第29話 ドタバタ騒ぎ

 ……さて、どうしよう?


 運動会の、大玉転がしに使うくらいの大きさの巣があって……。


 その周りを、黒くて大きな蜂と白い蜂がブンブンしてるんですけど?


 ぶんぶんぶん、蜂が飛ぶ……そういや、そんな歌もあったね。


 おっと、いけないいけない……今の若い子は知らないかも。





「ねえ、あれってどうやってとるの? やっぱり、あいつらをどうにかしないとだよね?」

「ああ、そうだ。しかしタイミングが悪いな……ちょうど餌を取ってきて、それを幼虫や女王に与えてるようだ。守りの者と餌を集める奴が一緒にいる」

「色が違うよね?」

「確か……黒が守り担当で気性が荒く、白が餌を持ってくる担当で……何もしなければ穏やかな性質だと聞いたような……すまん、俺も久々でな」

「女王蜂は?」

「クインビーなら、巣の中で交尾しているな。奴らのほとんどはメスだからな」


 ふんふん、その辺りは変わらないと。


「ただ、キングがいないな」

「はい? キング?」

「ああ。オスの中に一匹だけ繁殖もせずに生きる個体をキングビーという。そいつは群れに近づく大型の魔獣や魔物から巣を守っている。なので、その大きさは一メートル近い……幸い、今はいないようだな」


 ふーん、地球とは違うのかぁ。

 あっちでは、オスは交尾するから中から出ないし。

 ふむ、他の魔獣から守るために進化したってことかな。

 しかも冬なのに元気だし……そもそも、あれは何のハチ?

 蜜があるってことは蜜蜂? うーん、よくわからん。


「オレ、あいつら素早いから苦手なんだよな」

「レオもあるの?」

「一度だけ狩りに連れていかれた時に……囮にされたので」

「そっか……今回は、みんなでやろう。力を貸してくれるかい?」

「マルス様……うすっ!」


 ……そういや、ラビが静かだな。

 と思ったら、プルプルしてるや。


「ラビ、平気?」

「わ、わたし、初めて見ました」

「ラビは前に出ちゃダメだからね?」

「で、でも、役にたってません……戦えないし、マルス様のお世話だって失敗してばかりで……くすん」


 あらあら……まあ、確かに。

 起こす時に転んで、俺にボディプレスをかましたことはあるけど。

 あとは、物を割っちゃったり……でも、まだ十歳の女の子だもんね。


「充分に役に立ってるから。大丈夫、少しずつ出来るようになれば良いよ」

「マルス様……えへへ、ありがとうございます」

「そうですよ、ラビ。マルス様なんか、最近まで何も出来なかったんですから」

「……どうしよう、否定材料がない」

「ふふ、さて……マルス様、さっきみたいにはいかないですよ?」

「ん? どうして?」


 魔法でドバーン!ってやるつもりだったけど……この場合は風魔法かな?


「安定して手に入れたいなら、殺してはダメです。中々珍しい魔獣でもありますし、ベアさんがいるとはいえ、そうそう見つかるものでもないですし」

「うむ……今回は、ラビの耳のお陰で見つかったがな」

「えへへ〜お役に立てて良かったです」


 ラビはベアに撫でられ、ご機嫌の様子だ……実に微笑ましい光景である。


 多分、俺とラビの会話を聞いての行動なんだろうね〜中々気遣いができる人のようだ。


「なるほどね……うまく殺さずに済めば、別の所で新しい巣を作るってことか」

「ええ、そういうことです」


 殺さずに無力化ねぇ……養殖とかしたいけど、あんなん怖すぎるわ。

 食べてみたい気もするけど、今はハチミツ優先だし。

 さて……この世界の魔法には、睡眠とか麻痺っていう便利なものはないし……蜂の弱点か。もし、前世と同じなら……やりようはあるよね。


「ベアは、他にも何か知ってる?」

「うむ、多少はな。母から聞いている」

「弱点ってあるの?」

「弱点……いや、待て……生前の母は、雨の日に取ると良いと言っていたはず」

「ふむふむ……なら、どうにかなりそうだね」

「何か作戦でも?」

「うん……リンが一番素早いよね?」

「ええ、もちろんです。一番強いのも私ですが」

「相変わらず、頼もしいことで。じゃあ、俺が奴らの動きを封じるから、アレを斬ってくれる?」

「落とすと? そんなことしたら、中から飛び出してきますよ?」

「そいつらも、俺どうにかするよ」

「……まあ、マルス様を信じるのも私の仕事ですね。では、どうぞ」

「ありがとう、リン。みんな、すぐにても逃げれるようにしておいてね」


 三人が頷くのを確認して……。


「降り注げ——滝の雨ウォーターフォール


 俺の決めた範囲内を、豪雨が降り注ぐ!

 まさしく、集中豪雨にように。

 その効果はてきめんで、エイトビー達の動きが鈍っていく。


 直接巣には当てないように、殺さないように……このくらいの威力でいいかな?


「……よし! 今のうちに!」

「もう! 私だって痛いですよっ!」

「大丈夫! 道は作るから! 」

「わかってます——行きます!」


 豪雨の中の隙間を走り、リンが巣に近づき……。


「シッ!」


 目に追えない速さで、抜刀すると……ボトッと巣が落ちる。


「チチチ!」

「チィー!」


 中から、エイトビーが飛び出してくるが……すぐに俺の魔法で身動きが取れなくなる。


「リン! 魔法を止める! すぐに投げて!」

「くっ! レオ! 受け取りなさい!」

「へいっ!」


 リンが投げた巣をレオが受け取ると……。


「そうなるよね!水鉄砲ウォーターショット

「チチチ!」

「チチッ!?」


 巣から出てきた奴を、低威力の魔法で弱らせる。


「よし!」


 特訓の成果だねっ! 大分、威力調整にも慣れてきたっ!


「レオ! 君は気にせずに走って! 出てきたら俺が撃ち落とす!」

「おう!」

「ベアはラビを!」

「うむっ!」


 二人はすぐに走り出し……俺は飛び出してくる個体を撃ち落としていく。


水の散弾ウォーターショットガン


「では、私がマルス様を」


 戻ってきたリンは、俺を抱えて走る態勢になる。

 その後ろからは……。


「チチチー!」

「チチッ!!」


 俺の魔法から復活した個体が、明らかに怒り狂っている。


「リン!」

「わかってます——しっかり掴まってくださいねっ!」

「うひゃあ!?」


 身体にジーがかかり、ジェットコースターに乗っているかのような感覚に襲われる!


 そして、あっという間にレオに追いつく!


「姐さん!? 速すぎですって!」

「レオ! モタモタするな! 後ろから来てるぞ!」

「チチチー!」

「うげぇ!? これ、重たいんすよ!」

「レオ! いくよ!」


 リンに背負われてる俺は、レオの後ろに土の壁を出現させる!

 奴らはそれにぶつかり、おそらく地面に落ちただろう。


「今のうちに!」

「ボスッ! 俺を見捨てずに……ウォォォォ——!!」

「リン! 殿をするよっ!」

「はいはい、仕方ありませんね」






 そして……何とか逃げ切ることに成功する。


「あぁ——! 怖かったっ!」

「め、目が回りますぅ〜」

「ははっ! ビビったぜ!」

「うむ、久々の感覚だ」

「どうやら、無事に逃げきれましたね」


 ふふふ、これで——ハチミツゲットだぜ!


 思わず、頭の中で某ポケモ○マスターと相棒が浮かぶ。


「ピッ、○カチュー!」

「……えっと?」

「ボス?」

「何だ?」

「ほっときましょう、ただの病気です」


 仕方ないじゃないかっ! こちとら元アラフォーなんだからっ!


 ご機嫌になった俺は、意気揚々と都市へと向かうのだった。






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