第24話 いざ、冒険者ギルドへ

 翌朝、朝ご飯を食べた後……。


 ダラダラしていた間に考えてたことを、実行することに決めた。


 ……別に、ただダラダラしてたわけじゃないんだよ?


 これでも、色々と頑張ってるんだよ?





「と言うわけで、お許しください」

「はい? 誰に謝ってるんです?」

「そりゃ、もちろん領民の方々さ。ここんところ、家の中で色々とやってたからさ」

「そうですね……料理に、魔法の鍛錬、お風呂の改造……まあ、いいでしょう」

「とりあえず、一通りは満足したので……やるとしますか」

「ええ、では私の出番ですね」





 リンを連れて、冒険者ギルドを訪ねる。


「お、おい、アレ……」

「ああ、例の領主だろ?」

「王族なのに、獣人を優遇してるとか……」

「また、俺らの仕事を奪いにきたのか……?」


うわぁ〜明らかに警戒されてるね。

それにしても、男しかいないなぁ。

 この世界でも、やっぱり男尊女卑的な考えはあるみたいだ。

 女は家で働いて、戦いは男の仕事だみたいな。

 もしくは、大人しく雑用か魔法を撃ってろみたいな……。


「警戒されてますね」

「まあ、仕方ないよ」


 すると……奥から一人の男性が近づいてくる。  

細くて神経質そうな人で、メガネをかけている。

 多分、四十歳くらいかな?


「マルス様ですね? 何の御用でしょうか?」

「えっと……?」

「マルス様、ギルドマスターです」

「あっ、なるほど」

「申し遅れました、私がギルドマスターのエイスと申します。ご挨拶が遅れて、申し訳ありませんでした」

「ううん、気にしてないよ。それで、どうしたの?」

「そ、それは、こちらの台詞です。一体、何の御用で?」

「うーん……少し、話せるかな?」

「……ええ、ではこちらへ」





 リンと共に、エイスさんの後をついていき……とある部屋に通される。


「まずはお座りください」


 言われたとおりに、エイスさんの対面のソファーに座る。

 リンは、俺の後ろに控えている。


「そ、それでですね……」


なんかくたびれてるし、覇気のない人だなぁ。

まるで、前世で見たことある中間管理職の人みたい。

苦労ばっかりで、あまり得することがないポジションの人みたいに。


「うん、俺たちがきた理由だね。実は、冒険者たち……正確には、ランクの高い人達から不満が出てるって聞いてね」

「え、ええ……申し訳ありません」

「いや、謝ることはないけど……」


なんか、調子狂うなぁ……俺が虐めてるみたいになってるよぉ〜。


「ま、マルス様は……冒険者達をどうするつもりですか?」

「あっ、ごめんね。まずは、それからだったよね。別に彼らの仕事を失くす気は無いんだよ。はじめに、それだけは言っておく」

「ほっ……そうですか」


いかんいかん、今の俺は穀潰しとはいえ王子なんだ。

えらいギルドマスターが怖がってしまうくらいには……。

どうしても、自分の庶民的な感覚が抜けないなぁ。


「コホン! 今日は、頼みがあってきました。主に高位冒険者の方々に」


「それは、どのような?」


「簡単に言うと、覚えて欲しい魔法があるんです。あと、戦闘訓練を受けて欲しいですね」


「し、しかし……中々に扱いにくい連中でして……腕は悪くないのですが、世渡りが下手といいますか、融通がきかないといいますか……王都や、その周辺で上手くいかなかった連中が集まっているのです。ゆえに、なまじプライドばかり高く……まあ、そんな感じです」


「なるほど、それで辺境でくさってるってわけですね。何で、自分がこんな所にとか考えつつも……惰性で生きていると。だから、適当に仕事して生きていると」


「……おっしゃる通りです。そして、私も……その一人です」


偉そうなこと言ってるけど、俺には彼らの気持ちがわかる。

前世の俺もそうだった……仕事はできないのに、世渡りが上手い奴が出世したり……。

それでやる気を失くしてしまって、頑張ることを放棄していた——どうせ、意味なんかないと。


「ならば、やりようはありそうですね。ギルドマスター、協力してくれますか?」

「え、ええっ! 何でも仰ってください!」

「では、主要な人物達を訓練所の方に呼び出してください」

「わ、わかりました! 直ちに連絡をします!」







 一度、領主の館に戻って昼食を済ませると……。


「マルス様! 冒険者ギルドから使いの人が来ましたっ!」

「おっ、そうか。えらいぞ、ラビ」


 部屋に飛び込んできたラビの耳を優しく撫でる。


「ふにゃ〜……」

「ふふふ、これがいいのかい?」

「はい、セクハラですね。ラビ、訴えましょう」

「やめてよっ!? 冤罪だよっ!」

「わ、わたしは……気持ちいいので」

「ほら、ラビもそう言ってるし」

「みんな、そう言わせるんですよ」

「いや、否定もできないけどさ! ……ははーん、仕方ないなぁ」


 すっと近づき、リンの狐耳を優しく撫でる。


「ひゃん!?」

「ぐはっ!?」


 その瞬間——俺は空を舞っていた……おそらく、掌底を受けて。


「あっ——もう!」


 しかし、リンにお姫様抱っこで受け止められ……地面に激突は免れた。

 えっ? キュンとしちゃったんだけど? これ、どんなマッチポンプなの?

 さながらDVを受けた後に、優しくされたかのように……。


「イタタ……」

「い、いきなり触らないでください」

「ご、ごめんごめん……つい、昔の感じで」

「……今度は、前もって言ってくださいね」

「あ、あのぅ……待ってますよ?」


 ラビの言葉で我に返り、俺たちは急いでギルドに向かうのだった。






 訓練所に到着すると、すでに冒険者達が集まっていた。


 視線を感じつつも、俺は彼らの前に立ち……気合い入れて声を出す。


「よく集まってくれましたっ! 俺はマルス! この都市の領主を務めている者です! 今日は、皆さんにお願いがあってきました!」


「な、何だ?」

「奴隷と仲良くしろとかいうのか?」

「俺たちを、この都市から追い出す……?」


まずは、不安を払拭させないと……。


「魔法使いの皆さんには、俺と鍛錬を積んでもらいます! そして戦士の方は、リンと稽古をしてもらいます!」


「お、俺たちに何の得が?」


「何で、そんなことを?」


「理由は、後から説明します! 今の皆さんに言っても理解ができないと思うので!」


「な、なんだ!? それは!?」

「そんな理由で納得しろと!?」


ですよねー、こうなりますよねー。


「もし俺が認めた者には報酬を支払います! リンを倒せた者にも報酬を支払います!」


「……それなら、まあ」

「へっ、お坊ちゃんに思い知らせてやるか」

「あの獣人の女にもな……」

「そんなんで金がもらえるなら安いもんだぜ!」


しめしめ……まんまと乗ってきたね。


 さあ、ここからが本番だ。


 本当の意味で……彼らのやる気を起こさせないとね。

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