幕間~マルス~

俺が領地に来てから、一週間が過ぎ……。


少しずつ、状況が変わってきた。


それを整理するために、ヨルさんとリンと話し合いをする。


そして、話を聞くためにマックスさんを呼んである。


「さて、リン。報告を」


「ええ、まずは獣人についてですね。マルス様が定期的に食料を調達してくれることで、みんなも少しずつ元気が出てまいりました。さらには奴隷に休憩を取らせることで、効率が上がることを雇い主が理解しました。そして、獣人はマルス様に大変感謝をしております。自分たちに出来ることがあるなら、なんでも言って欲しいと」


「そっか、それなら良かった。うんうん、頑張った甲斐があったね。でも、まだまだだろうね。ヨルさん、雇い主から不満は?」


「今のところ、概ね好評かと。奴隷を厳しくしないといけないという固定概念が、少しずつ緩和してきているかと。マックス、どうだ? 俺には言えないことも、お前には言ってるかもしれない」


「はっ! 私の目から見ても、それほど不満はないかと! しかし……」


マックスの視線が、俺に向けられる。


「良いよ、なんでも言って。別に俺の悪口を言ってても、それで罰したりしないから」


「い、いえ……」


うーん……この世界では王族は絶対的だ。

法律で設定こそされてないけど、みんな色々言い辛いだろうなぁ……。

誰か、窓口がいたら楽なんだけど……よし。


「マックス」

「は、はいっ!」

「君を実直な人柄と見込んで頼みがある」


レオとのやり取りや、ここ数日の様子を見ても、彼は悪い人じゃない。

少し融通がきかないけど……それでも、人間性は良いと思う。


「な、何なりとっ!」

「これは命令と思ってくれて良い。もし不満を言ってくる者がいたら、すぐに俺に伝えて欲しい。我が名に誓って、それだけで罰するような真似はしないと約束しよう。もちろん、そぁれを意図的に広めたり、扇動するようなら話は別だけど」

「マルス様……」

「マックス、マルス様を信じろ。この方は、理不尽な行いはしない」


再び、マックスの視線が向けられるので、しっかりと目を見て頷く。


「……はい。実は、冒険者達から不満が出てまして」

「うんうん、どういったことかな?」

「自分達の仕事を奪うのかと……戦士の冒険者達が、見張りの仕事が減ってると……高位の魔法使い達や、主に上にいる者達が不満で……下位の冒険者を優遇したり、奴隷ばかりを優遇させていると……」

「なるほどねぇ……」


こっちも既得利益か……自分達が今まで得ていたものを手放したくないと。

しかし、その気持ちはわかる。

彼らは兵士と違って、自分達で稼がないといけない。

彼らだって生活がある……うん、それも一応考えているけどね。


「わかった。こっちの方でも、色々考えてみるね。悪いけど、それまでは不満を抑える役目をしてもらって良いかな?」

「はっ! 了解致しました!」

「うん、ありがとね。ごめんね、嫌な役目を押し付けて」

「いえっ! 滅相もございません!」

「きちんと、手当は出すからね」



朝の会議が終わったら、だらだらする。


「休憩って大事だよねっ!」


「マルス様?」


リンの冷たい視線を感じるが、今日の俺は一味違うのさっ!


「リン、まずは上の者が示さないと。だから、俺はこうしてソファーで横になっているわけだよ。こうすることによって、下も休んで良いと思うのさ。というわけで、これも俺も仕事のうち」


「ハイハイ、わかりましたから。そんなに言い訳がましく言わなくても。大体、貴方は昔からそんな感じでしたよ。私が出会った頃から、今までずっと」


俺の言葉を遮って、リンが早口でまくし立ててくる。


「まあね……でも、最近は頑張ってるよ?」


「ええ、もちろん理解してます。ご褒美でも要ります?」


「じゃあ、膝枕で」


最近、前世の記憶が馴染んできたからか……。

昔からやってたことが、恥ずかしくなくなってきたなぁ〜。


「め、珍しいですね……ここ最近は、そう言ったことを言ってなかったのに」


「うーん、まあ……ほら、俺も思春期じゃない? 少し恥ずかしくなったんだよ」


「なるほど……そうですよね、マルス様も成人になったのですよね……」


りんは照れながら、なにやらしみじみとしている。


「それで、してくれるかな?」


「ええ、もちろんです」


俺はリンの太ももに頭を乗せ、引き締まった足を堪能する。


「そっか、もう五年も経つよね。昔は足も細かったのに、今では逞しいし」


「マルス様?」


「い、いや、悪口じゃないよ? 俺は気持ちよくて好きだし」


「そ、そうですか……なら、良いんです」


リンは、いわゆるモデルさんみたいな体型で胸は普通だけど、それが似合う感じだし。

個人的には、その人にあったサイズが一番だよね。


「どう? リンも休めてる?」


俺の髪を撫でつつ、リンが微笑む。


「ええ、私は……貴方の側にいれば幸せですから」


「そっか、ありがとね。でも、無理はしないでね? リンがいないと、俺は怠けちゃうよ?」


「ふふ、そうですね。では、しっかりと見張ってないとですね」


ひさびさに、俺とリンは穏やかな時間を過ごすのだった。


……たまには良いよね?





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