第21話 ど定番ですね
皆が昼食を終え、雇った人たちが片付けをする中……。
身も心も温まった俺達も、頑張って仕事をすることにする。
「さあ! みなさん! どんどん運んでください!」
運んできた木を獣人が解体して、それを人族が加工していく。
「まずは、家がない方を優先的に! 人族だろうが獣人族だろうが関係なく!」
そう、今やってるのは家造りですねっ!
この寒空の下、家もない方々もいる。
掘っ建て小屋でも、ないよりはマシなはずだ。
本格的なものは、もっと材料と時間があるときに作ることにする。
ひとまずは、この冬を越せれば良い。
あと一ヶ月も過ぎれば、徐々に暖かくなるからね。
「マルス様もどうぞ!」
「おっ、ありがとね……ふぅ、あったまるね」
「えへへ、良かったです! 皆さんもどうぞ!」
シロは走り回り、作業している方々に暖かい飲み物を配っている。
ちなみにラビは弓を覚えたいらしく、暇を見ては練習をしてる。
レオやベアは、その体格を使って木を運んでいる。
「マルス様」
「うん? ヨルさん、どうしたの?」
「あちらに木が分けてありますが、何に使うのですか?」
「ふふふ、よく聞いてくれました! では、行きましょう!」
「へっ?」
「ヨルさん、諦めてついて行きましょう」
「は、はぁ……」
場所を変えて、ヨルさんの案内で俺は職人さん達を訪ねていた。
「それで、こうしたモノを作って欲しいんですけど……」
「なるほど……その周りにも……ですね」
「ええ、その場で作るのは難しいので、組み立てるというか……」
「それなら何とかなりますが……重たいですよ?」
「それに関しては問題ありません」
こうして、話はまとまった。
あとは、五日ほど待ってくれと言われたので待つだけだ。
その後は、ひとときの安らぎの時間を過ごす。
「ふぁ……良い湯だね」
「ああ……しかし、俺も入って良かったのか?」
「うん、今日から君も俺の仲間だからね」
あの後、ベアは正式に俺が買い取った。
なので、今日からここに住まわせるってわけだ。
今は親睦を深めてるところですね。
「ふん……人族の最高権力者である王族とは思えんな」
「まあ、変わり者で有名だからね」
「自分でいうか……クク、面白い奴だ。しかし、今更だが言葉遣いは丁寧にした方がいいか?」
「いや、好きにしてくれて良いよ。別にレオにだって、強制したわけじゃないから」
「そうか、それを聞いて安心した。では、そうさせてもらおう」
日が暮れる頃……いよいよ、アレである。
「シロ! リン! 準備はいいかー!?」
「おっ、おー?」
「シロ、無理しないで良いですからね」
「いやいや、ここは大事です」
何せ、今からゲルバを解体するからです!
「マルス様も参加するんですか?」
「うん、今日は俺も作るのさ」
「うわぁ〜! 嬉しいですっ!」
そっか……ラビは俺を起こしたり、色々手伝ったり……。
レオは狩り行ったり、都市の中で一緒に行動したりしてる。
でもシロとは、こうやって接することはなかったかも。
「よし! じゃあ、作りますか!」
「はいっ!」
「仕方ありませんね、付き合いますよ」
「あれれー? そう言いつつも、尻尾が揺れてますけど?」
「あっ! ほんとです!」
「くっ……別にいいじゃないですか。私だって、楽しみなんですから」
ふふ〜相変わらず、照れ屋さんのリンなのでした。
「さて、まずは解体できたね」
二メートルを超える身体なので、中々大変だったけど……。
「リンさん! すごいです!」
「やっぱり、リンがいると早いね」
「ふふ、どうも」
刀を振り回して、あっという間に部位を切り分けてしまいました。
細かいところは、三人でやって……。
胸肉、モモ肉、手羽元、手羽先、肝系、ハツ系などに分ける。
「マルス様は、何を作るんですか?」
「ふふふ、よく聞いてくれました! それは——唐揚げです!」
「……唐揚げですか?」
「……聞いたことないですね」
この世界にあるかどうかはわからないけど、少なくとも俺は見たことも食べたこともない。そもそも、ゲルバが貴重な魔獣らしいから、中々出回らないしね。
「別に簡単なものだよ。じゃあ、やっていこうか」
醤油、ニンニク、ごま油、みりんと酒を入れて……。
さらに隠し味に果汁を絞り、切り分けたモモ肉に漬け込む。
「その間に油を注いで……火にかける」
それにしても、調味料の類は揃ってるんだよね……。
粉物もあるし、野菜や穀物もある。
食べる物のカサ増しや、まずい食材を美味しくするために工夫を凝らしたのかな?
バイスンみたいな美味しい肉が常時狩れたら、そんなに味付けもいらなかったかも。
「その前までは、どうやって生活してたんだろうね……」
「マルス様?」
「ああ、ごめんね。どうしたの?」
「あの、残りの素材はどうしますか?」
「そうだね、悪いけど半分は俺がもらうよ。残りは、シロ達が好きに使ってくれていいよ」
「えっ!? マルス様が倒したのに、いいんですか!?」
「うん、もちろん」
「あっ、一人じゃ食べる前に腐っちゃいますしね」
「うん? ……ああ、その心配はないよ——フリーズ」
今日使わない部位を瞬間冷凍させる。
「へっ?」
「また、常識はずれなことを……」
「そうだ、すっかり忘れてた」
今は食材が足りない状態だから、保存とかは気にしなくて良かった。
でも、これからはそういったことも考えないと。
今は冬だから良いけど、夏になったら大変なことになるよね。
「うーん、これを扱える人も少ないから……教えるとしますか」
もしくは地下に保存室を設置したり、氷で出来た貯蔵庫を作ったり……。
「リンさん、マルス様はずっと唸ってますよ?」
「ほっときましょう。きっと、そのうち慣れますから」
そんなことを考えてる間に……。
「うん、もう良いね……投入!」
漬け込んだ肉に粉をつけ、油の中に入れる!
ゴァァァ!!という懐かしき音が、俺の腹を刺激する。
「うわぁ……! 豪快ですねっ!」
「なるほど、こんな使い方もあるのですね」
この世界では揚げ物料理を食べだことがない。
どうしても、大量に作れる煮込みや、焼いたりすることが多いからかも。
前の世界でも、唐揚げを食べるようになったのも意外と最近だったりするしね。
「ふふ〜これからは、色々作るからね」
「どこで、こんな知識を?」
「そこはほら、俺は文献を読んでいるし」
「はぁ……あのダラダラした時間も、無駄ではなかったんですね」
「……酷くない? いや、間違ってないけどさ」
そして、色がついたら完成だ!
「油をきって……良いや! 食べちゃお!」
本当なら時間を置くところを——カブリと噛み付く!
「っ〜!! これだよっ! これっ!」
ニンニクと醤油の効いた肉の味!
揚げたことで凝縮された旨味!
サクサクという、何者にも変えがたい食感!
「お、おいひいですっ!」
「これは……美味しいですね」
「ふふ、見たかね? これが唐揚げなのさ」
でも、そうなってくると……マヨネーズも欲しいよね。
さて、まだまだスローライフへの道のりは遠そうだ。
だが俺は諦めないっ! 待っていろっ!
ちなみに……パチパチという音に惹かれてか、レオやベア、ラビやマックスさんまできて……終いにはヨルさんまで。
もう面倒なので、館にいる人や、街行く人を捕まえて……。
「カァー! うめぇ!」
「酒に合うなっ!」
「こんな美味いもん食ったことねえよ!」
やはり、働く男たちには好評のようだ。
「お母さん! サクサクしてて美味しいねっ!」
「これ、作り方を教えてもらえるのかしら……?」
ウンウン、いくらでも教えますよ。
そして……結局、呑んで騒いでのお祭り騒ぎとなってしまった。
ほとんど使い切っちゃったけど……みんなが幸せなら良いよね。
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