国王である兄から辺境に追放されたけど平穏に暮らしたい~目指せスローライフ~

三章 マルス、領地改革を進める

第23話 順調です

　あれから三日……俺は惰眠を貪っていた。

　もうここから出ない、いや一歩も動けない。

　そう、これは正当な権利である。

　何故なら……お布団の魅力からは誰も逃れられないからさっ！

「はいはい、わかりましたから。さっさと起きて、ご飯を食べてください」

「リンが冷たいよぉ〜。昔は、あんなに可愛かったのに。昔は、一人じゃ寂しいから一緒に寝てくれます？とか言ってたのに」

「なっ——！？」

「そうなんですかぁ？」

「そうなんだよ、ラビ。それはそれは可愛らしくて——うひゃあ！？」

　俺は布団を剥がされ、勢いよくベットから転げ落ちる！

「何すんのさっ！ 寒いじゃないかっ！」

「な、何はこっちのセリフですっ！ い、いつの話をしてるんですか！？」

「えっと、あれは確か……」

「お、思い出さなくて良いですからっ！」

「えへへ〜仲良しさんですね〜」

　二人でラビを見て……ほんわかする。

　この子は奴隷だったのに、素直でとてもいい子なのだ。

　臆病なところは相変わらずだけど、それはある意味利点だから良いしね。

ちなみに、この子の仕事は、俺のお世話係兼リンのお手伝いとなっている。

「ラビは、あんな大人になってはいけませんよ？」

「ラビは、あんな女性になってはいけないよ？」

「ふえっ！？ ど、どっちなのですか！？ くすん……」

「………やめましょう」

「………そうだね」

　こうしてラビにより、平和は保たれたのだった。

　仕方なく着替えて、朝食を食べる。

「ズズー……あぁ、あったまる。いよいよって感じだね」

　十一月を過ぎ、いよいよ冬本番になってきた。

　体感的には、十度を下回ってるかも。

　こりゃ、布団から出なくないわけだよ。

「暖炉を置ける場所にも限りがありますし、どうしても廊下なんかは冷えますからね」

「でも、普通の家では問題ないもんね？」

「ええ、ここまでの広さはありませんから。暖炉が一個あればことは足ります」

「あとは湯たんぽとか、壁を厚くしたりって感じだよね。まあでも、これがあれば平気かなって思うけど」

　バイスンの皮で出来た服は、とっても暖かい。

　やっぱり、こいつを常備する必要があるか。

「ええ、今は数がすくないので、来年までの課題となりますね。ひとまず、仮住まいの家は出来ましたし、冬を越すことは可能でしょう。最近は食べているので、体力もついてきてますから」

　先日から、魔法が多少使える冒険者パーティーと奴隷の獣人を使って探索を行っている。

　今のところ順調で、ゴブリンやオーク、ブルズくらいなら狩れるようだ。

　その食料を使って、みんなに昼ご飯を提供しているから、俺の手も空いた。

　このおかげで洋服などを作る人も材料が入るし、魔石を売る人も材料が入る。

　そして、それを買う人がいて、経済が活性化する。

「やっぱり、連携って大事だよね。魔法の威力が低かったり、溜め時間が長かったりしても、頑丈な獣人が時間を稼いでさえくれれば、弱い敵ならどうにかなるし」

「ええ、その有用性を皆が感じて、少しずつ広まっていけば良いかと。いきなりは無理でしょうからね。それにレオとマックスさんがよくやってくれてますよ」

「やっぱり、あの二人に任せて正解だったね」

　お試しパーティには、引き続きマックスとレオが補佐に入っている。

　レオは獣人側を説得したり、人族から無茶な命令を受けないように。

　彼には、俺が名前を与えているので、人族も無視は出来ない。

　マックスさんは人族を説得しつつ、有用性を説くって感じだ。

　いずれ、不満を感じている高位魔法使いや戦士達にも行ってもらう予定だ。

「ええ、あとはシロも頑張ってますよ」

「は、はいっ！」

「うん、これはいいね。物凄くあったまるよ。というか、そんなにガチガチにならなくて良いから。もっとリラックスしてね」

「で、でも、僕みたいな獣人が……」

「はい、それは禁止。威張る必要はないけど、卑屈になることはないよ。現に、俺は助かってるから。これを、皆にも配るとしよう」

「あ、ありがとうございます！」

　シロが用意したのは、赤い葉っぱのようなもので出来た飲み物だ。

　それを細かく刻んで、火に当てて、茹でたものを飲む。

　色が赤いし、少し味もアレだけど、身体がポカポカ暖かくなる。

　漢方薬みたいな感じかな？

　そんなわけで、ようやく落ち着いて自分の仕事が出来ます。

いよいよ完成したというので、それを設置します。

「そりゃー！」

「「「おお〜！！」」」

　はい！ お風呂ですっ！ これで寒さも防止ですねっ！

　これが、以前職人さん達に頼んでいたものです。

俺は、獣人たちの住処の一角に、魔法で穴を開ける。

「じゃあ、力持ちの獣人の皆さん！ お願いします！」

「「「おう！！」」」

　獅子族や熊族などの力持ちが、木で出来たどでかい浴槽を運んで来る。

　これらは、以前森から運んできたものを使っている。

「もっと、右です！ ……そこで！」

　ゆっくりとおろし……俺が開けた穴に収まる。

「では、隙間を埋めてください！」

「「「はいっ！」」」

　兎族や、犬族、猫族などが石や砂を隙間に埋めていく。

「では、人族の皆さん！ お願いします！」

「「「へいっ！」」」

　その周りを作業員の方が、元々作ってあったものを組み立てていく。

　そして……木造の風呂と、木造の建物の完成である。

「皆さん！ ご協力ありがとうございます！ このようにそれぞれ役割を担っていけば、生活は良くなるはずです！ 仲良くしろとは言いません！ ただ、自分に出来ることで協力をしてください！」

「……どうする？」

「いや、でもよぉ……」

「俺は協力する。それで、家族が助かるなら」

「……そうだな、それさえあれば良いな」

「お前のいう通りかもな……よし、やるか」

よしよし、大人達も少しずつわかってきたかな？

「俺たちは……誇り高き獅子族や勇敢な熊族だ」

「でも、腹一杯食べられるようになったぜ？」

「それは……そうだが」

「人間に従うのは嫌だが、それ以上に飢えるのは嫌だ」

「お前、それでも誇り高き……いや、飢えに勝る苦しみはないか」

ウンウン、扱い辛いと言われてる彼らも、折り合いがついて来たかな？

小さいタイプの獣人達は、割とすぐに馴染んでくれたんだけど。

　その後女子用も作り、同じものを人族の住処にも設置して……。

「それでは、水を入れます！」

　手のひらから大量の水を放出し……。

「では、火属性魔法使いの皆さん、お願いします！」

「「「かしこまりました！」」」

　冷遇されていた彼らを使い、風呂を温める。

　なぜ冷遇されていたかというと、森の中では役に立たないからだ。

　日々魔石に火属性魔法を込めて、生計を立てていた。

　これからは、これも彼らの仕事になる。

　そして、待つこと数分……。

「では、お入りください！」

「「「ウォォォォ——！！」」」

　あらかじめ、汚れを落とした獣人達が飛び込んでいく！

「ァァァ！」

「生き返る！」

「気持ちいいぜ！」

　その様子を確認して、俺は扉から外に出る。

「マルス様！ありがとうございます！」

「これで明日も頑張れます！」

「いえいえ、俺は大したことはしてないですよー。これは、皆さんが作ったものです」

　そんな言葉を交わしつつ、領主の館へ歩いていく。

「そう……これで良いはず」

俺が魔法で何もかも解決すればいいってわけでもない。

もちろん、早急な対策が必要な場合は、俺がやることが多いと思うけど……。

俺が死んだ後も、しっかりと回るようにしておくことが大事だよね。

「マルス様、お疲れ様です」

「レオ、迎えに来てくれたの？」

「はい、姐さんに頼まれましたので」

「どう？ 身体は？ 無理してない？」

日々の鍛錬や、リンとの稽古、森に出て狩りの補佐……結構忙しくしちゃってる。

「いえ、 問題はありません。むしろ……俺は楽しいです」

「そっか」

「オレは生まれた頃から奴隷でした。ですが、獅子族の本能は受け継いでいます。多分、こうして暮らしていたのだと……今、実感しているところです」

「なら良かったよ。じゃあ、これからもビシバシ働いてもらうからね？」

「お任せください！ 体力には自信があります！ マルス様は体力がありませんから、代わりに動くとします」

「おっ、いうね……リンの奴の入れ知恵かな？」

「そ、そうです……その方がマルス様がやりやすいと……気を悪くしましたか？」

「いいや、それくらいでいいよ。レオ、頼りにしてるからね」

　そんな穏やかな帰り道を歩きながら、俺は頭を巡らせる。

　……さて、次は何をしようかな？