第25話 チート本領発揮?
さて……ひとまず、それぞれ離れて鍛錬開始です。
リンの方は……もう始めてるのか。
「へへっ! 恨むなら主人を——グヘェ!?」
「何してんだ! 相手はD級だぞ——ゴハッ!?」
迫り来る冒険者に少しも触れさせることなく、一撃でカウンターを決めていた。
「今はC級ですよ——さあ、次は誰ですか?」
うわぁ……楽しそう。
最近、ストレスが溜まってたんだろなぁ。
書類仕事が得意とはいえ、本来の姿ではないわけだし……。
うん、丁度いいや……リンのストレス解消のため、彼らに頑張ってもらおうっと
えっ? 他力本願だって? だって、俺じゃリンの相手にならないもん!
こちとら、ニート生活が長い肉体なんだよ?
よし、気を取り直して……。
「はーい! 魔法使いの皆さんには、最終的に俺の授業を受けてもらおうと思います!」
流石に、俺が王族だから不満の声は出てこないが……。
その顔は、いかにも不満タラタラって感じだ。
「ふむ……」
やはり、まずは分かりやすい方がいいかな。
特に、魔法使いにはプライドが高い人が多いし。
あと、ここ最近の実験を試すには絶好の機会だし。
「では、まずは好きに魔法を撃ってください!」
目の前にいる十数名に向けて、声を上げるが……。
「ど、どうする?」
「さっきはあんなこと言ったが……」
「撃った瞬間に不敬罪とかで捕まるんじゃ?」
「もしや、それが狙いか?」
めっちゃ、警戒されとる。
「 無論、何があろうと罰することはないですっ! はて……もしくは、自信がない?」
その瞬間——彼らの顔つきが変わる。
よしよし、えっと……嫌な奴をイメージして……。
「 まあ、こんな辺境で燻ってる人たちですしぃ? 自信がないのも無理もないですかねぇ? じゃあ、仕方がないので、才能もある若い冒険者に一から教えるとしますかねぇ?」
「お、俺は好きで燻ってるわけじゃない!」
「本当なら、こんなところにいるはずがないんだ!」
「くそっ! 俺はやる! もう馬鹿にされるのは嫌だっ!」
そして、全員が顔を見合わせて……。
「燃やし貫け! フレイムランス!」
「撃ち砕け! ストーンキャノン!」
「切り裂け! ウインドスラッシュ!」
「弾き飛ばせ! ウォーターショット!
……全員、威力制御共に申し分ない。
流石は、中堅以上の冒険者か。
「うん、実験にはもってこいだね——
俺の前方に、文字通り砂の城が築かれる。
そして、魔法が当たるが……俺に届くことはない。
「なっ!?」
「なんだ!? あの魔法は!?」
「我々の魔法を弾いたぞ!?」
「そんな馬鹿なっ! どんな強度だっ!? 中級魔法だぞ!?」
ふむふむ、期待通りの結果か……やっぱり、複合魔法はないと。
俺が今やったのは、言葉にすれば実に簡単だ。
土の魔法に水を混ぜて、強度を増した壁を用意しただけだ。
多分、これは俺が前世の記憶があること、魔力量が尋常じゃないからできるのだろう。
……なんか、ようやくチートを実感したなぁ。
「あれ? もうお終いかな? ほらほら、もっと撃ってごらん? 今度は、何もしないからさ」
「マルス様!」
「リン! くるんじゃない! 平気だからっ!」
心配そうなリンには悪いけど、これを試さないとね。
「「「ク、クソオォォォ!」」」
破れかぶれか、次々と魔法が撃ち出される!
イメージは魔力を纏う感じで——。
俺は両腕を顔の前で交差し……。
「ハァッ!」
声を上げた瞬間、魔法が次々と直撃する!
「お、おい!?」
「魔法でガードしなかったぞ!?」
「い、生きてるのか!?」
「……うん、問題なしかな?」
土煙の中、自分の体を確認する。
「傷もなし、服に汚れもなし、痛みもなし……やっぱり、そうだったんだ」
俺の推測は正しかった。
「魔力を纏うことができれば、魔法には強くなれる」
ここ数日の間に、俺がずっと試していたことだ。
獣人の彼らは闘気を纏うと、物理攻撃が強くなるし、打たれ強くもなる。
しかし、その反面魔法には弱い。
だから、人族に支配されたのだろうと推測できる。
「俺は、その闘気に疑問を持った。じゃあ、魔力は?と」
魔法を撃つだけじゃなく、それを纏うことができればと。
だって、獣人の彼らは纏っているんだから。
リンと実験して、俺が出した結論は……。
ゲームに例えるなら、俺は魔法防御力が高く、物理防御が低い。
リンは物理防御力が高く、魔法防御力が低いって感じだ。
そして、土煙が消えると……。
「マルス様!」
「うひゃあ!?」
「け、怪我はありませんか!? どこも痛くないですか!?」
「お、お、落ち着いて! ねえってば!」
抱きつかれると、色々と当たるんですよねー!
なんか汗と体臭が混じった、良い匂いがするし!
「い、生きてる……」
「しかも、無傷で……」
「あれは、なんだ?」
やっぱり、みんな知らないのか……
いや、疑問に思わないほどに獣人と人間の関係が歪になってしまったのかも。
まあ、この考察は後にしようっと。
「リン、いい加減離してくれる?」
「はっ——す、すみません!」
「ううん、心配してくれてありがとう。リンの方は……」
リンがいた方向に視線を向けると……、
「グハッ……つ、つえぇ」
「て、手も足も出ないとは……」
「俺ら全員でかかったのに……」
うん、まさしく死屍累々って感じだね……死んでないけど。
「ふふ、完膚なきまで叩きのめしましたよ?」
「……うん、機嫌が良いようで何よりだよ」
「でも、ホネはありましたよ? どうすれば、強くなれると聞いてきたので」
「なるほど、それなら問題ないね。あとはこっちだね」
リンから離れ、俺は魔法使い達に近づく。
「さて、実力の差はわかったかな?」
全員、黙ってコクコクと頷いている。
「君達に同じようにやれとは言わない。多分、難しいから。でも、それに近づけることは出来る。王都にいる連中に、今まで馬鹿にしてきた相手を見返したくないか? 昔みたいに直向きに、魔法を鍛錬してみないか?」
多分、彼らだって最初からこうだったわけじゃないと思う。
環境や状況、立場や年齢によって変容していった人もいるはず。
だったら、もう一度そのやる気を……。
「……お、俺はやる」
「……俺もだ」
「……や、やってやる!」
「「「ウォォォ!!!」」」
顔を見合わせて、全員が声を上げる。
よしよし、これで魔法部隊を作れるかも。
そして、前衛の戦士達も。
ふふふ……彼らには強くなってもらって……。
早いところ、俺の快適なスローライフに貢献してもらわないとね!
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