第19話 材料集めです!
次の日、俺はある二人を呼び出していた。
「レオ、マックスさん、わざわざすまないね」
「いえ、俺は構いませんが……ボス、何事ですか?」
……ちょっと待って。
「ボスって何?」
「いえ、姐さんの主人なので、何て呼べばいいか迷いまして……ダメですか?」
「い、いや、別にいいけど……まあ、領主だから間違ってないのかなぁ」
「コホン! 私とこやつですか……何をなさるので?」
まあ、いきなり仲良くはなれないよね。
「実は、今日からお昼ご飯を奴隷達に与えようと思ってるんだ。もちろん、街の人族にもね。これは領主としての政策だと思ってくれていい」
昼ごはんを作って食べるのだって、時間がかかる。
これがなくなれば、結果的に仕事は捗るし、余裕ができる。
そして、領主としてお母さん達を雇うことによって、生活の足しにもなる。
そして、お金を使う余裕もできる。
これにより経済が活性化すれば、税金も増えていくだろう。
そういったことを、掻い摘んで説明すると……。
「なるほど、素晴らしい考えです」
「ええ、レオに同意します」
「うんうん、そう言ってくれると嬉しいよ。それで、二人には今日から狩りに出かけて欲しい。獣人族と人族の混合パーティーで」
二人は難しい顔をして唸っている。
……この二人が嫌だと言ったら、この作戦は上手くいかない。
俺は焦らずに、返事をじっくり待つことにする。
そして、五分ほど経つと……二人が顔を見合わせて、それぞれ頷く。
「わかりました。マルス様に誓います。ひとまず憎しみを抑え、協力すると」
「私も同じく。奴隷を不当に扱うことだけは絶対にいたしません」
「ありがとう、二人共。じゃあ、早速行動開始と行こうか」
先に二人に、それぞれ仲間を集めに行ってもらう。
「マルス様、私たちはどうしますか?」
「もちろん、最初はついていくよ。緊急事態になったら対処しきれないからね」
俺も仕事がなかったり、手の空いている獣人族や人族を連れて、都市の入り口に向かう。
そこでは、人族と獣人族が気まずい空気の中、一箇所に集まっていた。
「マルス様、ひとまず揃えました。一応、憎しみが少ない奴らです」
レオの後ろには、熊族などの屈強な獣人族がいる。
「マルス様、こちらもです。偏見が少ない者を集めました」
マックスの後ろには、魔法使いや戦士達がいる。
多分、ランクは高くないけど……それで良い。
それでも、この気まずさだもんなぁ。
やっぱり、根強いよね……。
「マルス様、後ろの者達は?」
「彼らは荷物運び用に雇ったんだ。森を切り拓いて、木材を持って帰ってもらう」
「なるほど……我々は、その護衛ということで?」
「マックスさん、正解だね。レオ、理由はわかるかな?」
「……守るために連携をする必要があるかと」
「そういうこと。いきなり上手くいくなんて思ってないから。というわけで、お試しってことで」
ひとまず、彼らが先に出発して……その後を俺たちがついていく。
森に入ると……ラビが反応する。
「きます!」
「わぁ!? きたっ!」
「ヒィ!?」
戦えない者達が騒ぎ出すが……。
「慌てるな! ゴブリンごとき敵ではない! 皆の者! 二対一に持ち込んで、確実に仕留めろ!」
基本的に人族は弱い……しかし、それを数と連携で補う。
そして、協力して魔物を仕留める。
「勇敢なる熊族よ! 敵を蹴散らせ!」
「オオゥ!」
熊族の者は、その太い腕で……一撃で仕留める。
その姿はまさしく熊に近く、厳つい顔、逞しい肉体、二メートル以上の身長。
彼らも扱いが難しいとされる獣人の一種だ。
暴れられたら手がつけられないから、迂闊に仕事も任せられない。
しかし、レオの説得により、何とか了承してくれたようだ。
「いや〜すごいね」
「ええ、彼らが力を貸してくれるなら心強いですね」
その後あらかた片付いたら、獅子族や熊族が木を根元から抜く。
その間の警戒はラビを含む兎族が……。
魔物や魔獣が出てきたら、冒険者達が魔法や武器で仕留める。
「ウンウン、まさしく適材適所ってやつだね」
そのまま、すんなりいくかと思ったけど……そうはいかないようだ。
「マルス様! 何か大きな生き物が来ます!」
「レオ! マックス! 戦えない者達を守って!」
「「かしこまりました!!」」
それを確認し、リンと一緒に前に出る。
そして……ズシーン……ズシーン……という足音が聞こえる。
「これは……」
「どうやら、木を抜く音に釣られてきたようですね——トロールです」
落ち窪んだ醜い顔……三メートルを超える身体と相撲取りのような肉体。
全身は緑色に染まっており、その口元からはよだれが垂れている。
こいつが、トロールか……
高位の魔物の一種で、熟練の冒険者でないとダメージすら与えられない。
何より、食人鬼として有名だ。
その強さ以上に、それが恐れられているらしい。
「あっ——あいつ、何かを持ってる?」
何と、片手で生き物を引きずっている。
「あ、あれは……ゲルバですっ!」
……あれがそうなのか。
「つまりは、《《鶏だな?》」
その姿はダチョウに近い……しかし、鶏肉の味がすることは知っている。
記憶を取り戻す前に、食べたことがあるからだ。
「も、もうダメだっ!」
「だから言ったんだ!」
「落ち着け! 負けることはない!」
人族が騒ぎ出す。
「俺がやる!」
「落ち着け、ベアよ」
「しかし、俺かお前でないと……」
「まあ、見てるといい」
獣人達も、何か言っているが……。
「ゴガァァァァ!!!!」
目の前の化け物が、大きな口を開けて威嚇する。
「マルス様! しっかりしてください!」
俺が俯いていると、リンが前に出ようとする。
「リン、退いて」
「へっ?」
「良いから」
「は、はい……」
俺はそいつを見上げ……。
「ウインドプレッシャー!」
「ゴガバカァ!?」
風の重圧により、奴の身体は潰れる。
「な、何という威力……マルス様、ここまでなんて……」
あっ——そういや、リンの前で実際に上級魔法を使うのは初めてだった。
「おおっ! 見たかっ!ボスの力を!」
「「「ウォォォォ!!」」」
「皆の者! 見たかっ! あの方についていけば間違いない!」
「「「おぉぉぉ——!!」」」
何やら、みんなが騒いでいるが、今の俺はそれどころじゃない。
「ふふふ、手に入れた」
実は俺、前世では鶏肉が一番好きだったんだよね!
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