第16話 宴じゃー!

 帰る頃には日も暮れ始め……。


 夕日に照らされつつ、俺たちは凱旋した。


 そう、正しく……魔王を倒した勇者のように歓迎される。




「おいおい!?」

「見てみろよっ!?」

「バイスンだよっ!」

「二頭もいるわよっ!?」

「領主様が、今日も大物を持ってきたぞぉぉ——!!」

「「「うぉぉぉ!!」」」


 ……めちゃくちゃ盛り上がってますねー。

 いや、気持ちはわかるけど。


「はい! どいてどいて! 後で、皆さんにも配りますから!」


 押し寄せてくる人々に呼びかけつつ、歩いていると……。


「マルス様! ご無事でなによりです!」


「ヨルさん、ただいま。悪いけど、説明をしておいてください」


「わかりました。では、このまま進みください」






 ひとまず、領主の館の前にバイスンを置いてもらう。


「レオ、お疲れ様。みんなもありがとね」

「い、いえ!」

「こ、こちらこそ!」

「ひゃい!」

「ふふ、良い働きでしたよ? マルス様、まずは彼らをギルドに連れて行ってもいいでしょうか? 冒険者登録をさせようと思います」

「うん、良いよー」

「では三人とも、付いてきてください」


 リンに連れられて、三人は街の中へ向かっていった。


「んじゃ……俺は、みんなにご褒美を用意しておこうかな」


 領主の館には、広い庭というか、スペースがある。

 そして、ここは俺の自由にして良いと書いてあった。


「つまり、好き勝手にしても良い場所ってことだ」


 えっと、まずは土魔法で穴を開けて……深さはこれくらい?


「広さは、七、八人くらい入れればいいかなー」


 まあ、最悪後でどうとても出来るし……ひとまず、適当でいいか。


「これに水を入れて……火で温めて……土魔法で蓋をすると」


 うん、これで良いね……あっ、眠くなってきた。

 今日も働いたもんなぁ〜。


 俺はベンチに座って、うつらうつらしながら……夢の中へ。









 ……あれ? なんか、気持ちいい……?


 モフモフしたものを触ってる……?


「ひゃん!?」


「へっ? ……リン?」


「お、おはようございます……」


「あれ? 寝ちゃったのか……」


「ええ、驚きましたよ。風邪をひいてはいけないと思い、こうして膝枕をしつつ、尻尾で温めておりました」


 なるほど、モフモフの正体はこれか。


「あ、あのぅ……あまり触られると……」


「ご、ごめん!」


「い、いえ、久々だったので……以前は、よく触っていましたよね?」


「あぁーそうだね。でも、シルクに怒られちゃったから」


 肌を触るようなものですわっ!って言われてしまったし。


「ふふ、相談しましたからね。べ、別に嫌なわけじゃないんですよ?」


「うん、わかってる」


「その……たまになら良いです」


「じゃあ、そうするね」


「ところで…アレはなんですか?」


「うん? ……あっ、忘れてた」


 ひとまず起き上がり……説明する。


「なるほど……きっと喜びますよ」


 ……リンの尻尾が揺れてる。


「リンも入っていいからね?」


「は、はいっ!」


「ウンウン、リンには世話ばかりかけてるからさ」


「い、いえ……さて、まずは食事にしましょう。寝ている間に、みんなが手伝ってくれてますから」


「そうなの?」


「ええ、人間も獣人も一緒に。勝手ながら、マルス様の名前を使わせて頂きました。仲良くしなかったら、バイスンをあげないと……」


「なるほどね。うん、それくらいならいいよ」


「じゃあ、行きましょうか」




 リンの後を追って、広場に出てみると……。


「おい! これはどこ……にやればいい」

「そ、それは、そこにお願いします!」


 人族に指示してるのはラビか……。


「なんだと!?」

「や、やんのか!?」

「やめんかっ! マルス様のお気持ちを無駄にするのかっ!」


 喧嘩を止めているのはレオか……。


「おい、これはどうやって食うんだ?」

「はいっ! それはですね……」


 人族と一緒に調理しているのはシロか……。


「多少強引でしたが、この形にさせて頂きました。これで仲良くなるとは思っておりません」


「うん、そうだね。そんなに簡単に上手くいったら、とっくに良くなってるもんね。でも……悪くない光景だね。別に仲良くする必要もないしね……要はお互いに理解し、尊重しあえれば良いんだから」


 住み分けというか、適切な距離感とか……うん、そういうのも大事だ。

 仲良しこよしが、正しいわけでもないし。


「あっ! マルス様だっ!」

「ありがとうございます!」

「これだけあれば、全員に行き渡ります!」


 俺に気づいた住民達が、次々とお礼を言ってくる。


「別に、俺だけの力じゃないから。さあ、まずは——宴じゃー!!」


「「「オォォォ——!!!」」」


 あちこちで、涙を流しながら食べる獣人がいる。

 酒を飲み、肉に齧り付き、歓喜の声を上げる冒険者達がいる。

 家族で肩を寄せ合い、噛みしめるように食べている人達がいる。

 流石に全員がお腹いっぱいとはいかないけど、ある程度は満足に行き渡るだろう。


「マルス様! これ!」


 シロが、俺に骨つき肉を差し出してくる。


「おっ、ありがとね」

「拾った物で香草焼きにしましたっ!」

「なるほど、頂きます——ウマッ!」


 噛んだ瞬間に溢れ出る肉汁!

 スパイスが効いてる味付け!

 噛むたびに旨味が口の中で弾ける!


「えへへ、良かったですっ!」

「これ、雑草を使って?」

「はい、それと一緒に焼くことで旨味が閉じ込められたり、柔らかく仕上がるんです!」

「シロはどこでそれを?」

「ぼ、僕は……調理担当の奴隷で……美味しそうな素材が捨てられてて……調理法を思いついても、それを言ったら怒られて……」

「そっか」

「それに、お腹が空いても自分は食べられないし……教えても意味ないのかなって思って……でも、マルス様のおかげで食べられるようになって……うぅ」

「ほら、泣かないでよ。幸せな時は笑えば良いんだよ」

「グスッ……はいっ!」

「ほら、シロも食べてきなよ」

「いってきますっ!」


 シロが走り去り……。


「ふふ、懐かしいですね」

「うん?」

「私も、シロのように思ってました。逆らっても、意味なんかないと」

「そっか……埋もれてる才能がありそうだね」

「ええ、それも狙いでした」

「なるほどね、頼りになること」

「いっぱい勉強しましたから。さあ、まずはお腹いっぱい食べましょう。野菜も果物もありますからね」





 その後、みんながお腹いっぱいとはいかないが、満足して帰っていく……。


「さて、レオ、シロ、ラビ。今日から、君たちは俺と一緒に暮らしてもらう」


 全員の顔が驚愕に染まり、口をパクパクさせているが、あえて無視する。


「というわけで、とりあえず付いてきて」


「ほら! 行きますよっ!」


 三人は困惑しつつも、大人しく付いてくる。





 そのまま領主の館に行き、蓋を外すと……。


「はいっ! まずはお風呂ですね!」


「「「へっ?」」」


「マルス様、このままでは混浴になってしまいますよ?」


「それもそっか……よし」


 真ん中に壁を作って、その周りも土も壁で囲む。

 これで即席の露店風呂の完成だ。

 今度、扉も含めてきっちりと作ってもらおうっと。

 ……別に残念だなんて思ってないんだから!


「はい、どうぞー」

「マルス様、ありがとうございます。ラビ、シロ、行きますよ」

「「はいっ! マルス様、ありがとうございます!!」」


 リン達が入ったら、蓋をする。


「レオ、行くよ」

「へいっ!」


 俺たちもはいり、入り口を塞ぐ。

 そこで裸になり——湯船に浸かる。


「ふぅ……気持ちいい〜」

「マルス様、いい湯ですよ」

「うん、蓋をしてたからあったかいしね。それにしても……景色も最高だ」

「ふふ、今日は星が見えますね」


 すると……静かだった彼らが騒ぎ出す。


「お、お風呂って気持ちいいんですね!」

「うわぁ……わたし、初めてです!」

「お、俺もです……ウォォォ——!」


(ウンウン、みんな喜んでくれて何よりだね)


 さて……少しは、スローライフに近づいてきたかな?

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