第18話 意識改革?

 俺たちが、都市を出ようとすると……。


「あれ? ヨルさん?」


 兵士数名を連れたヨルさんが、門の前で待っていた。


「マルス様、お待ちしておりました。マックス、挨拶を」


「はっ! お初目にかかります! 私の名前はマックスと申します! ヨル殿の副官を務めております!」


 これまた、元気マックスな人が現れたなぁ。

 地味な顔だけど、身体もでかいし、レオくらいありそう。


「どうも。えっと、それで……?」


「本日も狩りに出かけるとお聞きしたので、この者たちを連れて行って欲しいのです」


「どうしてかな?」


 そこでヨルさんが、俺を端に寄せ、こっそり耳打ちをしてくる。


「実は……彼らは、この都市でも有力な家の者でして……獣人に対して酷い扱いこそしてませんが、マルス様の行いに疑問を抱いています」


「ふんふん、それで?」


「そこで、彼らを連れていくことで、獣人の有用性を感じて欲しいと思っております。荷物運びや清掃や雑用ばかりをさせては勿体ないと。私も、マルス様のおかげで目が覚めました。リン殿が、あんなに優秀だとは……指揮能力、管理共に文句のつけようがございません」


 ヨルさんは、俺がいない間にもリンと話し合いをしてるんだっけ。

 館の外側はヨルさんが、中はリンがっていう感じで……。

 その際、色々と気づいたのかもしれない。

 どうしても長年の歴史があるから、そういうものだと思い込んでいたのかも。


「うん、そうなんだよ。彼らの能力を発揮させてあげれば、色々と変化を起こせると思うんだ。もちろん、人族にしか出来ないこともあるから、そこは協力しあっていかないとだけどね」


「ええ、我々は協調性があったり、組織を作ったり、頭を使うことに長けていると思います。もちろん、魔法を使えることも」


「うん、そうかもね。わかった、じゃあ連れていくとするよ」


 人は良くも悪くも流されやすい……。

 きっと、変えなきゃいけないって思ってる人はいると思う。

 ただ、それを言うことで迫害をされることを恐れてる。

 人と違うってことは、異端なことだと……でも、俺なら言える。

 この王子という立場なら……そして、社畜として辛い経験を積んだ俺なら、その意識改革が出来るかもしれない。




 ひとまず、皆のところに戻ると……。


「マルス様の守りはオレの役目だっ!」

「薄汚い獣人ごときに任せられるかっ!」

「き、貴様に何がわかる! オレが好き好んでああなっていたとでも!?」


 ……早速、喧嘩してるよぉ〜。


「リン、どうしたの?」

「自分達が後衛なのがお気に召さないようですね」

「なるほど……はいっ! 喧嘩しないっ!」


 二人の視線が俺に向けられる。


「レオ、喧嘩腰は良くないよ」

「し、しかし!」

「うん、君の気持ちは嬉しい。人を憎むのもわかる。でも俺に免じて、その気持ちを少しだけ抑えて欲しい……だめかな?」

「い、いえ……すみませんでした」

「ううん、謝ることはないよ。その気持ちを否定はしないから」


 すると……。


「ふん、みたことか」

「はい、君も良くないよ。俺の役に立ちたいと思ってくれるのは嬉しい。でも、言い方が良くない。今日のところは後ろで見てて欲しい……いいかな?」

「……わかりました」


 はぁ……疲れる。

 けど、まずは知ることから始めないと。

 俺の快適なスローライフのために! ……とほほ、いつになるやら。





 昨日と同じようにフォーメーションを組み、森を進んでいき……。


「何か来ます!」


 ラビが反応し……。


「各自! 警戒を!」


 リンが声を上げ……。


「僕がマルス様を!」


 シロが、俺の横に立ち……。


「オレが前に出ます!」


 レオが、全員の前に出る。


 そして……。


「ゲギャキャ!」

「フゴー!」


 通常のゴブリンやオークが現れるが……。


「オラァ!」

「シッ!」

「アースランス」


 一瞬で、葬り去り……。


「みてください! これ、食べられますよっ!」


 道中で、シロがもの拾いをし……次々とレオの背負ったカゴに入れていく。


「う〜ん……こっちかな?」


 ラビが音を聞き。そちらにいくと……。


「行きますっ!」


 ホーンラビットがいたので、リンが一瞬で間合いを詰め始末する。

 また、ラビが反応し……ブルズがいたので、俺が魔法で仕留める。

 それをレオが肩に担ぐ。


「うむ……」

「す、すげぇ……連携が取れてる」

「俺たち人族では無理な方法だ……」


 よしよし、やっぱり見てもらうのが一番良い。

 どんなに俺が言ったところで、実感がないとね。

 俺が命令すれば、良くなるかもしれないけど、それじゃあ意味がないし。




 そして、一度引き返すことにする。


 その間も彼らは神妙な表情で、何やら考えている様子だった。


 日が暮れる前に、都市に到着すると……。


「マルス様、お帰りなさいませ」


「ただいま、ヨルさん。今回は、大物はいなかったよ。彼らがいるから、少し早めに切り上げたし」


「いえ、十分かと。マックス、どうだ?」


「……力がなく役立たずだと思っていた犬の獣人が、匂いを嗅いで食べ物を選別すること……怯えてばかりの兎の獣人が、敵の気配や音を感じること……逆らってばかりで、我が強い獅子の獣人が、しっかり連携を取っていること……悔しいですが、有用性を感じてしまいました」


「そうか、それがわかったなら良い。あとは、己と折り合いをつけるんだ。マルス様は、我々をも救おうとしている。その邪魔をしてはならない」


「うん、別に獣人を特別扱いするつもりはないから。人族にも幸せになってもらわないと」


「失礼な態度をとり、申し訳ありませんでした……レオとか言ったな?」


「お、おう」


「……すまなかった。ひとまず、お前の力は認める」


「ふん……受け取ろう」


 二人は渋々ながらも、握手を交わした。


 まあ、少しはマシになったかな?





 さて、早く館に帰ってのんびりしたいところですが……。


 まだ、やらなくてはいけないことが残ってるよね。


「はいっ! しっかりやって!」


「な、なんで、私がこんなことを……!」

「我々は選ばれし者なのに……」

「こんなのは、俺たちの仕事じゃない!」


「何故ですか? 貴方達が普段食べてる物は何ですか? ここにある作物ではないと?」


 そう……たった今、ギルドにいた成人した魔法使いを使って、畑仕事をさせています。

 傲慢さを隠しきれない彼らを、半ば強制的にやらせてます。

 だって、こっちのが早いもん。それに、お金はきちんと払うし。


「そ、それは……」

「でも、魔法を使える我々は特別なのに!」


 はぁ……どこの世界でも、特権階級っていうのは……。


「別に魔法を使えるから特別というわけじゃないですよ。それは料理が上手だったり、走るのが早かったり……その中で、君たちは魔法が得意というだけです」


 しかも、中途半端に使える人ほど傲慢な感じだよなぁ。

 きっと、それが己のプライドを保つ術なんだろうけど。


「そ、そんな……」

「マルス様ほどの魔法使いが……」


 うーん、これは厳しいなぁ。

 さて、次のところに行こうかな。




 場所を変えて、様子を見ると……。


「わぁ! すごいねっ!」

「私達の魔法でも、役に立つんだねっ!」

「俺、頑張ります!」


 畑を土魔法で掘ったり、水魔法で水を与えたりしている。

 ……どうやら、成功のようだ。


「リン、どう?」

「悪くないかと思います。成人未満で、下級魔法しか使えない彼らですが、畑仕事をする分には問題ありません。何より、仕事があるだけありがたいと言っています」


 そう……こっちは一般よりは使えるけど、冒険者としては使えない人達を集めた。

 パーティーから外され、役立たずと言われていた子達だ。

 若い分だけ柔軟性もあるし、魔法が特別なものではないと、するなり受け入れることができたようだ。


「よしよし……」


 これで稼げない冒険者達を潤わすことができる。

 それに若い彼らが変わることで、大人達や次の世代に影響するかも。


「何より、これで作物が育つ」


 つまり、食材が増える。


 ふふふ、待っていろ! 快適なスローライフ!


 ……くるよね? ……がんばろっと。

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