氷をイメージして形成、魔力を注いで氷魔法として射出する……。


「それが難しいと言われる所以なのかも」


幸い、俺にはそのプロセスがない。

もちろん、原理を理解しているからだ。

だから魔力消費も低いし、威力も高いと。


「それがないから、宮廷魔導師並の腕じゃないといけないのかも。ライラ姉さんとかは、簡単にやってたし。うーん……まあ、いいか」


生活魔法の一部として覚えてもらえれば良い。

夏は涼しくするためとか、食料を保存するために。


「マルス様? 先程から何を言っているのですか?」

「少し魔法について考えていてね。リンは、雷って知ってる?」

「ええ、神の怒りと言われるものですね」


 俺は手に持っている魔石を空中に放り投げ、再びキャッチする。


やっぱり、そういうイメージか。

この世界には電気という発想はない。

前世でも、昔はそう思われていたから無理もないことだよね。


「雷は氷魔法が使えれば、理論的には……」

「それ、トロールの魔石ですよね?」


 途中で、俺の思考が途切れる。

まあ、良いや。

まだその段階ではないよね。


「うん? ああ、俺が倒したからもらったやつだね」

「何の魔法を入れるのですか?」

「うーん……とりあえず、中級魔法には耐えられるからなぁ」


冒険者ギルドが定めた魔物のランクは、そのまま魔石のランクだ。

大きさや色や形などで判別される。

トロールはD級、ゴブリンはG級、オークはF級といった形に。

魔法を使う上位種などもいるし、不死系や死霊系などもいるいう。

あとは、基本的に魔物は二足歩行らしい。


「誰にもたせるかも重要ですよね。我々では使えないですし」

「獣人には魔力がないからね。ヨルさんかマックスさん……まあ、とりあえず保留しておくよ。それより、いつの間にC級になってたんだね?」

「ええ、ここ最近の狩りのおかげですね。マルス様よりは低いですが」

「……はっ? 俺、最下位ランクなはずだけど?」

「おや? ……そうでしたね、結局冒険者の説明をしてませんでしたね。まあ、簡単に言うと……上級魔法を使えるマルス様は自動的にB級に昇格しましたよ」

「……なにそれ? えっ? 楽しいイベントは?」


こう、徐々に上がっていって……可愛い受付のお姉さんに『はいっ! これで貴方もF級ですねっ! おめでとうございます!』とか、少し強面だけど優しい人に『良いか? こっからが本当のスタートだぜ』とか、嫌な奴に『あんまり調子に乗るんじゃねえぞ!』とか。


「イベントですか……? お祭りのことですかね? 」

「いや……なんでもないよ」


どうやら、俺は知らない間にB級らしい……実際の強さ的にはどうかわからないけどね。

A級でもあるライラ姉さんがいれば、色々わかるとは思うけど。

まあいいか、これで受けられる依頼も報酬も増えるわけだし。


「それにしても魔石ねぇ……」


生活の一部になってるけど……それってどうなってんだろ?

だって女神は邪神を滅ぼしたい訳でしょ? ……よく考えると、変な話だよなぁ。

他にも、獣人と人の関係とか。


「マルス様?」

「ううん、何でもないよ。さあ、ご飯を作りに行こうか」


 面倒なことは、後々考えるに限る。

 まずは、快適なスローライフを目指し……。

 今は——美味しいご飯の時間だっ!






「はいっ! というわけで厨房にやってきましたっ! シロ、頑張るぞー!」

「おぉー!」

「では、シロ。後を任せますね」


 そう言い、リンは準備を進めに行った。

 何故なら今日の夜は、宴を開くことになったからだ。

 俺がきて、約二週間くらい経って……。

 ようやく、少しずつだけど、前に進んできた。

 そこで、細やかだがお祝いということだ。

 あとは、この間の唐揚げ事件で食べられない人から苦情がきたのも理由だ。


「では、俺はシチューを作るね。シロは唐揚げをお願い」

「はいっ! 付け合わせも作りますねっ!」


 横ではシロが手際よく調理を進めていく。

 俺は器用ではないので、包丁で指を切らないように慎重に進める。




 そして……まずは鍋に油を入れ、塩胡椒した骨つきの鳥肉を火にかける。

この骨の太さがあれば、煮込んでも平気だろう。

みたところ、細かい骨はないみたいだし。

やっぱり、前の世界の鳥とは違うよね。


「ふふふ、やっぱりシチューといえばこれだよね」


 ある程度火が通ったら、一度別皿に移す。

 そこに玉ねぎやニンジンなどの野菜を入れ、バターで炒めていく。


うーん……悪くないけど、やっぱり馬乳ではなくて牛乳が欲しいよなぁ。

バイスンを飼育できれば良いんだけど……あと、卵も安定供給したいし……ゲルバみたいな卵を産みそうな奴も飼い慣らしたいなぁ……やることが山積みだ。


「そしたら、粉で炒めて……」


たまに冒険者達が卵を見つけて持ってくるが、それでも貴重品だ。

なんとかして、これもどうにかしたい……親子丼のためにっ!


「これ、なんで粉を入れてるんですか?」

「そっか、いつもはいれてないんだ。道理でとろみが足りないわけだ。こうすると、トロってして美味しいんだよ」

「へぇ〜! マルス様は物知りですねっ!」

「いやいや、先人の知恵ってやつさ……さて、乳を入れて香草も入れてと……これで煮込めば完成だね」


 この工程を他の人にも教えて、それぞれの寸胴で作ってもらう。

もちろん、灰汁取りもお任せしてある。





 俺はその間に、領主の館の前に魔法によって即席のテーブルと椅子を用意する。


「マルス様、こっちにもお願いします」

「ボス! こっちもだぜ!」

「マルス様! こっちもですよぉ〜!」

「主人よ、こちらにもだ」

「ちょっと!? 俺は便利屋じゃないよっ! 一応、領主なんだけど!?」


 俺は忙しなく動いて、指定の場所にテーブルと椅子を用意する。


くそ〜! 流石にテーブルと椅子の数が多いから、俺以外には無理だし!

あれ? 早く、優秀な魔法使いを揃えないと……俺はゆっくりできない!?




 そして……全ての準備が整った。


「はいっ! みなさん! 今日は集まってくれてありがとうございます! ここんところ、皆さんには慣れない生活を押し付けてしまい申し訳ありませんでした! ですが、その有用性は少しですが理解して頂けたかと思います!」


 俺の言葉に、一部の人間が頷く。

 やっぱりまだまだだけど、これからも続ければ……いつの日かね。


「そしてささやかですが、お料理を用意しましたっ! 細かいことは抜きにして——どうぞ召し上がれ!」


「「「ウォォォォ——!!!」」」


 それぞれが、配られた食事を口にする。


「う、うめぇ!」

「なんだ!? これ!? いつもと違うぜ!」

「これはサクサクでうめえし……あの人は何者だっ!?」


(ふふ〜、クリームシチューの違いに気づいたようだね。骨ごと煮込むと味が出るし、とろみをつけたことでその味もまとまる。味が一体化すれば、美味しくなるのは当然だ)



 そんな中、俺は器を持って少し離れた場所に座る。


「どれ……あぁーうまっ……トロってして美味しいし、肉が口の中で溶ける……」


骨からとった鳥の旨味も感じるし、雑味もなく深みを増した……まあ、この辺りは煮込み時間次第かね……ただ、隠し味的なものが欲しいよなぁ……確か、ハチミツって合うよね?



 すると……付いてきたのか、横にリンが座ってくる。


「マルス様、それも美味しいですが……やっぱりこれ美味しいですね」


 どうやら、リンは唐揚げが気に入ったようだ。

 両手で持って、ひたすらサクサクサクと食べている……少し可愛い。


「さて、みんなはどうかな……?」

「特に、今のところ報告はありません。つまり、悪くはないということです」


 何か諍いがあれば、すぐに連絡が来るように徹底している。

 つまりは、そういう事だと思って良いかも。


「そっか……じゃあ、少しはマシになったって事で良いかな?」

「ええ、そう言っても良いかと」


 ……明日で二週間か。


 これからも快適なスローライフのために頑張ろっと!


 ……あれ? なんか矛盾している気がする。

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